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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第二章 クリムゾンリバレート
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15.彼は火山に挑む1

 サンドゥル火山は元は休火山であった。その標高は雲を突き抜ける程あり、以前は天辺に雪を被っていたそうだ。

 それが活火山となったのは紅き龍が山の頂に住み始めたからとか。詳細は知られていない。

 それというのもこのフィールド、火山内部の岩場と溶岩溜まりの空間を登っていく構造なのだが、今だに最高到達階層は三階層までで情報が不足しているのだ。


(分かっているのは蜥蜴人や岩みたいなモンスターが出るってことぐらい、かな)


 目の前の蜥蜴人リザードマンの胴体を『涼鳴』で薙ぐ。その一撃で蜥蜴人のHPは消滅し、輝くポリゴン片と化す。

 薙いだ勢いのまま体勢を低くして、後ろから襲ってきた他の蜥蜴人のシミターを避ける。

 上から羽織った藍色のコートが動きに合わせてはためく。


 【索敵】のお陰でこういった不意打ちにも対応できる。避ける技術の方は【見切り】のアシスト効果で斬撃の軌道が読めるからだが。

 俺に切りかかり不安定になった蜥蜴人の足を払い転倒させ、圧し掛かって喉に水色のエフェクトを放つ短刀を突き刺す。


 《シャープピック》。【短剣】Lv5で覚える単発刺突技。威力の割にはMP効率と硬直時間の短い技で汎用性が高い。

 最初こそ抵抗する感触はあったが、力を入れると皮を切り裂き、すんなりと刃が通る。


(竜族最下位のモンスターと言えど、やっぱり竜だな。刃が通り難い)


 それに弱点部位を攻撃したのにまだ倒れない。体力も高いようだ。


「ふンッ!」


 起き上がろうとした蜥蜴人の頭に大斧が振り下ろされる。その一撃で蜥蜴人は絶命し砕け散る。


「さすが長老」

「敵の攻撃はお前さん達に任せっぱなしじゃからナ。これぐらいはせんト」


 ジグが大斧を肩に担ぎなおしフンと鼻を鳴らす。

 ユキトとハルを見るとあちらも最後らしく、ユキトが押し留めている敵の集団に、ハルの魔法が発動している所だった。


 敵の全方位に数多の氷の槍が取り囲むように顕現し、敵の集団に殺到する。

 蜥蜴人が槍に貫かれ次々に消滅する。その光景はまさに圧倒的と呼ぶに相応しいものだった。


(いいなー魔法。爽快感あるし、殲滅力も高いし)


 魔法に浮気したくなる。以前やっていたオンラインゲームで俺には魔法の才能が無かった為、このゲームでも忌避していたが、魔法はやはり憧れる。


「お疲れさま~」

「ごめんねリク。分断された時はヒヤッとしたけど何とかなったね」


 ハルは普段の眠そうな瞳のままのんびりした声で、ユキトは爽やかな笑顔である。

 二人は俺とジグの二倍以上の敵を相手にしていたにも関わらず、涼しい顔で俺達に合流する。


「ジグさんもすみません。生産職に敵を任せてしまって」

「別にエエ。敵の大部分はお前さんが受け持ってくれたからのウ。漏れた分ぐらいは相手するわイ」

「あはは。敵を引き付けるのが僕の仕事ですから」


 ユキトは身の丈ほどもある大盾を地面に付ける。片手で軽々と持っていたにしては重量感のある音を立てるそれは、無骨ながら堅牢で先程の戦闘中蜥蜴人の攻撃を全て防いでいた。


「良い盾ジャ。素材は凡庸じゃが職人の腕がこれを逸品に変えておル」

「あ、分かりますか! 実は知り合いに頼んだんですが――」

「……二人とも話すなら、この先のセーフゾーンでね。ハルに置いて行かれるよ」


 俺は話を始めたユキトとジグに釘を刺し、話に飽きたハルが先行しているのを教える。

 ハルがくちはを抱いて岩場をひょいひょい進み、それを見たユキトが慌てて追いかける。

 ジグは済まなかったわイと言って歩き始める。溶岩の明かりに照らされて顔の皺の彫りに一層深みが出て普段よりドワーフじみている。


 俺もその後を追いながら周りの溶岩を一瞥する。距離があるにも関わらず、見てるだけで熱気が押し寄せてくる。


(流石火山。暑いなー)


 飲み物でも持って来るべきだったかと若干後悔しつつ前を向き、皆が待っているのに気付き駆け出す。


「……あっついなー」


 俺は思わずそう零したのだった。



  ◆



 サンドゥル火山のセーフゾーンは岩に囲まれた洞窟で、強烈な熱気を遮断してくれて過ごしやすい。

 俺達はここで休憩をとる事にする。

 ジグとユキトが武具の話で盛り上がっているのを横目にしながら俺はハルに尋ねる。


「あのさ。魔法ってどうやって打ってる?」

「え~と? 魔法?」


 ハルはう~んと可愛らしく唸ると腕を奇怪に動かしながら、


「ピッとしてバーン?」


(あ、この人も師匠やコハネと同じ感覚派だ)


 以前コハネにも似たような質問をしたら「ぐわっとなってどっかーんっ」とか返された。その時は一時間掛けた末理解するのを断念した。

 師匠の言によると理論派と感覚派に分かれるらしく俺は屁理屈派らしい。意味が分からないし、二派説はどこいった。

 今回二の轍を踏まぬよう早々に話題を変える。


「……あー、うん。ありがと。何となく分かっタヨー」

「そう。よかった~」


 ハルが眠気眼を弓なりにしてにへらと微笑む。春の陽気を思わせる笑顔が心に染みる。

 一方彼女の豊満な胸に抱かれたくちはは暑さでグロッキー状態である。毛の塊なので俺達よりも温度を溜め易いのだろう。

 次があれば氷枕みたいな物も準備しよう。

 ついでに気になる事も聞いておこう。


「……魔法って武器みたいにレベルアップで覚えるの?」

「違うよー。本を読んで覚えるんだよー」

「……本?」


 そだよー。と言ってハルは一冊のアイテムをインベントリから取り出す。緑色の表紙のそれをハルが手渡してきた。



 Name:『キュアブレス』の書   Category:魔道具

 ★

 初級大気魔術の魔術書。自由奔放な神の爽やかさを呼び起こす魔術。対象を生命の風で優しく包むことにより傷を塞ぐ。旅をする冒険者や商人が重宝している。



 本のサイズは教科書ほどの大きさで厚さは二cm程度。表紙の作りは厚く丈夫に出来ており、見た所

中身は白い紙で出来ているようだ。


(こんなファンタジーな世界でも印刷技術や製紙技術はあるんだなー)


 中身が気になり試しに開けてみる。ミミズがのたくったような文字が紙に書かれているが生憎読むことは出来なかった。


(専用のスキルが必要なのか?)


 黒文字をぼんやりと眺めていたら、文字をなぞる様に緑色に光が奔る。

 電子音と共にメッセージウィンドが表示する。


≪『キュアブレス』を習得しました。≫


「……ん?」


 読んでいた本がぼろぼろと風化して崩れ落ちる。


「魔術書は使ったらロストするんだよー」

「……ごめん」

「ううん。前もって言ってなかったから気にしないで。それに元々あげるつもりだったからー」

「そか。ありがと」


 どういたしましてー。とハルは笑う。


「魔法はコマンド詠唱で発動出来るよ。使おうと思えば呪文が頭に浮かぶよ」


 魔法を使うと念じるとどうすればいいのか分かる。

 試しに自分に使用してみる。


「《生命の息吹よ集え。――キュアブレス》」


 何も起きない。


「……ん?」

「とまあ、こんな感じで【大気魔術】のスキルが低いと失敗するんだよ~」

「……成る程」


 ステータスを見るときっちり魔法分のMPは消費している。更に確認すると【大気魔術】にしっかりと経験値が入っている。あと【詠唱】にも少し入っている。


「確率が低いだけで成功する時もあるから。暇な時にでも唱えてスキルを育てるといいよ。スキルレベルが上がったら成功率や威力も上がるから。魔法は根気だよ~」

「ん。頑張るよ」

「あ、でも詠唱中は基本動けないから、戦闘で上げようとするのはまだ止めといたほうが良いよ」

「分かった」


 火山攻略中の今も練習を控えるべきだろう。

 話していたユキトとジグが此方に歩いてくる。


「二人ともそろそろ出発するかい?」

「……ん。そうだね」

「さんせーい」


 間延びした声を上げてハルがのんびり立ち上がる。くちはを抱いた彼女を見たユキトが叱るように言う。


「ハル。そろそろリクにくちはを返してあげて」

「え~」

「えーじゃないよ。ここから先は例の『亡霊』も出てくるんだから。もしさっきみたいに分断された時にリクが困るだろ」


 気になる単語が聞こえたので思わず口を挟む。


「ユキトも『亡霊』を知ってるの?」

「うん。噂程度だけどね」


 セーフゾーンは火山の入り口とボス部屋の中間地点に位置しており、行程の半分は過ぎた事になる。ダンジョンは奥に進むにつれ敵の数も多くなり道中も険しくなる。


 ユキトの話だと『亡霊』はボスエリア付近の小部屋に現れるらしい。現れるというのは語弊があり、『亡霊』の姿は見えないらしい。

 何も無い空間から行き成り《ファイアボール》が襲ってきたり、気味の悪い唸り声が聞こえてくるだけで敵の姿が一向に見つからないらしい。


「ふン。正しく亡霊じゃナ」


 話を聞いていたジグが俺達の心の内を代弁してぼやくのだった。

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