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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第二章 クリムゾンリバレート
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20.彼は彼女達から相談される

「……えっと、本当にいいのかなー?」

 グレンライト鉱石を手に持ちながら、ハルが俺達におずおずと尋ねる。

「うム。この中で一番頑張ったのは嬢ちゃんじゃからナ」

「そーそー。俺達は付き添いみたいなものだし、この攻略のメインは二人だからねー」

 俺もジグに同調して頷きながら、自分の頭に出来たコブをさする。

 ロアを倒した事で現れた採掘場。ジグがその採掘をしている間、興味津々で周りをうざったいくらいうろうろしていたらジグに怒られた。

 コブはその時に落ちた雷の後である。

 その後俺達はガンフォルドに帰還し、今は酒場の一角に座っている。

 今は今回のドロップ配分をしている所で、余ったグレンライト鉱石をどうするのか話し合っていた。

 ハルは彼女に譲ると言う俺とジグから目を離し、確認を取るようにユキトを見上げる。

 彼はその躊躇いがちな視線に気付くと優しく微笑み、

「素直に貰っときな」

「……うん。二人ともありがとう」

 ハルはようやく笑顔になると嬉しそうにする。

「それじゃあ、パーティー解除するね」

 パーティーリーダーをしていたユキトがウィンドウを操作する。

 電子音と共にパーティーが解消された旨が皆に伝わる。

「あ……」

 ハルが何か言いかけるが、ちらりとユキトを窺うと口を噤む。

「うム。お前さん達楽しかったゾ。また言ってくれれば力を貸すぞイ」

 ジグがそう言って待ちきれないように早足で自身の工房に向かう。

「……長老。手に入れた素材を早く使ってみたいんだな」

「あははっ。ジグさんらしいね」

 俺とユキトが顔を見合わせて笑っていると、ハルが唐突に声を上げる。

「あー! 私ジグさんにお願いしたい事があったんだった~! ユッキー達はここで待っててね」

 そう言うや否や姿の見えないジグをパタパタと走って追いかけて店を出る。

「ユッキーって呼ばないで! ってもう行っちゃった」

 やれやれとユキトが頭を振る。しかし疲れた顔を思案顔になり呟く。

「……いや、この方が都合がいいかな」

 彼は俺に顔を向けると、真剣な顔で俺に言う。

「リク。今日はありがとう」

「……長老を紹介した事。だけじゃないよな?」

 その様子だと他の意図も含まれている事が察せる。

「実はさ。ロアに挑んだのは今回が初めてじゃないんだ」

「へえ」

 それは初耳。

「前回は失敗してさ。その時にハルの奴、パーティーを組んだ人からお前が原因だって糾弾されたらしいんだ」

「それは――」

 辛いな。

「僕はハルだけが悪いとは思わない。皆大小あれどミスはしていたし、前衛の連携が噛み合っていない時だって多かった。チーム全体のミスだと思う。ただ、ハルがたまたま目立つ失敗をしただけなんだ」

 ユキトは自身の事のように苦しげに言う。

「その事があってからハルは鍛冶師探しやパーティー募集に消極的になってさ。多分、また同じ事を繰り返すのが恐かったんだと思う」

 鍛冶師探しに数日も掛けていた原因はそれか。

「だから今回楽しく冒険出来て良かった。きっと今まで見たいに知らない人と組んで事務的にクリアしたとしても駄目だったから。だからさっきのはそのお礼」

「そっか」

「うん。……あははっ。何だか照れちゃうね」

「言うな」

 ユキトが恥ずかしそうに後頭部に手を回す。口に出されると改めて認識してこっちまで恥ずかしくなるから止めて欲しい。

「どうしたのー二人とも? 変な顔になってるよ~?」

 帰ってきたハルが首を傾げて聞いてきたが、俺達は答えられなかった。

 俺達から理由を聞くのに飽きたハルが先に歩き始めた際、ユキトが俺に耳打ちする。

「この事は秘密にしておいて」

「……ん」



  ◆



 俺達は他愛の無い話をしながらガンフォルドの町を歩く。

「それにしても、プレイヤーが多いな」

 以前来た時と比べて町を歩くプレイヤーや露天などが増えている気がする。

「ああ。それは僕達みたいな人やそのプレイヤーをターゲットにしているんだろうね」

「あーね」

 良質なアイテムが出るマップは人が集まり、人がいる所では物が売れる。

 でも、

「露天の中に食べ物関係もちらほら混ざってるな」

「午前のアップデートで食事にもバフが乗るようになったもんね~」

「いや、でも早すぎだろ」

 【料理】は不遇スキルだった。だからこそアプデ前に伸ばしている人は多くない。

 しかし今は目に付くくらいの露天があり、この中の多くは短時間で売り物になるくらいスキルを上げた事になる。

 その手のひら返しや、あっさりスキルが追いつかれた不満が俺の心に蟠る。

「……面白くないなー」

「あはは……。まあ廃人プレイヤーの底力というか熱意は凄いからね」

「むむむ……」

「リクー。美味しそうな匂いがするー。買いに行こー」

 ハルが俺を引っ張って食べ物の露天に連れて行く。

「ハル? 君は俺の話を聞いてたっ!?」

「聞いてる聞いてるー。きっとお腹が空いてるから眉間に皺が寄るんだよ。あ、ユッキーは鎧とか盾とか大きくて他の人の邪魔になるから待っててねー」

「うん。じゃあ僕の分も買ってきてね」

「はーいっ」

ハルは間延びした返事をユキトに返し、彼女と俺は列の最後尾に並ぶ。

「強引に連れ出してごめんねー」

「……いいよ。話したい事あるんでしょ?」

 ハルは目を見開いて俺を見る。

「よく分かったね」

「君らしくなかったから。普段のハルならふらふら~と、一人でお店に並んでる」

「……そうだねー」

 眠そうな瞳を弓なりにして、たはーと彼女はやや力なく笑う。

「うん。そうなんだ。私は鈍臭くて、そのくせ自由奔放で身勝手ばっかり」

「ハル?」

 思わず彼女を見ると、ハルは普段の柔らかい雰囲気と異なり、真剣な顔で言う。

「前の攻略の話ユッキーから聞いたんでしょ?」

 バレバレだった。

 俺の表情にも出ていたようで、ハルは俺の顔を見ると少しだけ柔らかく相貌を崩す。

「多分ユッキーは私寄りだから私を庇うような事を言ったと思うけど、それは違うの」

 諦めたような声音でハルは言う。

「攻略が駄目になる致命的な失敗をしたのは紛れも無く私で、それは誰がどう言おうと事実なの」

 列が進み、俺達の番が近付く。列の長さは二人で話せる時間の残りを表しているようで、話が終わるまでは進んで欲しくないと願う。

「だからね。パーティーの人に事実を言われた時、ショックではあったけど納得はしていたんだよ?」

「だったら何で落ち込んでたの? ユキトが言うにはハルはそれから消極的になったって」

「……そっか。隠してたつもりだけど、ユッキーにはばれてたかー」

 残念そうに、でもどこか嬉しそうに彼女は言う。

「実はね。攻略の後、ユッキーがその人達のギルドに勧誘されてたの」

「へ?」

 初耳だ。何でユキトは黙っていたんだ。

「その人が言うには私に合わせると効率が悪いんだってさ。うちにはもっと腕の立つ魔法使いがいるから良かったら来ないかって」

 ゲームの楽しみ方には人によってそれぞれスタンスがある。そのスタンスが合う者が集まりギルドとなると俺は思う。

 スタンスが合わない者同士が集まっても、大抵気を使いっぱなしで楽しめないし、悲劇しか起こさない。

 きっとユキトを誘った人もユキトの腕を勿体無く思って善意で言ってくれたのだろう。ハルのスタンスより、うちのギルドのスタンスが合うのではないかと考えて。

 ハルにもそれが分かっているのか別段怒っている様子は無い。ただただ真剣な表情である。

 俺達の目の前には残り一つの人影のみ。そしてその人も買い物を終えて去り、俺達の番が回ってくる。

「その時に思ったんだ。私が居る事でユッキーが楽しめてないんじゃないかって。そしてそれは嫌だなーって」

 前に進みながら最後に彼女はそう言った。

 俺は彼女の言葉に何も返せない。

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