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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第二章 クリムゾンリバレート
38/88

11.彼は職人の町に着く

 本当は10と11は一緒の予定だったけど長くなりそうだったので分けたのはここだけの話。あと分割の仕方をミスしたのもここだけの話。皆にはナイショダヨ。

 ギルにはああ言ったが彼一人に危険を押し付けるつもりは無い。むしろダメージソースたる彼に攻撃が行かないように俺とイナサが黄金巨人の注意を引き付ける必要がある。


「二人とも。もう直ぐスタンが来る!」

「おうッ!」

「了解したッ!!」


 まあ実際のタンク役は俺よりもHPも防御力もあるイナサがやるのだが。

 俺は少し離れた所から観察してスタン効果のある震脚の予兆を二人に教えたり、周囲の土巨人が近付いてきたら邪魔になる前に退場させるのが仕事だ。あとイナサのHP回復時に一時的にヘイトを請け負うくらいか。


 偶に《ハイドウォーク》で敵の背後に近付き、《バックアタック》で少しでもHPを減らすくらい。

 《バックアタック》は敵の背後への攻撃倍率の高い【短剣】スキルのアビリティなのだが、それでも気持ち減ったかなぐらいしか効いていない。


 その点ギルの大槌は目に見えてHPを減らしていて安心できる。

 ギル自身も戦う前の逡巡は今はなりを収め、何時もの優男顔を真剣な表情にして武器を振り下ろしている。


「リク」

「ん。《氷華》」


 黄金巨人を氷漬けにしている隙にイナサと位置を交代する。これで三度目の交代。

 イナサはタンク職でもないのに良く粘っている。大剣を盾に見立てて相手の豪腕を上手く受け流しているし、隙あらば攻撃してダメージを蓄積している。


 俺がタンクの場合はスキルの関係上長くヘイトを維持できないので、ギルにも休んでもらってアビリティの連発で減ったMPを回復してもらっている。


 先程の《氷華》で俺――正確には俺の頭上の朽葉くちはへと向いたヘイトを少しでも維持するため、俺は黄金巨人へと肉薄する。

 風切り音が頭上を鳴るが俺とくちはは躱し足元に張り付くようにして攻撃を与えていく。こういった大きな敵はかえって足元に居たほうが安全だ。


 それに距離を離すと黄色いオーラを纏って突進するので苦しくなる。

 だからなるべく敵にくっ付こうと三人で話し合ったのだ。


(おお。恐い恐い)


 左腕を掠めた蹴りに総毛立ちながら俺は直撃だけはもらわないように集中する。『特攻相殺アサルトクリア』が通用しないこいつの攻撃はキャンセル出来ない。

 黄金巨人を見て予備動作から攻撃を予測して確実に避けていく。地面を割った破片だけで俺のHPが削られるのは何の冗談だ。


「リク、待たせた!」

「んっ」


 俺は《ハイドウォーク》で敵のヘイトを強制的に切り素早く離脱する。それと入れ替わるようにイナサが黄金巨人に大剣を叩き込む。それを確認してギルも攻撃を再開する。


 あと一割をきっている。

 距離を取る事でようやく敵のHPを確認する余裕が出来た。あと一撃ギルのアビリティを当てるだけで終わる。

 ギルもそれを分かっているのか静かに構える。彼の大槌が煌々とオレンジに輝く。


「最後だ金ぴかッ!! 《メテオインパクト》ッ!!」


 振り下ろされた大槌は黄金巨人のHPを根こそぎ吹き飛ばし、黄金巨人の震脚にも勝るとも劣らない衝撃が大気を震わせる。

 巨人は電池の切れたロボットの如く急に動きを止め、大量のポリゴン片となって辺りにばら撒かれた。

 俺とイナサは武器を振り下ろした格好のままのギルの元へ集まる。


「……私たちは勝った、のか?」

「みたいだな」

「だねー」


 俺達はそう言ってお互いの顔をそれぞれ見渡すと笑顔でハイタッチを交わすのだった。



  ◆



「二人とも本当にいいのかい?」


 無事に『ガンフォルド』に着いた俺達はそれぞれの用事の為にパーティを解消していた。その時に黄金巨人のレアドロップをどうするかの話になり、俺とイナサがギルに譲ると言ったのだ。


「その、貰えたら私としても嬉しいのが。……その、だね。勝手に君達に付いて行ったのは私だからそのぅ……」


 無理矢理俺達に付いてきた自覚はあったのかどんどん声が尻すぼみになる。

 俺とイナサは顔を見合わせると笑う。こんなの彼らしくない。


「いいんだよ。俺はもう武器も防具もある程度揃ってるし。必要な素材じゃないしな」

「……武器が多く必要なギルが持つのがいいよ。友情の証だよー」


 俺達の台詞――特に友情の部分でギルは目を輝かせる。


「そ、そうかッ!! それでは断るのは無粋だなッ!! 友情の証だからなっ! うん!」


 あっはっはっはッ!とギルが笑う。うん煩い方が彼らしい。後周りのプレイヤーが何事かと俺達を見てくるのも勘弁して欲しい。


 今度は苦笑してイナサと顔を見合わせる。

 ついでにギルにはこの町に工房を構えているジグさんの事も紹介しておいた。俺の武器を作ってくれた口は悪いが腕はいい人だとも教えておいた。

 一通り笑ったギルは思い出したようにイナサに問う。


「そういえばイナサくんは『サンドゥル火山』へと行くのだろう」

「ああ、そうだがどうかしたか?」


 すると彼は神妙な顔つきになる。どうでもいいのだがギルは普段のアホっぽい笑い顔ではなくこういった真剣な顔の方が格好いいしもてるだろう。いや本当どうでもいいんだけどね嫉妬とかしてないし。


「火山に最近出るらしい」

「……何が?」

「亡霊が」

「うん? それってアンデットモンスターが居るって事か?」


 火山にアンデットは似合わないなーと俺がぼんやり思っていると、ギルはその綺麗な金髪を揺らしながら曖昧に否定する。


「実の所よく分からないのだ。目撃者の話だとゆらゆら揺れる影が見えたかと思うと火の玉がいきなり襲ってきたらしい。――それで今日の事を踏まえた私の勝手な憶測なのだが、その影はレアモンスターではないかと思っている」

「……確かにそれなら本来生息して居ないはずのモンスターが居てもおかしくないな」


 イナサはそう言って俺の腕の中で眠るくちはをちらりと見る。

 そういえばくちはも本来は『カームの森』にはいない種族なんだったな。


「君ほどの腕なら心配はいらないとは思うが、あの金ぴかのようにレアモンスターというのはクセのある相手だからな」

「そっか。覚えとくぜ。ありがとうな」

「と、友を心配するのは当然だからなッ!」


 顔を真っ赤にしたギルは俺達に別れを言うと足早に立ち去ろうとして途中で足を止め、手を一度上げると人混みに紛れた。


「いい奴なんだが疲れるな」

「……そだねー」

「お前はどうするんだ?」

「んー。予想外の収入でお金が出来たからクッキー売ったら『アルスティナ』に戻ろうかな」


 防具を作るには充分なお金を用意出来たが、直ぐに完成するわけではない。早めに頼んでおくのが良いだろう。


「着いたばかりだけどイナサに教えて貰った『タウンゲート』で一度戻るよ」

「ま、それがいいな。一度訪れた町は各町のゲートで移動出来るようになるから無駄ではないしな」

「んー。町を見て回るのはまた今度かな」


 俺は土の匂いのする興味深い町を残念そうに見渡し息を吐く。


「んじゃあここでお別れだな。俺はギルドのメンバーと一緒に火山に行くからな」

「ん。ここまでありがと」

「いんや。俺も楽しかったぜ」


 イナサは爽やかに笑うと、一度だけ力強く俺の肩を叩き去って行った。

 俺はそれを見送ると、意気揚々とゲートへと赴き、青いゲートに飛び込んだ。

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