00.神剣と魔女
※二章開始。一章より文章多め表現濃いめになっております。
また一章と比べのんびりやっていきますのでよろしければお付き合いください。
2015 3/1
「やっほっほーい! 『魔女』ちゃんいるかいッ?」
私が新薬の調合をしているとお店の木製扉が勢いよく開かれる。扉を開け放った若い女性は溌剌とした笑顔でこちらに近づくように店内を進んでくる。
私は自他ともに認める程には情報に精通しているつもりだが、彼女の動向だけはどうしても掴めないでいる。流石は生ける伝説とまでいわれるプレイヤーらしい神出鬼没さである。
彼女は私が最近知り合ったとある男性プレイヤーの師匠だと噂されている。真偽のほどは定かではないが、私は間違いないと確信している。
その本人はカウンターの前に立つと綺麗な笑顔で、
「魔女さんは色っぽいな。いやー羨ましいよこんちくしょう!」
「……『神剣』さん。私に何か用かしら?」
「大人の余裕って素敵だね! こんちくしょーッ! 実は君にお願いがあって来たんだよ!」
「お願い?」
彼女は変わらない笑顔私に言う。
「君は最近りっくんを可愛がってくれているようだね。素材をきちんと買ってくれたり、数少ない高レベル釣りプレイヤーにりっくんの居場所をさりげなく教えたりして会うように仕向けてくれたり」
「……」
「あ、別にどうこう言うつもりは無いよ。むしろそこまでしてくれて感謝しているくらいさっ!」
「貴女に感謝されるような事ではないわ。私が好きでやっている事なのだから」
「そうかい! そう言ってもらえると師匠冥利に尽きるよ」
彼女は軽快に笑うとそうだと手を打ち、
「そうそうお願いだったね。実は二、三日したらこの店に『武帝』が来ると思うんだ。その時に彼がりっくんの居場所を聞いてくると思うから教えて欲しいんだ」
「どうして『武帝』が彼の事を?」
「私に決闘を挑んできたから完膚なきまでに叩き潰したんだ。そして私に再戦したいならりっくんに会うように言ってあるんだ」
「貴女は自分の弟子に面倒事を押し付けるのね……」
「愛の鞭ってやつさ」
『神剣』はふふんと得意げに胸を反らす。
「何故そこまでするのかしら?弟子といってもゲームの中での話でしょう?」
「それは『魔女』ちゃんと同じ理由だと思うよ」
「私と?」
「りっくんは見ていておもしろいしそこそこ才能もある。でもそのくせ自分からはなかなか動こうとしない怠惰者だからね。攻略プレイヤーの一部がもう武器の中位スキルを発現させているのに彼はようやく武器スキルを育てようとするくらいのんびりだからね。だからこうして引っ掻き回してあげないと」
「……貴女。実は彼に嫌われているんじゃないかしら?」
「心外だな! 私たちは強い絆で結ばれているよっ!!」
頬を膨らませて『神剣』がこちらを見てくる。こうしてみると年相応だとフードの奥で私はそんな感想を抱く。
「それで、引き受けてくれるかな?」
「……ええいいわ。面白そうだもの」
「君ならそう言ってくれると思ったよ!!」
『神剣』は嬉しそうに笑うと自分のウィンドウを操作していくつか素材アイテムを取り出す。美しく透き通った羽や魔力の光を帯びた鉱石、効果の高いポーションの材料である神霊草など。
そのどれもがレア度五を越えるアイテムばかりである。
「お願いの報酬はこれらのアイテムでいいかな?」
「貴女どこでこれを?」
「『エクス・シロン』に寄った時についでに集めたんだ」
「……妖精の森は戦闘スキルの合計二百八十推奨の中級エリアじゃなかったかしら。とても三週間弱で行ける場所ではないはずよ」
「そうだね。ソロでの戦闘は流石にきつかったかな」
「一人で行ったの!?」
「そうだよ? だって私が最初にパーティを組みたいのはりっくん達だから。みーくん――このゲームではいーくんかな?いーくんは『煌帝』とか言われて順調なのは噂で聞くけどりっくんはさっぱりだからね」
『煌帝』。口振りから察するに彼も『神剣』の弟子なのだろうか。
「それに私は一応最強のプレイヤーを謳われているからね。他のプレイヤーの夢を守る為には他人が出来ない事をしないとね」
たはーっ。と彼女は照れくさそうに笑い頭に手を置く。私は誰も知らない『神剣』の一端に触れて新鮮な気持ちを抱く。
「……分かったわ。私は貴女の依頼を受けることを改めて宣言するわ」
「……そっか。ありがとう『魔女』ちゃん!」
「もし良かったら追加でお願いを聞いても良いわ」
「いいのかい?」
「この報酬にはそれくらいの価値はあるわ」
私はコンコンとカウンター上の魔鉱石を指で小突く。
彼女はうーんと唸ると腰ごと体を左右に曲げながら悩むと苦笑して私に尋ねる。
「それはまた今度でいいかな?」
「ええ、勿論」
よかった。と彼女は微笑みそれじゃあと私に手を上げて扉に向かう。そして一度体を外に出して顔だけをひょこり店内に戻す。
「ああ、そうだ。魔女ちゃんとは今日初めて会ったけど君は話してて飽きないね!」
「……ふふ」
「何が可笑しいんだい?」
「いえ、ごめんなさい。貴女の弟子にも同じような事を言われたのを思い出したのよ。――私にそんな事を言ったのは貴女で二人目よ。やはり師弟なのね」
「当然さっ!!」
『神剣』は輝かんばかりの笑顔でそう断言すると木製扉の向こうへ消えたのだった。




