06.彼は眷属と出会う
こっからですねー
あらすじ:もふもふ
『カームの森』はイース平原の南部、始まりの街アルスティナからは東南東に広がる森のフィールドで鬱蒼と生い茂った木々が特徴である。
俺は木漏れ日が差す森の中で、生息している薬草や山菜を集めている。
「……今日はそこそこ採れたなー」
しゃがんでいた体を起こし、解すように伸びをする。
油断して言いようなレベル帯の森ではないが、ここの森はMobの沸きが激しくないので比較的安全に採取が出来る。
仮に敵に見つかっても速攻で逃げれば問題ない。
ゲーム開始から今日で五日目。
イナサからこの森を紹介された俺はアルスティナからこの森に初日以来通っている。
目的は戦闘以外でのスキル上げ。イナサによるとこの森には採取物があり、プレイヤーもそんなに来ないのでお勧めらしい。
本来Mobを倒して手に入れるお金も採取物を売れば少しは足しになる。
(戦闘出来ないからポーション使わないし、武具の耐久を直すのにお金使わないからなー)
初日にイナサの鉄剣を借りてみたが、ダメージが1だった時は呆れるのを通り越して笑ってしまった。森を走り薬草や山菜を集めていく。
ピコーン。
軽い電子音が俺の耳元で鳴る。
「……おー。レベルアップかー」
手を振って薄青色のウィンドウを開き、その上に指を走らせてスキルを確認する。
スキル画面を操作しレベルゼロで尚且つ熟練度ゼロのものを省いて表示する。
【軽装】Lv8【見切り】Lv7【ダッシュ】Lv9【索敵】Lv9【隠密】Lv4【察知】Lv5【採集】Lv8【調教】Lv20
隠密以外は初期にポイントを5ポイントずつ振ったものだ(ただし調教は除く)。
先ほど上がったのは採集らしい。スキル名の横の熟練度バーが空になっている。
行動によりそれに対応したスキルの熟練度がたまりある一定まで貯まるとレベルアップする。
(あーと、もうすぐダッシュもあがるなー)
スキルを確認したついでにアイテム欄も確認し集めた草花や初期に配布されてから減ってないポーション類を見る。草まみれのアイテム欄を眺めると何とも言えない気分になる。
「……今日は帰るかー」
そろそろアルスティナに帰る事にし、注意深く森の中を進んでいく。
森に出現するMobは兎や猪の動物型と芋虫の昆虫型の計三種類で、気をつけるのはそこそこ攻撃力の高い猪ぐらいである。
因みに三体とも撫でたり今手に入る食料アイテムを与えたが懐かなかった。
(芋虫はともかく兎や猪は仲間にしたかったなー)
一メートルはあった芋虫のぶにぶにした感触を思い出し肌が粟立つ。
「……ん?」
モンスターの気配を感じ足を止める。普段なら索敵すると同時に避けるように進路をとるのだが今回は少し違う。
(何のモンスターだ?)
リクの【索敵】はLv8。完璧に分かるとはいえないがそれでもこの森のモンスターならばある程度は分かる。
だが捕捉した気配は覚えの無いものだ。危険があるかもしれないが、カームの森に入って初めての事態なので正直興味がある。
「……んー。危なそうなら逃げればいいかなー」
俺は未確認の気配に近付く事に決めた。不意打ちや逃走を警戒して用心して木々の間を音を立てないように抜けていく。
(……この辺りか)
苔むしった一本の木を背後にして、気配だけでなく視覚でもモンスターを探す。
そして俺は『それ』を発見した。
最初は白い毛玉かと思ったが、よくよく見ると白い子狐の魔物だと確認できた。丸まって動かない子狐にそろりと近付く。
微動だにしない魔物の様子に俺の中で疑問が浮かぶ。
彼我の距離が手を伸ばせば触れられそうな所まできたとき、子狐の体に走る傷が目に飛び込んでくる。
断裂的な呼吸を繰り返す子狐の頭上には、真っ赤に染まったHPバーが見て取れる。
何故かは分からなかった。
俺は何かに突き動かされるようにアイテム欄からHP回復用のポーションを実体化させ、子狐の傷付いた箇所に優しくかけていく。
静かに流れる時間の中、俺は無心でポーションを実体化しては注いでいく。
ピクリと子狐の耳が微かに動く。ふさふさの尻尾が揺れ、ゆっくりと目を開ける。
丸めていた体を一度起こし、俺の前に来てすとんと腰を落とす。てっきり逃げ出すものとばかり思っていたので、俺は驚いて目を丸くする。
子狐は琥珀のような瞳で真っ直ぐに俺を見つめる。
(……なるほどね)
俺は何の根拠もないのに確信を持って子狐を見る。この子は俺が仲間に出来るモンスターだ。そして仲間にする方法も漠然と分かる。
「……」
俺は恐る恐る子狐に手を伸ばし、その白い毛並みを優しく撫でる。
それまでじっとしていた子狐は俺が撫でると嬉しそうに鼻頭を擦り付けてくる。
ポーン。
機械音と共に俺と子狐の間にウィンドウが現れる。
《魔物の名前: 》
俺は暫く悩み、ふと浮かんだ言葉が口をついて出る。
「――『朽葉』」
子狐は此方の瞳を真っ直ぐ見つめ、
「きゅっ!」
嬉しそうに一鳴きする。どうやら気に入ってくれたようだ。
「……ん。よろしく、くちは」