25.彼は世界と向き合う
いつも釣りをしている『クレア湖』のセーフティゾーンに戻った俺達は『水竜 蛟』の討伐をお互い喜び合う。
「まさか主が魚ではなくモンスターだとは思いませんでした」
「……俺もだよ」
あのメールを見る限りトミさんは知っていた節がある。教えてくれてもいいのに。
俺達はその場に座り、戦利品を地面に広げて検分に入る。
Name:水蛇竜の鱗 Category:鱗素材
★★★
水蛇竜の体を覆う青い鱗。体から剥がれた後もなおその波打つ光沢は美しさを保っている。そこらの金属類よりも硬く驚くほど軽いので優秀な防具の材料となる。
Name:水蛇竜の鰭 Category:鱗素材
★★★
水蛇竜の各所に生える小さな鰭。白く鋭利な鰭は水蛇竜が水中や空中を泳ぐ為の重要な運動器である。水や空気を切る刃に似た部分は触れた物を抵抗無く真っ二つにする。
Name:水蛇竜の氷雪白身 Category:食材
★★
水蛇竜の凍った白身。水を生み出し冷気を操る事を繰り返すうちに魔力を宿した白身。薄っすらと霜の降ったその身は脂が少なく淡白で滋味が深い。
Name:蒼宝玉Category:鉱物素材
★★
水流や冷気を司る眷属が持つ宝玉。鈍く蒼い輝きを放つ宝玉はひび割れその力の殆どを失っている。
鱗が三枚。鰭が二枚。白身と宝玉が一つずつ。それら全部が俺達の間に置かれている。
一体から採れた素材としてみたら多いと思うべきか、エリアの一応の隠しボスモンスターとして見たら少ないと思うべきか。
蛟は四mはあったと記憶しているが、ゲームではモンスターの大きさとドロップアイテムの数は比例しない。
パーティでのドロップアイテムの分配を始める前に俺には懸念事項があった。
「……ちょっといいか?」
「どうかしましたか先輩?」
「……くーちゃんが白身に反応するか試してもいい?」
「あー、忘れてました。そう言えば元々それが目的でしたね。いいですよ」
「……ありがと」
俺は霜が降り陽光に煌く白身を手に持つとくちはの前にぶら提げる。
くちはは丸まっていた体を機敏に動かすとお座りの格好になる。琥珀色の瞳は白身に負けないくらいに輝き釘付けとなる。
「お気に召したようですね」
「……だな」
白身を俺とナギの間の地面に戻すとくちはは明らかに落ち込む。そんな目で見ないでくれ。まだアイテム分配は終わってないから俺の物じゃないんだ。
ナギはそんな俺達の様子に苦笑して言う。
「お肉の方は先輩が貰っても構いませんよ」
「……いいのか?」
「その為の釣りでしたから」
「……ありがと。じゃあ鰭は二つとも君が持っていくといい」
「え? でもこれって武器用の素材ですよね?」
ナギは地面から左右それぞれの手に鰭を持ちあげ、ひらひら動かしながら俺に首を傾げる。
俺は手のひら程の大きさをした鰭を指差し、
「……そうだな。その小ささだと短剣ができるんじゃないかなー」
「でしたら先輩が使うのがいいと思います。まだメインの武器スキル決まってないんでしたら【短剣】を鍛えるのもいいと思います。それとも何か伸ばしたいスキルを決めているなら別ですけど……」
「……こだわりは無いかなー。木剣もコスパで選んでただけだからなー」
ナギの言うとおり、これを機にメインを【短剣】にするのも有りかもしてない。更にナギは表情を引き締めると真面目な口調で言う。
「それに武器を消費しながらの戦闘ははっきり言って異常ですよ」
「……変かな?」
「ええ、かなり。それに私は【短剣】スキルを上げる予定は無いですから貰っても売却するしか出来ませんよ?」
ナギに深く諭されては反論の仕様が無い。俺は素直に鰭を受け取りインベントリに収納する。
しかし俺ばかり貰うわけにはいかないので鱗を全て彼女の方に近づけて言う。
「……んじゃこれは全部君のだな。防具はある程度枚数ないと作れないからなー」
「それはそうですけど――」
「……代わりにこれは俺が貰っていいかな?」
俺は鈍く光る宝玉を摘み上げるとナギに見せる。ナギは困ったように柳眉を下げてこちらを窺う。
「アイテムのレア度的に私が得をしてますがいいんでしょうか?」
「……俺の目的は白身だから大丈夫。それにラストアタックとかダメージ量的に君が得をするのがバランスがいい」
「分かりました。それでは私は鱗を頂きますね」
ナギはそう言って鱗をアイテム欄に入れる。そして彼女は清々しい顔を俺に向けて口を開く。
「改めてお疲れ様です先輩」
「……うん。お疲れ。巻き込んですまなかった」
「私は楽しかったですよっ! くーちゃんもお疲れ様です!」
ナギがくちはの傍に寄り頭を優しく撫でる。くちはは嬉しそうに鼻頭を彼女の腕に擦り付けている。
俺は微笑ましくそれを眺め、アイテム欄から雪のように真っ白な白身を実体化させてくちはの傍に片膝をつく。
俺はくちはにそれを与えようとしてふと疑問が浮かぶ。
「……そのままやっていいのか?」
「今までの魚もそのままあげてましたから大丈夫だと思いますよ」
ナギの言葉にそれもそうかと頷き、先程から物欲しそうにしている相棒の目の前に白身を置く。
これまで与えた魚の時とは比べ物にならない程美味しそうにがっつくくちはを俺達は並んで見守る。
見ているだけで幸せになれるその光景を眺めていた俺の脳内に機械の声が響く。
≪『天孤 朽葉』の保有する冷気魔力が一定値に到達。それに伴い新スキル【氷華】の開放を確認しました≫
白身を全て平らげたくちはの体が淡く蒼い光に包まれ、くちはの中に収束して消える。唖然とする俺に同じような顔をしたナギが言葉を掛けてくる。
「せ、先輩。今のは何ですか?」
「……くーちゃんが成長したっぽい」
「はい?」
俺はナギに先程聞こえた内容を説明しながら、自身に起こった事に頓着せず平然としているくちはのステータスウィンドウを開く。
Name:朽葉 Family:天孤
★★
【雷華】Lv12 【氷華】Lv10
前見たときよりもレア度が上がり【氷華】というスキルも増えている。
試しに【氷華】の欄をクリックしてみると、追加でウィンドウが開きスキルの詳細が現れる。
【氷華】
天孤が操る冷気魔術の総称。個体により様々な姿形をしておりそれぞれ効果も違う。
同様に【雷華】を調べると同じような説明が出てくる。しかし肝心の威力や効果が分からない。実際に使ってみるしかないようだ。
(それに蛟との戦闘で痛感したこともあるしなー。がんばろー)
課題や試したいことは尽きない現状に俺は一つ頷き気合を入れる。
やる事は山済みだが面倒だとかいう感情はない。むしろ色々な事を見聞するのに心躍る心地である。自然と笑みが零れてくる。
そんな俺の様子に揃って首を傾げるナギとくちはを見て俺は一層笑顔を深くする。
(楽しくなりそうだなー)
そう思いながら見上げた空は雲ひとつ無い晴天だった。
おまけ
Name:リク
装備
右手:
左手:
頭:
胴体:古い皮鎧
上着:
腕:青蜥蜴のライトグローブ
腰:麻布のズボン
足:布の靴
指:
首:
主要スキル
(よく使うスキル、もしくは今後つかうであろうスキルのみ掲載)
【軽装】Lv13【見切り】Lv15【ダッシュ】Lv14【索敵】Lv12【隠密】Lv8【採集】Lv13【調教】Lv31
短く中途半端な気がすると思いますがここで一章終わりです。主人公の気持ちの契機ですのでここで切ります。
二章は少しお時間が掛かります。暫しのお待ちをお願いします。
最後に読んでいただいた全ての人に最大級の感謝を。
2015/02/19




