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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第一章 彼は新しい世界に触れる
16/88

15.彼は釣りに酔いしれる

感謝の二本目です。



あらすじ:まだ釣り

「……この川の先に湖があるんですか?」


 恰幅の良い男性――トミさんは俺の言葉に頷くと、


「ええ。リクさんは【釣り】スキル8だそうですから、ここよりも南東に行った所にあるその湖のほうが宜しいかと。あそこの方がレア度の高い魚が獲れますから、レベル上げと資金稼ぎにはうってつけですよ」


 トミさんはおっかなびっくりと言った様子で、朽葉を撫でている。

 最初はトミさんに触れさせなかった朽葉だったが、トミさんが俺の見たことのない黄金に輝く魚を取り出し与えるとすっかり心を許している。

 まったく現金なことだ。誰に似たのだろうか。


 ちなみにこの魚は俺の【鑑定】では情報が一切読み取れない。

 しかもお金を払うという俺に対して、こんなのは簡単に釣れるから気にしないでいいと言ってきた。この人何者だよ。


 しかも先程のように俺にあった釣り場を教えてくれたりするあたり、釣り場の情報をかなり把握しているようだ。事細かに魚毎の釣り方のポイントを教えてくれる。

 本当に先生と呼んだほうがいいのかもしれない。


「……トミさんありがとうございます。早速教えてもらった湖に行ってみます」


 俺はトミさんと釣り同士としてのフレンド交換するとそう言う。

 トミさんは嬉しそうに頷くとインベントリから一本の釣竿を取り出す。


「リクさん。これを貰ってくれませんか?」


 俺はトミさんが取り出したそれを見る。


Name:蒼柳の釣竿     Category:道具

★★★

竿から糸、針まで全て蒼柳から作られた一本の釣竿。蒼柳特有のしなやかさを持つこの釣竿はどんな大物が掛かっても折れることが無い。


「……こんな良い物貰えません」


 俺は慌てて首を振る。トミさんは真面目な調子で話す。


「この釣竿は私のレベルでは少々役不足でして、アイテム欄にずっと置いていたんです。思い出の品ですから売るわけにもいかなかったのです」

「……だったら尚更、トミさんが持っておくのがいいのではないですか?」


 俺の言葉を彼は首の動きで否定し、


「道具は使われてこそ真価を発揮します。インベントリで埃を被るよりは使われた方がこいつも喜びます」

「……トミさん」


 それでも躊躇う俺にトミさんは恥ずかしそうに続ける。


「それに、釣り仲間は多いほうが楽しいですから」

「……分かりました」


 俺は苦笑して差し出されている釣竿を丁寧に受け取ると頭を下げ、


「……大切に使わせていただきます」


 頭を上げるとトミさんが照れくさそうに笑っていたので俺も笑い返した。



  ◆



 トミさんに紹介してもらった湖は『クレア湖』とよばれるエリア。

 陽光を受けて水面がきらきらと光を反射している。おぼろげに対岸が見えるのでそんなに大きな湖ではないのだろう。

 水は澄んでいて綺麗だ。

 俺は風に乗ってきた清涼な匂いを体に染み渡らせるように吸い込む。

 湖畔で読書と洒落込みたくなる風景だが、生憎読むべき本は持っていないし、今日は釣りをするという目的がある。


 俺は適当に座ると蒼柳の釣竿を湖に振る。

 五分程待っていると竿に反応がきた。浮きが沈み魚がきちんと食いついたのを確認すると同時に、竿を思い切り立てる。

 糸に余裕が出来たらリールを巻き、巻けなくなったらまた竿を立ててを繰り返す。


 川で使っていた釣竿は丈夫な木の棒に糸と浮きと針という店売り最安値のものだったが、今使っている蒼柳は手ごたえはしっかりしているのに軽くて使いやすい。

 ファンタジーの神秘を感じながら俺は釣竿に込める力を強くする。


 大きな水飛沫と共に五十cm程の魚が空中に身を躍りだす。それはもう一度湖に沈むが、俺がリールを巻いていくと完全に湖から姿を現す。


Name:スノーカープ      Category:魚介素材

???


「……白いな」


 地面でびったんびったん跳ねる鯉を見てそうぼやく。

 【鑑定】が足りないから確信はないが雪のように白いからスノーなのだろう。

 ちなみに朽葉はお腹いっぱいになったのか近くで寝ている。

 スノーカープをアイテム化してインベントリに放り込み釣りを再開する。


Name:コマアユ       Category:魚介素材


大きさは十cm前後程に成長する。塩焼きや天ぷらなど調理方法は多岐にわたる。淡白な白身が美味である。


(レア度ゼロなんかもあるのかー)


 そんな情報は置いといてテキスト文を読んで思うことが一つ。


「……鮎、食べたい」


 木に刺して焚き火で焼くぐらいなら出来ないだろうか。

 着火する道具を持ってないし【火炎魔術】のスキルも育てていない。魔力で生み出した火って料理に使えるのか?

 くちはがいつの間にか起きて来て俺の足元で座っている。朽葉にも生魚だけでなく調理したものも食べさせてやりたい。


 しかしあれもこれもと手を出すと収拾がつかなくなり、中途半端なキャラクターになってしまうので、料理は当面の間諦める事にする。

 《Unlimited Online》では空腹度というシステムは導入されていないのであせる必要はない。

 その割には食料アイテムや【料理】なんてスキルがあるんだから面白いし、料理人を目指しているプレイヤーもいるのだから楽しい。


 俺は時折、朽葉の相手をしながら一日中釣りをして過ごしたのだった。

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