災難06 自殺計画
「あ、その……自殺計画中だったんですか。申し訳ありません」
何故か、綺麗なお辞儀をして謝る実坂井。
「やめろ! 俺は自殺のことなんてこれっぽっちも考えてない!」
親指と人差し指をくっつけて、できるだけ小さい円を描く。
「そうですか」
良かった。という感情を抱いたのか、息を吐いて胸をなで下ろす実坂井。吐いた息から甘いシナモンの匂いが漂い、俺の頬が一気に赤くなった。
「?」
「あ、いや、気にするな。それよりもお前、俺のところばかり向いとらず、あのハゲ担任の話も聞いて上げろ! あいつ、転校生に見向きもされないで、目の裏に涙を溜め込んでるぞ」
見ると、担任は頭の輝きを少し抑え、微妙に唇を食いしばって、涙が出てこないように必死に耐えていた。あ……マジ泣きしそうだ。立派なハゲのくせに、情けねぇぜ!
「ホントだ……。わかった。私前を向くよ」
一度席を立ち上がり、椅子を正面に戻して再度座りなおす実坂井。今、実坂井の口調が変わった気がするが、早くも俺と打ち明けたってことでいいのかな? まあ、打ち解けるってことは大事だしな。こういう面に対しては、俺は優秀なことをしたのかもしれない。
「えー、今日からまた新学年として学校生活が始まったわけだが、くれぐれも、変なことはしないように」
涙の踏ん張りから元に戻った担任は、そう言ったあと、軽くため息をついた。
「それじゃあお前ら、時間も時間だし、始業式に行くぞ~」
担任が、一目散に廊下に出ていく。
そうだったよ、てっきり始業式なんて終わったように思っていたよ。
「ねぇ、本落さん?」
なんだよ本落って、だんだん意味がわからなくなってきたぞ?
「どうした、かさかさ?」
「か、かさかさって……私は別にかさかさじゃない!」
俺が実坂井に名前を覚えられないので、ムキになって実坂井のことをかさかさ呼ばわりする俺。かさかさじゃないのは見て取れるが、そこを突っ込まれるとは思わなかった。
「すまんすまん、気にするな実坂井」
「う、うん……」
コクリ……
小さく、しかし不満げに頷く実坂井。
さっきから敬語ばかりでよくわからなかったけど、こいつにも可愛いところがあるじゃないか。今朝のあれは冗談抜きで忘れるとして……。
「ほら、実坂井、脱落。お前らもさっさと並べ!」
気がつくと、担任が顔を覗かせている他、誰一人として教室に残っているものはいなかった。くそっ! 実坂井との会話に気を取られてたよ。
「よし、とりあえず行こうか」
「うん」
意外と素直な子のようだな。