褒めてあげてください。他でもないあなた自身を。
彼は、今日も起きて会社に行く。
彼が社会人になり、大分月日が経った。
社会に出てからは、誰かに褒めてもらうことは少なくなった。
出来る事が当たり前で、出来なければ叱責される。
そして、それでも出来なければ、その先は見えている。
そんな日々の中、いつしか彼の心は麻痺していた。
そして、彼はある小説と出会った。
その小説には、「毎日頑張っているあなた自身を褒めてあげてください」と書いてあった。
その小説は、少年少女が四苦八苦しながら、自分の足りないところを埋めようと、補おうと頑張っている小説だった。
その少年少女に対し、保護者的立場の大人が子供たちに諭す言葉だった。
いつものように、読み飛ばそうとした時、その後に続く一文が彼の目に止まった。
そこには「他でもないあなた自身があなたの行動を褒めなくて誰が褒めるというのですか」と書いてあった。
彼は最初なんとも思わなかった。
どこかで聞いたようなありふれた言葉だったからだ。
でも、ふと仕事の最中に、その言葉を思い出した。
最近の、私はどうだったのだろか。
頑張って頑張って、でも、成果が出なくて、実績が出なくて、もがいてもがいてそれでも駄目で、叱責される日々の中、私は私自身を褒めてあげられていただろうかと。
答えは、否だった。
彼は、自分自身を責めていた。
できない自分を責めていた。
何故できないのかばかりを考え、責めていた。
いつも、心にあるのは何故できないのかという鬱とした思いだけだった。
ふと、彼は自分を褒めてみようと思った。
別にやってみても損はないと思えた。
だから、出来ているところを数えて、自分を褒めてあげることにした。
そうしたら、少しずつ状況は改善していった。
少しだけ仕事が楽しくなった。
少しだけ笑顔を浮かべる事ができるようになった。
少しだけ会社に行くのが楽しみになった。
その後、彼は、周りを褒めるように努力している。
たとえ、結果が出なくても、その努力を評価し、もし、その努力の方向がずれているのであれば、軌道修正して褒めるようにしている。
自分がその小説に教えてもらったことが相手に伝わるといいなと思いながら。
褒めた相手も自分を褒めてあげられるようになればいいなと思いながら。