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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第一章 彼は新しい世界に触れる
15/88

14.彼は釣りに魅了される

ランキングが嬉しくて急遽本日二本立ての一本目。すべての読者さんに感謝を込めて。



あらすじ:釣り

 コハネ達と会った次の日。

 俺は『カームの森』の川で釣りをしている。

 日課になっている【釣り】スキルの鍛錬の風景だが、今日はいつもと違う点がある。


「……やべー。楽しいわー」


 普段は微動だにしない釣竿が面白いように反応する。釣りあげてみると、そこには十センチ程の活きのいい魚が掛かっている。

 今日はこれで五匹目。釣りを開始してまだ一時間しか経っていない。久々に上機嫌で声も弾む。


「……釣り本当に楽しいわー。今年で一番楽しいわー」


 俺らしくないハイテンション(傍から見たら普通に見える)でどんどん釣っていく。

 毎日の定位置となった岩に腰掛けた俺の隣には、凄い勢いで魚を食べていく朽葉がいる。

 この見事な食べっぷりを見るに、普段は相当我慢していたのだろう。

 俺は自分の不甲斐無さと自分の眷属の健気さに涙しながら、声高らかに宣言する。


「……くーちゃん待ってろ! お腹いっぱい魚たべさせてやるからな!」

「きゅッ!!」


 千切れんばかりに白い尻尾を振って俺に答える朽葉。その愛らしい様子に俺は更にやる気になる。

 なんだか地球も釣れそうな気がするが、それは単に根掛かりだと気づいたが、そんなことはどうでも良くなるくらい気分が高揚している。


 三時間も動かない浮きをじっと眺める俺の姿を想像して欲しい。

 そんな虚無な時間を毎日続けていたのだから、少しくらい羽目を外しても大目にみてもらいたい。


(……ナギにはホント感謝しないとな!)


 俺は自分の拳を保護する青黒い皮製のグローブを見る。

 俺がこんなに釣れるようになったのは、スキルレベルが上がったわけでも釣りの心に目覚めたわけでもない。

 この穴あきグローブのお陰だ。


Name:青蜥蜴のライトグローブ  Category:腕装備

★★★

DFF +5       【釣り】 +4


 マリナ海岸に生息する青蜥蜴(アクアリザード)の皮を加工して作られた軽手袋。防御性能の低い軽手袋においては中々の防御力がある。


(......★はレア度とかコハネが言ってたな)


 DFFが俺の初期の『古い皮鎧』と同等とか同じく初期装備の布手袋に至ってはDFF+0とか言いたいことはあるがそれよりも注目したいのは【釣り】+4の所だ。

 この表記は文字通りスキルにプラス4を加えるというものだ。


 こういった装備はブースト装備と呼ばれ、その装備をしている間はスキルに補正が掛かる。

 もちろん外すと素の値に戻るが、今回のようにブースト装備を装備してスキルの熟練度を上げる事ができる。

 スキルに入る経験値は、失敗するよりも成功したほうが多く入るからである。


 ブーストスキルはゲームにおいてはそこそこ貴重な程度の分類に入る。

 まだサービス開始から二週間も経っていない今の状態では、同じ装備でもスキルブーストの有無で値段に10倍近い差がでる。

 こんな貴重な装備を何故俺が持っているのかというと、『黒猫亭』でナギにスキル欄を見せた際に、俺が釣りをしていることを知って貸してくれた。


 モンスターのレアドロップだったのらしいが、彼女は【釣り】スキルは使っていないし、今の姫巫女の格好に合わないから装備する気はないらしい。

 最初は俺にあげようとしていた様子だったが、いくらマイナースキルの【釣り】でもブースト装備であることは変わらず、そんな高価な物を貰うわけにはいかないと断ると、じゃあせめてと貸与という形に落ち着いた。


 その時は申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、今は感謝の念が溢れ返っている。本当に現金だと思うが釣りが楽しくて止められない。

 ナギには妹の件とは別にお礼をしなければいけない。


 とりあえず感謝の気持ちを釣りの楽しさと共にフレンドメールで送ってはおいた。


「どうも。よく釣れますか?」


 釣りを再開させようとする俺に声が掛かる。

 声のした方を振り向くと、四十代前半の恰幅の良い男性が、人のいい笑顔を俺に向けている。

 見下ろしている形になっている事に気付き、岩を降りようとする俺を手だけで制すと、男性は白髪の混じった頭を掻きながら、照れくさそうに言う。


「いや失敬。釣りをしている人は珍しかったので、つい声を掛けてしまった」


 男性が担いでいる釣竿を持ち上げてみせる。同類を見つけて嬉しくなったのだろう。


「…………いえ自分なんてまだまだです。……装備の力を借りて釣れてるような素人ですから」


 俺はそう言って青黒いグローブを軽く叩く。男性は驚いた顔をして、


「ほうそんな便利なものがあるんですか。いやはやこのゲームは奥が深いですな」


 彼はしきりに感心している。俺のほうも男性に興味が湧いてきた。この人からは同じ感じがする。


「……あの、失礼を承知でお尋ねしますが、【釣り】スキルのレベルを教えてもらっても宜しいですか?」

「ん、私のスキルですか?確か40前半程だったような気がしますね」


(この人すげー)


 まさしく先生と呼ぶに相応しい人だ。まあ失礼だし恥ずかしいから呼ばないけど。

 そんな事を思っていると男性は話を続ける。


「ゲームの、しかもファンタジーの世界で釣りとは呆れられるとは思いますが、何分これが私の趣味ですからね」

「……俺は素晴らしいと思います。実は俺も【調教】にポイントを多めに振りましたからね。……現実世界だと動物に嫌われてしまってる分、こちらで楽しもうかと思いまして」


 俺はそういうと朽葉を膝に乗せ、優しく頭を撫でる。


「ほう。【調教】ですか。私が言うのもなんですが難儀なものを選びますな」

「……はは。友人や妹にもよく言われます。でも色んな楽しみ方が出来るのが、《Unlimited Onlin》の醍醐味ですから」


 モンスターの軍勢を仲間と薙ぎ倒す勇者プレイや、伝説の魔法使いにだってなれるし、世界一のコックや貴族お抱えの吟遊詩人にだってなれる。

 だから毎日釣り三昧でも、好きなだけペットと戯れるのも自由なのだ。

 男性も同じ考えなのか俺の言葉に嬉しそうに賛同する。


「ええ、まったくですな」


 そして俺と彼は顔を見合わせて笑いあったのだった。

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