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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第一章 彼は新しい世界に触れる
25/88

24.彼は湖の主と相対する

あらすじ:みずち

 背筋が凍るほどに美しい水竜を俺は畏怖に念を持って見上げる。すると水竜の頭上に緑色のHPバー二本と湖の主の名が表示される。

 『水蛇竜 (みずち)』。


「ピィィィィィィィィィィィッ!!」


 蛟が甲高い『咆哮』をすると、湖は細かく波打ち周りの木々は怯えるように枝を震わせる。それは俺達も例外ではなく体を貫く威圧感に身を竦ませる。

 こちらを見下ろしていた蛟は空中で縦に一回転すると、自分の前方に青く発光する魔法陣を展開する。

 空中の水分が魔法陣の中央に集まり、凝固していく。みるみるうちに三m程の氷の槍が出来上がる。


 射線から逃げなければと体を動かそうとした俺は、そこでようやく自分の体が動かない事に遅まきながら気付いた。指先なら軽く動かせるがとてもじゃないが氷の槍を避けることは無理だ。


(……最初の咆哮か!)


 咆哮にスタン効果があったのだろう。しかも最初に咆哮しておいて魔法を展開した今なお効果が持続しているところをみるとかなり上位のスキルに違いない。

 隣を見るとナギも俺と同様に体が動かせないでいる様子だ。大きな琥珀色の瞳が見開かれている。


 氷とは思えないほど精巧に作られた槍が、俺達を貫かんとかなりの速さでこちらに迫ってくる。

 無慈悲といえるその攻撃を防いだのは俺の眷属だった。


「きゅわぅ!!」


 くちはから放たれた《雷華》が氷槍と正面から衝突し爆音を響かせる。それでも氷槍は勢いを落としながらも《雷華》を突き破り、俺達にぶち当たる。

 生まれた衝撃波で俺とナギはそれぞれ反対方向に吹き飛ばされて地面を転がる。

 俺は咳き込みながら立ち上がり、氷槍で発生した砂煙の向こうの仲間に慌てて声を放つ。


「……大丈夫か!?」

「はい! こちらは大丈夫です。そちらの状況は?」

「……こっちも二人とも生きてる」

「逃げますか?」

「……いや一応戦ってみよう」


 俺はそう言って木剣を素早く構え、蛟を正面に捉えながら視界の端で自分とくちはのHP残量を確かめる。


(俺は二割。くーちゃんは一割くらいか。<気絶>しなくてよかった)


 強烈な一撃で体力失うと<気絶>状態になり一定時間意識を失う事が稀にあるが俺とくちはは大丈夫だったようだ。ほぼ死に掛けている俺達の状況に俺は慌てて初級ポーションを四本取り出す。半分は自分が使い、もう半分は栓を外して一本ずつくちはに飲ませる。

 先程の魔法は威力の分反動があるのか蛟は魔法を放った姿勢で硬直しているので、俺達は何とか体勢を立て直すことが出来た。

 土煙が晴れるとナギも蛟に対し臨戦態勢を取っているのが視界の端に映る。端正な顔を緊張で引き締め整然としたさまで蛟を見据えている。


 蛟は嘶くと俺のほうへ勢いよく急降下してくる。

 距離があった事もあり、俺は突風を伴った突進を余裕を持って回避する。傍を通り抜けた蛟は空中で反転し今度はナギに突貫する。

 ナギは刀に手を掛け迎撃の態勢を取り蛟を待ち構える。鞘の中から青いエフェクトの光が漏れている。接触の瞬間に体を右にずらし紙一重で避けると同時に彼女の右手がブレる。

 高速で抜き放たれた刀が青い尾を引いて蛟に叩き込まれる。確か《閃花》とか言う【刀】のアビリティだったと思う。蛟の一本目のHPバーが一割削れる。


 再び空中に留まりこちらを見下ろす蛟の視線が恨めしそうに見える。一合目でカウンターを取れるとは思っていなかったので俺も唖然としてナギを見る。

 

「……今のよく合わせられたな」

「先輩への攻撃を一回見てましたので。……それにしても柔らかいですね」

「……や、柔らかい?」


 俺が思っていた以上にナギのプレイヤースキルは高いようだ。頼りになるなー。と感想を抱きながらまた突っ込んできた蛟を避ける。あれ。そういえば今変な呼ばれ方したような――。


「……くーちゃん」

「きゅわっ!」


 蛟の美しい鱗に《雷華》が命中し攻撃を受けた蛟が地面に墜落する。ナギは地面に倒れた蛟にいち早く反応し、素早く蛟に肉薄すると流れるような太刀筋を幾つも刻み付けていく。

 はためく白衣と煌く剣戟の剣舞に目を奪われていた俺は蛟に視線を移す。とぐろを巻いている蛟の様子に嫌なものを感じ、俺はナギに警告を発する。


「……離れて」

「ッ! はい!!」


 ナギが距離を取った数瞬後に蛟はとぐろを巻いた体勢のまま高速で回転すると同時に周囲に旋風を撒き散らし天に昇る。


(おー。あれがダウンからの復帰方法かー)


 敵とはいえ蛟が昇る様はまさしく昇竜を体現しており、俺の体に最初の咆哮とは別種の震えが走る。思わず言葉が漏れる。


「……かっこいい!」

「先輩! 今はそんな事言ってる場合じゃないですよッ!?」

「……いやでも蛟欲しい。仲間なんねえかな? かな!?」

「そんな純粋な目で見られても困ります。――先輩! 攻撃来ますっ!!」


 蛟が展開し終えた魔法陣から氷の礫が次々と斜めに降り注ぐ。俺達は礫の隙間を縫うように避けていく。氷槍と比べて一撃の威力は劣るものの、数と速さが増したこの魔法は動き続けなければならず厄介だ。

 更に言うなら蛟は全体的に俺達の頭上5mの高さを維持しており、魔法も空中で展開している。その所為で魔法展開中に攻撃を加えて詠唱を中断する事が出来ない。


 礫の魔法を放ち終わった蛟が俺達に向けてまた突進を繰りだしてくる。一合目の突進は同じようにナギのカウンターの《閃花》でダメージを与え、二合目はくちはの雷華でダメージを蓄積する。

 するとまたしても蛟は倒れ込みダウン状態になる。そこに剣戟を振るうナギを見つめながら俺は思案する。


(ダメージ蓄積で倒れたのか?それとも《雷華》だからなのか?)

「……次の突進はこっちから攻撃していいか?」

「別に構いませんが、何か気になることでも?」

「……ちょっとねー」


 復帰した蛟の礫を避けながら俺はナギと言葉を交わす。ナギはフィールドを流水の流れのように縦横無尽に動きながら避けるのに対し、俺はあまりその場を動かず体の捻りだけで避ける。偶に避けきれないのは木剣で弾き、くちはが頭から落ちないようになるべく激しい動きを控える。


 三回目ともなると蛟の突進を回避するのにも慣れ心にも動きにも余裕を持って動ける。何の危なげもなくくちはの《雷華》を当てることが出来た。

 攻撃が当たった蛟は短く鳴くとその綺麗な体を地面に激しく打ち据える。

 どうやらダウンの条件はダメージ蓄積量ではなく、ある種の攻撃を受けると起こると設定されているようだ。それが魔法攻撃か雷属性攻撃なのか分からないが少なくとも《雷華》で落とせることがはっきりした。


「先輩はこれが確かめたかったんですね」

「……《雷華》一撃で落とせるかなーって」

「それを踏まえた作戦とかありますか?」

「……ないよ。気になっただけだし」

「え?」

「……離れたがいいよー」

「はい? きゃっ!!」


 ナギは慌てて蛟から距離を取り回転攻撃から逃れる。俺は昇っていく水竜を羨望の眼差しで見ながら、


「……《雷華》のクールタイムがもう少し短かったらハメが出来るんだけどねー」

「ハメですか?」

「……復帰の後は今みたいに礫の魔法打つからその詠唱中を《雷華》で落として、また復帰して落としてってみたいに」

「仮にも湖の主が嵌められる姿は見たくないです……」

「……俺は敵を嵌めると気持ちいいんだがなー。あだっ」


 話しながら魔法を回避した所為か氷の礫が額にぶつかる。見た目では拳よりも一回り小さい氷の塊が軽く当たった程度のエフェクトなのだが、俺の主観では脳を揺さぶる衝撃とHPバーが一割弱減るという事実が残る。

 しかしあくまでそれは俺の主観なのでナギには伝わらなかったらしい。彼女はじと目で俺を見て平坦な声で注意を促すだけだった。俺の自業自得なので仕方ないが。俺は肩を竦めるのみに留める。


 迫ってきた蛟にナギは《閃花》を叩き込み、反転しての突撃に《雷華》を当ててダウンさせる。そこにナギが剣戟を繰り出すを繰り返して蛟のHPを順調に減らしていく。HPバーが二本目に突入した時に

もう一度氷槍を出したが俺達は余裕を持って回避した。


(いくら湖の主といっても低レベルエリアだからこんなもんか。攻撃力は高いから注意しないとだが)


 必勝パターンとまではいかなくてもある程度安定を見せてきた戦いに俺はそんな感想を抱く。ナギも同様な思いであったのか気の緩みみたいなものがあったのだろう。


 だから俺達は『それ』に気付くのが遅れた。

 ダウン状態の蛟にナギが連撃を繰り出している最中、蛟の二本目のHPバーの半分――全体のHPからしたら残量25パーセントを切った瞬間に蛟の体が青いオーラを薄く纏う。

 肌が粟立つ感覚を覚えて警告を発しようとする前に俺は白い衝撃に吹き飛ばされた。転がり地面に這い蹲った状態になった俺はそこから急いで顔を上げると、青く光る蛟が天に昇っている。俺は自分とくちはのHPを確認して共に七割を保っていることに安堵する。


(俺とくちはは蛟から離れてたからな。……ッ!!)


 自分達よりも近くにいた彼女の事が心配になり、俺は慌てて周りを見渡しナギを探す。直ぐに俺から少し離れた所に倒れている彼女を見つけて、動かない事に眉を寄せる。

 ピクリとも動かないナギの様子と彼女のHPバーが六割削れているのを見て、俺は彼女が<気絶>状態になっている事に気が付く。更に畳み掛けるように蛟が魔法陣を展開している。


「……くーちゃん。彼女起こして」

「きゅっ」


 俺は考えるよりも早く魔法陣からナギを守るように滑り込み、相棒にナギを任せると木剣を構えて前方だけに神経を集中する。

 俺は次々と飛来する氷の礫を打ち落としていく。通常では反応できない物も【見切り】スキルで弾道を予測し、予測したものに合わせて剣を振るっていく。致命傷になる礫を優先的に落としているので体に幾つも裂傷や打撲痕が出来るが無心で行為を続ける。

 途中何度も木剣が壊れるがその度に高速でウィンドウを操作して瞬時に予備の剣を装備する。そうして動きを途切れさせること無く、幾つもの装備を使い潰してたった一人の為の剣の結界を作り上げる。

 最後の礫を叩き落とすのと同時に最後の木剣が砕け散るのを見届けると、俺は詰めていた息を吐き呟く。


「……あと、任せた」

「――任されましたっ」


 一陣の白い風が俺の傍を駆け抜ける。ナギは自身の能力値の限界まで体を加速させ、刀の放つ蒼い光を軌跡に残しながら蛟の元へと疾駆する。

 ナギに気付いた蛟が彼女を迎撃するせんと魔法を展開するが、彼女の頭上から放たれた輝く雷球がそれよりも早く激突し蛟の体を撃墜する。

 力無く落ちてくる水竜を不屈の精神を宿した琥珀色の瞳で注視しながら、ナギは桜色の小さな唇から想いを零す。


「お返しです。――《烈風》!!」


 蛟が地面に激突する寸前、ナギは疾駆の勢いそのままに両手で握った力の塊を横に一閃する。蒼い閃光を水蛇竜に刻みながら刀を思いっきり斬り払う。蛟のHPバーが一気に減少し消滅する。

 ナギは刀を振り抜いた体勢になりながら蛟の後方でようやく止まる。そして姿勢を自然体に戻し、刀を鞘に納める。それと同時に空中で不自然に固まっていた蛟がたくさんのポリゴン片へと砕け散る。


 輝く大量の欠片のカーテンの奥。彼女はこちらを体を向けると腰の前で手を組み、はにかんだような笑顔を浮かべたのだった。

 刀アビリティの名称変更。

 『居合い斬り』→『閃花』

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