05.彼は仮想空間に光明をみる
いつもより少し長め。
あらすじ:産廃とシスコン三度
最初の街『アルスティナ』は大陸の中央に位置し、東西南北に大きな街門を有している。
それぞれの門の外には様相異なるフィールドが広がり、それぞれのフィールドにポップするMobには適正レベルが存在する。
まだゲームを始めたばかりの俺達は、適正レベルの一番低い東エリア『イース草原』に辿り着いた。
目の前に広がる緑に眼が眩む思いがする。風を受けて波打つ草原は、本物の海原のように太陽を受けて艶やかに輝く。
「綺麗だよね……」
隣に立つコハネも景色を眺めてそう呟く。そして俺に顔を向けて、
「お兄ちゃんにこの世界を見せたくて、《Unlimited Online》に誘った部分もあるんだ」
俺はコハネの金髪に手を置き、優しく撫でる。
「……そか。ありがと」
「んっ」
コハネにしては珍しく普段の俺のような短い返事。照れているのかもしれない。
「おーい! 二人ともここに居たんだなッ!」
前方から嬉しそうな声と共に一人のプレイヤーが走ってくる。
燃える赤色の短髪を持つイケメンが俺達の前で止まる。現実世界と殆ど変わらない殴りたくなるくらい爽やかな顔に俺は左手を軽く上げる。
「……お、湊か」
「おう! この格好の時はイナサだな。理紅は.....まんまリクなのな」
お前らしいな。とイナサは肩を竦めてみせる。その仕草が剣士然とした格好で様になっている。
「二人して突っ立って何してたんだ?」
「……ん。見惚れてた」
「コハネちゃんに?」
「はいっ!!そうですよっ!!」
「……違う」
イナサに蹴りをコハネに手刀を軽く叩き込み黙らせる。
「あっはっは! んじゃ早速戦おうぜッ!」
三人で歩いて近くに湧いたMobに向かう。頭の後ろで腕を組んで歩きながらイナサが俺に聞いてくる。
「そういやリクは何の武器スキルを選んだんだ?」
「あ、それ私も気になってたんだっ! 見たところ何も装備してないから」
UOではポイントを振った武器スキルの中からランダムで武器が初期装備として一つ送られる。
これは振ったポイントの量に関係無く、選んだ武器スキルからランダムなので、普通は武器スキルは一つだけか二つに平等に振る。
しかし俺は、
「いや、選んでない」
「「…………は?」」
二人が絶句する。先に復帰したイナサが俺に近付く。
「リク。ちょっとスキル画面見せてくんないか?」
「……ん」
イナサにスキル画面を見せる。硬直から立ち直ったコハネもスキル画面を覗く。俺を挟むようにして二人が言葉を交わしていく。
「あーと、他はわりとちゃんとしてるな。武器スキルが無い以外は」
「そこが一番の問題なんですけどね。しかもスキル構成をみる限り生産職でも無いですよね」
「スキル構成的に接近戦闘職だな。【火炎魔術】とかの神秘スキルも無いな」
「攻撃出来ない戦闘職って何ですかね? カカシですかね? サンドバックですかね?」
βテスターからの有り難い言葉に涙が出そうだ。
「……そんなに酷いか?」
「【盾】が無いから劣化回避盾職みたいな事は出来るな」
「お兄ちゃん。……これじゃあただのカカシだよ」
「……ちょっと待ってくれ」
言いたい放題だが、俺にだって言い分がある。
「……俺はモンスターを使って戦いたいんだ」
その為に五十あるスキルポイントの内、【調教】スキルにわざわざ二十振り、レベルを二十まであげた。
その俺の言葉に二人は即座に目を逸らす。俺は首を傾げ二人を交互に見る。
あれ、俺何か変な事言ったか?
コハネが俺を見上げ、沈痛な面持ちで言い放った。
「……あのねお兄ちゃん。【調教】スキルは産廃スキルなんだよっ!!」
「……そーなのか?」
「お兄ちゃんは何でいつものテンションなのさっ? 少しは慌てようよっ!」
キャーキャー騒ぐコハネを抑えつけ、イナサに問いかける。
「……説明よろしく」
「【調教】はかなりピーキーなスキルらしくてな。最初からモンスターを所持していないからスキルが伸ばせないらしい」
「……捕まえればよくないか?」
「それがモンスターによって捕まえ方が色々あるらしくてな」
食べ物をあげたり、懐くまで撫でてあげたり、倒したら起き上がって仲間になるらしい。
しかも同じ方法でも必ず仲間に出来る訳ではないらしい。不人気過ぎて攻略も出回っていないらしい。
俺は試しにイース平原に出現する狼型のMob『ワーハウンド』を撫でに行ってみる。
「……ほーら、よしよし。……ッ!……こ、こわくないこわくない」
「わーっ! わーっ! お兄ちゃんが死んじゃうーっ!! 《ラピッドショット》ッ!」
「《スラッシュ》」
白いエフェクトを纏った矢と黄色いエフェクトを纏った片手剣がワーハウンドに突き刺さる。
「キャウゥンッ!!」
ワーハウンドの頭上に表示される緑のHPバーが消失し、ワーハウンドが微かに光るとポリゴン片へと砕ける。
ワーハウンドの口から解放された俺は二人に近付きお礼を言う。
「……助かった。ありがとう」
「お兄ちゃんのHPバー真っ赤だよっ」
コハネが呆れている。イナサは爆笑している。
「……さよなら。わんこ」
俺はウィンドウを開き、公式サイトを閲覧する。
「何見てるのっ?」
コハネが後ろから覗いてくる。俺はその映像をコハネに示す。
それは犬型や猫型のMobに囲まれたプレイヤーの映像で、和やかな雰囲気のゲームのテスト映像だった。
「かわいいねー。……ああ、分かった」
コハネはぽんっと手を打つと映像を指差し、
「理想」
ついーと指を動かし俺の前まで持ってくる。
「現実?」
妹に見透かされてぐうの音も出ない。イナサも映像を見て頷く。
「ふーん。こんな風にしたかったのか。ん、でも何で?」
「それはお兄ちゃんが現実世界で動物に嫌われてますから」
「……ああ」
二人が憐れみを含んだ視線を此方に向ける。その眼は止めて欲しい。
「どうする? キャラ作り直すか?」
イナサの言葉に数秒考えた後俺は答える。
「……続ける。色んな生き方が出来るのがこのゲームの遊び方だし」
そうなると。
「……コハネすまん。一緒に遊べなくて」
理想的なスキル構成をしたコハネ達と明らかに趣味全開のスキル構成の俺とでは、一緒に狩りをしたりするのが難しい。
コハネもそれは分かっているからか軽く笑い、
「大丈夫だよっ! お兄ちゃんがおかしいのは知ってるしっ!」
最近妹が反抗期なのか疑う時がある。それに。とコハネは続けて桜色の唇を綻ばせる。
「お兄ちゃんが楽しんでくれたら私も嬉しいもんっ!!」
訂正。やっぱり妹は天使だった。