04.彼は仮想空間に降り立つ
あらすじ:シスコン再び
目を開けると大きな街の石畳の上に立っていた。
俺は周りを見渡す。近くのレンガ造りの建物を触り、石畳をつま先で軽く叩き、街の花壇の花を観察する。
「……凄いな。以前潜ったときは頑張れば違和感を感じる事が出来たのに、今じゃ全然現実世界と区別がつかない」
これが技術の進歩かー。と感慨深く思うとともに、一年半前初めて他のゲームで仮想空間に潜った時もこんな風に驚いていたのを思い出した。
(しっかし賑やかだねー)
街の中は様々な格好をしたプレイヤーとNPCが自由に歩いたり雑談している。ぼけっと行き交う人々を見ているだけでふつふつと胸の高鳴りが抑えきれなくなる。
(紅羽との待ち合わせの場所に急ごう)
俺はひとりで頷くと歩き始めようと足を浮かせる。
「あの、貴方もしかして一人ですか?」
凛と澄んだ声に浮かせた足を降ろすタイミングを完全に見失う。そちらを見ると目に飛び込んできたのは透き通る黒髪を持つ美少女が立っている。
「あー、といきなり声掛けてびっくりさせてしまいましたね。さっきまでの様子が見えて初心者さんなのかなぁと思ったんです」
「…………あー」
俺は自分の行動を思い出す。確かに言われたら先程までの行動は、初めてVRMMOを始めて、途方に暮れているプレイヤーと思われても仕方がない。
(というかUOは初めてだから間違いじゃ無いんだよなー)
「…………初めてだけど妹と友達も一緒にログインしてるんです。気を使ってくれたのにすみません」
「いえいえ。こちらが勝手に声掛けただけなので気にしないでください」
彼女が首を振るとその動きに合わせて黒い髪がさらさらと流れる。彼女は桜のような唇を綻ばせ柔らかく微笑み、
「一緒に遊ぶ人がいて良かったです。もし縁があったらその時は一緒に遊びましょう」
俺に手を振って黒髪の少女は去っていった。こちらも軽く手を上げ返して、待ち合わせ場所に向かう。
向かっている途中、俺の頭の隅に強烈なまでの彼女の艶やかなまでの黒髪が焼き付いていた。
◇
街の中央に位置する巨大噴水に到着した。
(確かここが紅羽との待ち合わせ場所だなー)
噴水は一つしかないから大丈夫っ!!と力説していたから間違えてはいないはず。キャラクターは細部は弄れるけど元は現実と同じだから見たら分かるはず。
(あれ、そう考えるとさっきの女の子は現実でも美少女かー)
しかも困ってそうな初心者を助けようとする優しさまで持っているとは。
考え事をしていた所為で服の袖を引っ張られていることに気付かなかった。
「お兄ちゃん?」
「……紅羽、か?」
俺の目の前に金髪エルフ美少女がいる。
「お兄ちゃんっ!!」
「……うわっ!」
エルフ少女が抱きついてきた。一瞬驚いたがよくよく見ると紅羽の面影はきちんと残っている。
ただ金髪だけならともかくエルフ耳のインパクトが強過ぎて焦ってしまった。
「お兄ちゃんだと思ったけどいつもより目に生気があったから別人かと思ったよっ!!」
「……俺も一瞬分からなかったな。外見色々と変えれるんだなー」
妹に失礼な発言をぶっ込まれた気がしたが、気のせいだろう。
「獣耳とか体格とか。少し制限はあるけど結構見た目変えれるんだよ? お兄ちゃんどうせ面倒だと思って変えてないんでしょっ」
「……うん」
妹に行動を見透かされてぐうの音も出ない兄の図。
「あ、お兄ちゃん! ここでは私のことは『コハネ』って呼んでねっ!」
コハネが俺にフレンド申請を送って来たので承認しつつ返す。
「……おー。分かった」
「じゃあ湊さんが待ってるからレッツゴー!!」
当然のように俺の腕にべったり抱きつき、俺を引っ張り進んでいく。
(視線集めてるなー)
コハネの綺麗な容姿により嫉妬と好奇の視線が俺に突き刺さる。
(妹なんだかなー)
とか思いつつされるがままについていく俺はそんなに嫌がってないのかもしれない。