10.彼は友と語らう
あらすじ:おしゃべり。
「ゲームだから何でもかんでも教えろとは言わないが、せめて相棒が見つかったのなら教えて欲しかったよ」
「……すまない」
燃えるような赤髪の頭を掻くイケメンに俺は頭を下げる。予想よりも心配をかけていたらしい。
そのイケメンたるイナサは呆れた苦笑いを零れるような笑顔に変えて声を弾ませる。
「小言はこれぐらいにしとくか。悪い報せじゃないんだからな。改めておめでとうなリクッ! しっかしどこで見つけたんだ天孤の子供なんて! この辺にはいないレベルのモンスターだぞ?」
まるで自分の事のように祝福してくれるイナサの言葉を嬉しく思いながら俺は答える。
「……『カームの森』だ。お前が教えてくれた」
「あそこか? けどあそこは天孤なんて出ないはず。……いや、でも……そう考えたら……」
「……?」
イナサがぶつぶつ呟いて考え込んでしまったので、俺は手持ち無沙汰に店内を見渡す。
木目調で温かみのある調度品や洒落た木枠の窓から差し込む陽光で穏やかな雰囲気が店内に満ちている。
流れるBGMは心を落ち着け、女性NPCのウェイトレスが笑顔で他の客の注文をとっている。
挽いたコーヒーの香ばしさに微かにデザートの甘い匂いが混ざっている。
俺はテーブルの上のコーヒーを口に運びながらもう一度店内を見渡す。正確には他の客の様子を盗み見る。
(……注目されてる)
俺が、ではなく俺の膝の上で丸くなって寝ている朽葉が、である。
(テイマーだからか?)
【調教】の難易度からモンスターを連れているプレイヤーは珍しい。現に俺は今まで他の『調教師』を見たことが無い。
イナサも言っていたがこんな序盤から朽葉に出会えたのは幸運だったのだろう。
「リク、どうした?」
「……見られてる。テイマーだからか?」
「丁度俺もそのことについて話そうと思っていたんだ。『ラタトゥス村の悲劇』って知ってるか」
俺は首を横に振る。
『ラタトゥス村の悲劇』とはラタトゥス村で突発的に発生するクエストである。
発生条件はラタトゥス村で一晩泊まること。そうすると泊まった夜中に強制的に目が覚め、大勢の狐の魔物が襲ってくるので退治するというのがクエストの内容。
実はこれは村人全体が既に殺されて代わりに狐の魔物が化けて村人の振りをしているということなのだがヒントがまったく無い。
昼間まで友好的だった村人が夜には魔物になって襲ってくる恐怖。セーフティーエリアからの戦闘エリアへの変貌。
このクエストはあまりの理不尽さと敵Mobのレベルの高さで、プレイヤーの不評を買い、正式サービスではなくなったらしい。
なんせ復活ポイントが高レベルMobの巣窟であるラタトゥス村からなのだから。
実際に経験したプレイヤーが少ないにも関わらず今なおプレイヤーの心にトラウマを残すこのクエストは掲示板では都市伝説的立ち位置で語り継がれている。
「つまり狐の魔物は目立つってことだな」
「……なるほどー」
そう俺に語ってくれたイナサは肩を竦めて自分のコーヒーを飲む。その仕草があまりに様になっている。
余談だが現実で俺と紅羽、湊の三人で遊びに言った時、紅羽と湊がよく兄妹だと間違われる。イケメン兄妹に見えるらしい。
さらに妹談によると「お兄ちゃん顔は整っているのに、身に纏う雰囲気がもの凄く怖いんだよっ!! 台無しというかむしろ整ってるから更に怖いんだよっ!!」と言ってきた。ちなみに本人はフォローのつもりらしい。
「うん? どうしたリク」
「……いや」
そうか。とイナサは言いカップを置き指を組んでテーブルに置く。
「んでこれは俺の予想なんだが、くちはは『ラタトゥス村の悲劇』の名残なんだと思う」
「……?」
「折角作ったモンスターのデータだから開発側がカームの森のレアモンスターにしたんじゃないか?」
『レアモンスター』。
ダンジョンやフィールドの決められた場所に極低確率でポップするモンスターで、モンスターによっては倒すことで経験値が馬鹿みたいに入ったりレアアイテムをドロップしたりお金を沢山得ることが出来る。
「……そっか」
俺は膝で寝ている朽葉に視線を落とす。天に伸びた三角の獣耳をときおり震わせて安心しきって寝ている。
俺は朽葉にまつわる話を聞き、レアとかは関係なく彼女が仲間になってくれた事を改めて嬉しく思った。
俺はこの後イナサと久しぶりに語らい和やかな時間を過ごしたのだった。




