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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第二章 クリムゾンリバレート
36/88

09.彼は生徒会室へ行く

 俺は夏休みにも関わらず、学校の生徒会室でホッチキス止めをしている。


 文字の埋まったホワイトボードや乱雑に置かれたダンボール、壁に貼られたポスターが人の痕跡を感じさせるが生憎とこの部屋には俺しかいない。

 俺を連れてきたみなとは指示出しした後休む間も無く出て行ってしまった。


 頼まれた資料作成を始めたのだが単純作業なので思考を持て余していたので、昨日ヴィヴィに言われた事を思い出しながら作業している。


 (冒険者レベル、ねぇ……)


 クッキーを売るときに『シエスタ』で売るよりも他の町で売ったほうが高く買い取ってくれるそうだ。しかし一番高い値で買い取ってくれる町は今の俺の冒険者レベルでは危なくて行けないらしい。


 冒険者レベルとは主に自分が使用する戦闘スキルのレベルの合計値であり、自分が攻略するべきフィールドやダンジョンの目安となるものであるらしい。


 但しレベル5以下のスキルや【調教】や【舞踊】のような特殊なものは加算しない。純粋な戦闘スキルの合計値だけらしい。

 加えて言うならこの呼び方は公式が示したものではなくユーザーが勝手に呼称しているだけの最近出来たものである。


(俺の場合だと――)


 昨日ログアウト直前に見た自分のスキルを思い出す。


 【短剣】  Lv8

 【軽装】  Lv16

 【見切り】 Lv17

 【ダッシュ】Lv17

 【ジャンプ】Lv5

 【索敵】  Lv13

 【隠密】  Lv10

 【採集】  Lv13

 【調教】  Lv34

 【料理】  Lv7

 【釣り】  Lv13


(――【短剣】【軽装】【見切り】【ダッシュ】【ジャンプ】が該当するのか。すると俺の冒険者レベルは63か)


 冒険者の町『アルスティナ』の周辺はレベル~50が目安であり、最近俺が通っている『悠久庭園(パーペチュアルガーデン)』は50~100が目安である。


 これらはあくまで目安であり、俺のように【調教】で自分以外の戦力を行使するものはもう少し上のレベル帯でも戦える場合もある。過信は禁物だが。


 話がややこしくなったが要は俺が行けるレベル帯の中で食料品が高く売れる町を探している所なのだ。


「二条さん。生徒会のお手伝い?」

「……?」


 思考の海から意識を浮かび上がらせ俺は紙束から顔を上げる。俺に声を掛けた相手はにこにこしながら俺が居る机の正面に立っている。

 スーツを着た若い女性が自分のクラスの担任だと気付いた俺は改めて言葉を返す。今日は珍しく普段よりも化粧が少し濃かった。


「おはようございます周防先生。そうですけど何か御用ですか?」

「うんおはよう。あと毎回言っているけど由美先生って呼んでくれると先生嬉しいなー」

「……考えておきますー」


 俺も毎回の返答をすると周防先生は頬に手を当てて諦めた溜息をつく。

 俺は作業の手を止め、クラスの皆は呼んでくれるのになーと呟く先生に対しもう一度尋ねる。


「それで先生。何か俺に話があったのではないですか?」

「特にないわよ? 強いてあげるなら濁った瞳で作業している生徒が心配になったからかしらね」

「……そりゃどーもです」


 俺の投げやりな返答を笑顔で受け止め、先生は俺の隣に勝手に椅子を置いて座る。そして持っていた書類を脇に寄せ、机に聳えるホッチキス待ちの資料達を手に取る。


「借りるわね」

「……時間、いいんですか?」


 机の上に置いてあった予備のホッチキスを握る先生に一応聞いておく。


「大丈夫よ。今職員室に行っても他の先生にお茶を汲むくらいしか仕事がないもの」

「……ありがとうございます」


 俺はそれだけ言って作業に戻る。先生も黙々と資料を止めていく。

 部屋にはぱちんぱちんという耳に心地よい音と外から聞こえる部活生の青春の声が入ってくるのみ。


(不思議な雰囲気の人だな……)


 楽しそうに作業を進める周防先生の横顔を時折盗み見る。

 若くて生徒と年が近いのもあるだろうが、どちらかと言うとこの周囲を和ませる雰囲気は先生自身の気質に因るところが大きい。


 さらに生徒に対しわけ隔てなく接する先生は多くの生徒達に慕われていて人気もある。先生に威厳があるのかどうかは明言しないでおく。


 そんな感じで暇だったので隣の人物の観察というあまり褒められない行いをしていた訳だが、資料の山の終わり間近になると不意に先生がくつくつと笑い俺に言ってきた。 


「三回」

「……はい?」

「君が私を見た回数だよ。いや見たと言うより視たもしくは観たの方が正しいのかな? まあ私は国語の担当じゃないからそこは湯川先生にでも任せようかしらね」

「……はい?」


 見ていた事がばれた気まずさを感じるよりも俺は先生の言ってる意味が分からなくてバグッたように同じ台詞を繰り返してしまう。


「二条さん。先生を見極めていたでしょ。あ、怒ってないから安心してね。寧ろ人をよく見る事は人を理解しようとする表れだから良いことだと先生は思ってるから」

「えっと、ばれると思いませんでした」

「目は口ほどにものを言うってね。人を探る時の目って独特なのよ覚えておいた方が良いわ。特に女性は視線に敏感なのよ?」


 胸とか見てると直ぐ気付かれちゃうぞとお茶目に言ってきたから冷ややかな視線を返しておいた。

 先生は軽く咳払いをして真面目な顔をする。


「とにかく君は人を見る力が他の生徒よりも優れているようだったから先生らしくお節介を焼いてみたのよ」

「……教師が生徒に焼くのはお節介ではなく世話なのでは?」

「お世話になったかどうかは受け手が決める事よ」


 先生はそう言うと最後の資料を止めて椅子から立ち上がる。

 そこで俺は自分の手が止まっていた事に気付く。


「最後の方は任せっきりになってしまってすみません」


 俺の言葉に先生はいいのよーと笑って返し、扉から部屋を出て行こうとする。

 俺は慌てて先生が持ってきていた体育祭の書類を机から取り、入り口付近の先生に手渡す。


「先生待ってください忘れ物です。あと俺達の為に体育祭の準備を頑張るのは嬉しいですけど隈が出来る程の無理はあまりしないでくださいね」

「あらありがとうね二条さん。……やっぱり君はいい目をしてるわねー」

「たまたま忘れ物が目に入って気付いただけで偶然ですよ」


 そういう意味じゃないんだけどなー。という先生の呟きに意味が分からず疑問符を浮かべながらとりあえず言葉を続ける。


「お仕事の時間を削ってまで資料製作手伝ってもらってありがとうございます」


 いーのいーの大した事じゃないもの。と手を振る先生は目を弓なりにして笑顔になる。


「――それに生徒と話す事は先生の大事な仕事なのよ」


 由美先生は当然の事の如くそう言い切った。



  ◆



 先生が去ってから五分も経たずに湊は生徒会室に戻ってきた。


「すまん理紅ッ! 生徒会の仕事頼んだのに一人で放って置いて行っちっまって!」


 湊が両手を合わせてこちらに頭を下げる。俺は机に突っ伏したままのだらけた体勢でいる。


「ん。別にいーよ」

「そうか。それにしてもまさか終わらせてるとは思わなかった。てっきりまだかと思って急いで手伝いにきたんだがな」

「……んー。あー、周防先生が手伝ってくれたんよー」

「由美ちゃん先生が?」

「そそ」


 先生が座っていた隣の椅子に今座っている湊にそう説明すると俺の正面に硬く鋭い足音の響き、頭上からどこか気品のある声が落ちてくる。


「あらそうでしたの。でしたら周防先生には後で生徒会からもお礼をいたしませんと。――そっ! れっ! でっ!! 貴方は神聖なる生徒会室で何だらけていますの!?」


 高圧的な声音と物理的な圧力が頭に掛かる。

 湊は目の前の異常をスルーして帰ってきたその人物に言葉を掛ける。


「あ、副会長おかえりなさい」

「ええ、ただいま磯部くん。運動部の方を任せてしまって申し訳有りませんでしたわ。その様子だと順調に終わらせたみたいですわね」

「はい。これがそのアンケートです」


 何故この二人は何事も無いように話を進めているのか。


「痛いです。西鳳院先輩頭潰さないで下さい」

「あらこの愚物は頭でしたの。だらけた思考でしたから、てっきり熱で腐った西瓜かと思いましたわ」


 言葉とは裏腹に俺の頭を押さえつけていた重圧が消える。

 俺は姿勢を正して正面で悠然と構える先輩ときちんと向き合う。


 西鳳院せいほういん アリス。

 金髪縦ロールと整った顔立ちが見る者を惹き付けるが、身に纏う尊厳たる雰囲気が近寄りがたい印象を与えて高嶺の花と噂されている。


 彼女の堂々たる言動は自信に裏打ちされたものである事を示すように学業では常に上位である。

 かといって周りから妬まれているかといえばそうでも無く、才能に驕らず常に努力する姿は周知の事実である。


 自分にも他人にも甘い俺は自分にも周りにも厳しいこの先輩の事が少し苦手だったりする。


「二条君御機嫌よう」

「こんにちは先輩。何時見ても立派なクロワッサンですね――いだだだっ!?」

「そんな失礼を考え付く頭はやはり潰しておくべきですわね」

「すみませんすみません!お腹が空いていたのでつい食べ物の名前が出てしまいましたッ!」


 拳骨で俺の頭を挟み潰しながら先輩は生徒会室の時計を確認する。


「あら、もうお昼でしたのね。ごめんなさいこんな時間まで貴方を拘束したのはこちらの不手際ですわ。仕事も一段落しましたから磯部くんと貴方は帰ってもらって大丈夫です」

「……解放するなら頭の物理的な拘束も解いてくれるとありがたいんですが」

「口答えするとはまだまだ元気ですわねー」

「痛い痛いすみませんすみません」

「アリス副会長。その辺で理紅を許してやってください」

「……磯部くんが言うなら仕方ありませんわね」


 爆笑していた湊のようやくの助け船により、先輩は拳を俺の頭から離すと仏頂面を意地悪っぽい表情に一転させる。


「全く……次はありませんわよ?」

「はい」

「宜しいですわ。でしたら今からお手伝いのお礼も兼ねてお二人には昼食をご馳走したいと思うのですけれどいかがかしら?」

「お礼と言われても大した事はしてませんよ? 誰でも出来る事ですし」


 校内外を回った湊はともかく俺がやった事なんてパンフレットのホッチキス止めだけだしな。


「実際に仕事をしたのは貴方です。労働には対価を。誠意には敬意をそれぞれ払っているに過ぎませんわ」


 ここまで言われたら断るほうが無礼ってものだろう。湊も同じに思ったようだ。


「理紅、副会長のお言葉に甘えようぜ」

「ん。ご馳走になります」

「ええ。それでは参りましょうか」


 西鳳院先輩は見た者を百年の恋に落とす微笑みを浮かべ嬉しそうに頷いたのだった。

 ※スキル表記を変えたのでどうしても見辛いという人だけお知らせください。

 訂正しました。またそれに伴い表現を変更しました。

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