03.彼は母の偉大さを理解する
ようやくゲームスタートですね。
あらすじ:母親
終業式が無事終わり、早速お店によってゲームを買いに行こうとしていたが、
「殆ど予約済みや朝から並んだ人で売り切れてるに決まってんだろ」
という湊の言葉に俺は軽い衝撃を受ける。少し考えれば分かる事だった。ゲーム会社最高峰のフレイヤ社の最新作。今から買える確率はゼロに等しいだろう。
大丈夫だから家に帰ってみたらいい。と俺に言って含み笑いをして湊は帰っていく。
腑に落ちない気分で家に帰ると、何故か妹が俺の部屋にいて二つ《Unlimited Online》のソフトを持っていた時は軽く目眩がした。
俺はこめかみを抑えながら、俺のベッドで跳ねる我が愛しの妹に問いただす。
「.....何故知ってる?何故持ってる?何故ここにいる?」
「湊さんからお兄ちゃんもやるって教えてもらったんだっ!! 二つあるのはβテスターのお礼の景品だよっ!! 私が此処にいるのは妹だからに決まってるでしょっ!!」
最後は聞かなかったことにした。
「……ん、分かった。……ほい」
財布からお金を取り、ゲーム購入に使う予定だったお金を紅羽に渡す。紅羽は困ったように柳眉を下げる。
「別にいいのになー」
彼女に対して首を横に振り、
「……けじめは大事だからな」
お兄ちゃんのそういう所は好きだけどねー。と紅羽は呟き、太陽顔負けに顔を輝かせる。
「お兄ちゃん早くゲームしようっ!!」
「……んー、母さんに晩御飯の時間を聞かないとなー」
「それじゃあお兄ちゃんのVRギアにゲームをインストールしとくねー」
「……ん、ありがとな紅羽」
俺は部屋を出てリビングに居る母さんの元へと向かう。母さんはテレビを見ながら緑茶を飲んでいた。紅羽にはああ言ったが目的は他にもあった。
「……母さん。また『ゲーム』始めるわー」
「あらそう。勉強もちゃんとするのよー」
母さんはこちらの顔を見上げいつも通りころころと笑いながらそう言った。一年半前にあんな事があったのに俺を全面的に信頼した様子。
「晩御飯は七時頃よー。紅羽ちゃんにも伝えといてね理紅」
「……ん。伝える」
母さんのこちらの事を理解した上での発言に、適わないな。と内心苦笑する。
リビングを出る直前──
「理紅ー。ゲームなんだからしっかり楽しみなさいよ」
「……うん」
本当に母さんには適わない。俺は心の内だけでなく自分の表情が軽く笑みになるのを止める事が出来なかった。
◇
俺のベッドに寝転んで並んでゲームをするつもりだった愛しの妹様を部屋から締め出し、VRギアを頭に被りベッドに横になる。
今日の朝からゲームのサービスは始まっているので何の問題も無くキャラクター作成に入れた。VRギアは俺の身体の情報を読み取り、キャラクターの下地となるアバターを出力していく。
後は髪の長さや色などの細部を自分好みにカスタマイズすればいい。俺は面倒だからやらないが。本当は細目をもう少しぱっちりとしたい気持ちもあったが、湊や紅羽に弄られそうなのでやめておいた。
父さんみたいに優しい細目なら良かったのに。俺は溜息をつき、次のスキルポイント割り振りに入る。
ポイントは全部で五十。一ポイントで一レベルアップ。つまり最高百まであるレベルの半分まで伸ばすことが出来る。但し極振りした場合に限る。スキルが一つではかなり厳しい。スキルの組み合わせがこのゲームは大事なのだ。
事前に考えて決めていたスキルにポイントを割り振り、最後にキャラクターネームを打ち込み終了。
最終確認に[OK]を押して応える。
すると空間全てが闇に閉ざされる。そして目の前の暗闇に『Welcome to Unlimited Online』という文字をなぞる光が煌めき、俺は一瞬にして白い光に包まれた。