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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第三章 夏イベ 腐龍編
66/88

11.彼は皆と島を巡る2

 お待たせしました。

 俺達は先程の浜辺から少し離れた洞窟の前に集まっている。

 地図を見ると、この洞窟は浜辺よりもお屋敷から離れている。

「ふーん、《サルンの旧坑道》ねぇ……。ジャン、何か見える?」

 入り口をしげしげと観察するユーナが暗視持ちのジャンに訊ねる。

「……いや、何も見えないな」

 目を細めるジャン。

 近今のゲームはシームレスが基本であり、フィールドからダンジョンの中を窺う事が出来る。

 また、マップ切り替えの読み込みで、突然敵が目の前に現れるといったことも無いらしい。

 混んでる時のサーバーはホント地獄だったぞー。という親戚のお兄さんの言葉を俺は思い出しながら、俺はソラに話を振る。

「さて、どうしますか?」

「そうだね。イベントマップだから敵とかの情報が無いのが痛いね」

 台詞とは裏腹に大変そうには感じないお気楽な笑みでソラが言う。

「陣形はどうします?」

 アリシアがこちらを窺う。

「輪形でいいと思う。真ん中に年少組でどうかな」

「……私が先頭じゃないのです?」

「うん。ダンジョンの構成が解らない以上、盾は回復職ヒーラー優先でいこー」

 俺の台詞にオカリナが眉尻を下げる。

「す、すみませんっ。私が足を引っ張ってしまって」

 勘違いして俺達に謝るオカリナ。

 そんな謝り癖のある彼女にどう声を掛けようか悩んでいる内に、アリシアが真剣な声音で言う。

「オカちゃん。それ禁止です」

「えっ?」

 アリシアは指を立てると唇に添える。

「自分を卑下する言葉は自分も周りもダメにします。謙虚と卑屈は別物ですよ。それに――」

 アリシアは目線を彷徨わせながら、

「と、友達にはそういう事を言って欲しくないのです」

「! う、うんっ!!」

 お互いに顔を赤くする二人を生温かい目で見ていたら、アリシアが恥ずかしそうに睨んできた。

 俺は肩を竦めてその視線を受け流すと、オカリナに向き直る。

「盾と回復職はパーティの要だと俺は思ってる。だから君ら二人が無事ならパーティの生存率も上がると思うんだ」

 特別扱いではなく、パーティの為だと彼女に伝える。

「要、ですか? でも蘇生魔法使えませよ?」

「大丈夫、大丈夫。ソラさん達は上手いからそうそう死なないよ。それに一撃死するようなエリアならまだ攻略が早いって事だから気にしなくていいよ」

「わ、分かりました。が、頑張りますっ!!」

「大丈夫、大丈夫」

 固くならなくてもいいのになあと見ていると、アリシアが胡乱げな視線を俺に寄越す。

「お兄さん。やけにオカちゃんに優しいですよね……。そういえばナギさんにも優しいですし」

「人それぞれに見合った対応をしてるだけだよ」

 俺の知り合いの貴重な常識枠は大切にしないといけない。

「ほうほう。……ん? 私、優しくされた覚えが無いのですが……」

「……人それぞれに見合った対応してるだけだよ」

「明らかにさっきとニュアンス違いますよねッ!?」

「さー。皆いこー」

「お兄さんッ!?」

 俺は彼女の叫びが聞こえなかった振りをして逃げたのだった。



  ◆



 サルンの旧坑道。

 元々は炎の力を宿す結晶の採掘地であったが、 本土――俺達が普段過ごしている大陸、その西部に位置するサンドゥル火山に火龍が住み始めてから状況が一変。

 地形を豹変させる程の力を持つ火龍の影響により、火山でも上質な石が手に入るようになったからである。

 人々は手間や経費を掛けて孤島にまで来る必要がなくなったのだ。

 その結果寂れていったのだと、坑道攻略前の情報交換で屋敷組が教えてくれた。

『それが理由の半分ね』

「半分?」

『ええ』

 言葉をおうむ返しにするユーナにチーム通話の先で魔女が頷く気配がする。

 チーム通話は一対一のフレンド通話とは異なり、複数で会話が出来る通話で、今回のイベント限定のものである。

 パーティ通話やギルド通話が元からあったが、そのチーム版である。

(……運営も頑張るなー)

 わざわざ新規の通話設定作ったり、同じチームでパーティを組んだら有利な効果バフが付くようにしている。

 運営がプレイヤー間の交流を陰ながら促しているのが窺える。

(そういやコハネがそんな事言ってたなー)

『どうやらその坑道に大型モンスターが住み着いたみたいなのよ。それをどう対処しようかという矢先に件の火山が活性化したようね』

「ふむふむ。都合が良かったのですね」

 アリシアが相槌を打つ。

 その傍らを歩くオカリナが声を震わせながら、

「……お、大型モンスター、ですか?」

『十中八九、ボスエネミーだと思います』

 マリーが皆の予想を代弁する。

 その言葉にユーナとアリシアは顔を輝かせる反面、オカリナはより一層身を縮ませる。

 極端な反応をする女性陣にソラは苦笑しながら屋敷組に聞く。

「ボスに関する情報はあるかな?」

「あと坑道自体の情報も欲しいな」

 ジャンが付け加える。

『……そうね。ボスに関してはまだ何も言えないけれども、坑道の攻略に関してはあるかしら』

『もしかしてアレですかお姉様? でもフレーバーの可能性もありますよ?』

「…………」

 何か聞いてはいけない台詞を聞いた気がしたが、流しておく。

 俺はちらりと周囲の顔を確認する。

 ソラ達は、またか。みたいな困ったような表情をしており、アリシアは口を開けて驚いている。

「口開いてるぞー」

 折角の美人が台無しなので、通話上ではなく声に出して指摘する。

 彼女はこちらを向くと、

「……まさかの血縁ルート発覚ですか?」

「どちらかというと百合の香りがする方かもな」

 通話ではないのでお互い言いたい放題である。

 普段の八重歯が魅力的な笑顔を苦笑に変えながら、ユーナが俺達に言う。

「……あの子女学院出身なのよ。だから尊敬する年上の事をそう呼ぶのよねぇ」

 舎弟が兄貴分をアニキって呼ぶ感じだろうか。

「成る程。私がお兄さんをお兄さんって呼ぶ感じですね」

「……尊敬、してる?」

「はいはい。してますしてます」

「雑っ」

 期待はしていなかったが、せめて取り繕って欲しかった。

 顔に出ていたのか、俺の方を向いたアリシアが苦笑しながら、

「尊敬しているのは本当なのですよ? コハネさんから色々と話は聞いてますから」

「ほー」

「まあ、最近はそんな人がもう一人増えてお腹いっぱいですが」

「ほー?」

 誰だろうか。

 考える前に、硬直から復活した『魔女』が話を続ける。

『……坑道で採れる結晶は少しの火でも爆発するくらい繊細なものらしいわ。生き埋めになりたくなければ炎属性の攻撃は控えるべきね』

『火気厳禁』

 リューさんが言う。その言葉で危険物標識を思い浮かべる。

「生き埋め……」

 またしてもオカリナが顔を青くする。

『……流石に生き埋めは言い過ぎだけれど、それに準するトラップがある可能性はあるわ』

「俺もそう思います。一度の失敗でダンジョン攻略不可は重すぎますからね」

 ソラが頷く。

 俺も地形変化する程の大規模な影響はないと思う。

 でも用心するに越した事はない。

「……今回あーたんはお休みだな」

「にゃう?」

 炎を操る俺の眷属は、腕の中で目を擦って俺を見上げる。

 寝てていいよ。と俺が言うと彼女は小さく欠伸をしてまどろみに身を委ねる。

 撫でてやると髭を震わせた後に脱力する。

 視線を感じて顔を上げると、皆が俺を見ていた。

「ん? どしたん?」

「いや、死んだ魚の目以外も出来たんだなあって」

 ソラの言葉に皆が頷く。

「……あっそ」

 俺自身も目つきの悪さを自覚しているので何も言い返せず、ただ俺は皆の言う所の死んだ魚の目を更に濁らせるのだった。

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