12.彼は彼女の言葉に耳を傾ける
あらすじ:ナギ
俺はナギと並んで『黒猫亭』を一緒に目指す。
「コハネちゃんからは、リクさんがテイマーだと聞いていなかったので驚きました」
ナギはそう言いながら胸の朽葉への抱擁を強くする。
ナギの巫女装束と白キツネの組み合わせはとても似合っていて見栄えする。
ゲームの中で言うことじゃないが、どこかの神話にでも出てきそうな神秘的な雰囲気が漂う。
「……あいつは、俺のことを何て言ってた?」
「え、ああコハネちゃんがリクさんの事を何て言っていたかですか。そ、そうですね――」
「……正直で大丈夫」
ナギが躊躇うような視線をこちらに何度か送ってきたので、俺は安心させる意味を込めて彼女に語りかける。
それに俺には、彼女が妹に言われた内容が大体予想が付いていたので、別段気にしていない。
予想がついているなら聞かなくてもと思わなくもないが、話の流れというやつだ。
「――ええとっ、落ち着いていて寡黙な方だと聞いていますっ!」
(いい娘だなー)
十中八九、俺の妹はそんな奥ゆかしい気の効いた台詞を吐くような人間ではない。
十四年間紅羽の兄をしてきた俺が保障する。
ナギが俺を傷つけないように、配慮して言葉を選んでくれたのだろう。
優しい性格が移るように、ナギの爪の垢を煎じてコハネに飲ませてやりたい。
性格の似てないコハネとナギが、どのようにして知り合ったのか純粋に気になった。
「……妹とはどうして知り合ったんだ?」
「βテストの時にコハネちゃんに助けてもらったんです。それからお話したりパーティを組むようになりまして――」
妹の事を嬉々として話すナギを見て、俺はこの子は本当に妹の事を大切に思っているんだな。とこちらも嬉しく思った。
「――それでですねっ!コハネちゃんが『クリムゾン・ベアー』を倒した時にですねっ!!って、すみません私ばかり喋ってしまってっ!!つまらなかったですよね……」
眉を下げこちらに手を振ってわたわたするナギに俺は首を横に振り、
「……いや。もっと聞きたい。続けてくれ」
俺は柔らかく微笑んで彼女を見る。
「あ。……あっ」
ナギは頬を紅色に上気させこちらから視線を逸らす。
久々に笑顔を作ったから不器用な感じになって、吃驚させてしまったのかもしれない。昔のようには笑えていないのかもしれない。
今後こういう種類の笑みは自重する事を心に決める。
「……コハネちゃんから聞いて……。でもリクさん笑うと…………」
小声でぼそぼそと言っていて聞き取れない。
聞こえているであろうくちはは理解出来ないらしく、不思議そうにナギの腕の中で彼女を見上げている。
「……話、続けてもらって、いいか?」
「え、あ、はい! コハネちゃんの話でしたよねっっ!! 分かってます分かってますよっ!?」
「……お、おー」
ナギの勢いに押され要領の得ない返事を返す。
ナギは何度か深呼吸をして落ち着きを取り戻し、俺に騒いですみませんと頭を下げる。
そして普通の調子で話を再開してくれた。俺はそれに軽く相槌を打ちながら彼女の横顔を盗み見る。
ナギの頬にはまだ朱が差して少し色っぽく、白く滑らかな肌と相まっていつまでも見ていたくなる程美しかった。
◆
「おにーちゃんっ!」
『黒猫亭』の木製の扉を開けると、妹が猪突猛し―――いや妹のイメージに猪を使うのは可哀想なので言い換えるが、兎のような素早い身のこなしで妹が俺に飛び掛ってきた。
俺はそれを不動の体で受け止める。
「……他は?」
「えっ!? ああ、はい。他のメンバーは時間が合わなくて今日は来れないと連絡がありました。わざわざ御足労頂いたのにすみません」
「違うんだよお兄ちゃんっ! 皆は悪くないんだよっ。集まらなかったのは私が急にメンバーに呼びかけたからなんだよ!」
どうやらうちの妹はよそ様に迷惑を掛けているようだ。
「……すまない」
「いえ、慣れてますから」
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。機会があったらゲームの中でナギや他のメンバーにご飯くらいは奢ろうと思う。
コハネは俺の腰に抱きついたまま口を尖らせて俺を非難する。
「確かに私が悪いけどさ。お兄ちゃんもペットの事を教えてくれないなんて酷いよっ! 私イナサさんからくちはの事初めて聞いたんだからねっ!」
コハネに痛いところを突かれた。それを言われたら何も言い返せない。
顔を見ればコハネもイナサ同様俺の事を心配していたのが言葉にしなくても分かる。
「……すまない」
「ん。いいよ」
でもこれだけは言っておく。
「……友達には、謝っとけよ」
「うんっ!」
素直なのは妹の良い所だ。




