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災難19 四者択一

 それより、せっかく雨宮を呼んだのだから(勝手に来ただけだけど)なにか頼もうかね。


 俺は、雨宮に頼めそうなことを考える。



Ⅰ・購買でパンを買ってきてもらう。

  いや、これはパシリになりそうだからやめておこう。女の子を使って買わせるのは商に合わない。波久礼ならいいんだがな。



Ⅱ・食べたパンの袋の後始末。

  これはもう食べたあとしか頼めんやつだわ! 今頼めることだよアホ!



Ⅲ・…………………………。

  なんか考えつけよ俺っ! なに心の中でも黙ってんだよ! つーか無言を三番に入れるな。おかしくなるわ。



「ねぇ、さっきから何を考えているわけ?」



Ⅳ・実坂井の機嫌を元に戻させる。



「これだぁ――――――――――――――――――――――っ!」


 俺は、ついつい思いついたことに雄叫びを上げてしまい、Bクラス全員の視線が俺に向く。やべぇ、恥ずかしいぜ。


「な、なによ急に~」


 俺のすぐ近くにいた雨宮は、耳を塞いでうずくまっている。


「おお、わりぃついうっかりな」


 どんなうっかりなのだろうか? 自分でもわかっていない。


「で? 何がこれだぁ――、なの?」


「ああ、実はお前に実坂井の面倒を見て欲しいんだよ。今朝から妙に元気がなくてな。授業中、一度も俺の方に振り向いてくれなかったんだよ」


「あんたは授業中何をしたかったのよ……」


 何をしたかった? その質問は愚問だな。別に俺は何もしたくねぇよ。ただ、昨日はずっと俺の方向に向いていた奴が、急に今日振り向いてもくれなくなったらなんだか変な感じがしないか? アイツは真面目だからだとも思うが、せめて休み時間くらいは振り向いて欲しかったよ。


 俺は心の中で今日の無難を密かに語る。


「まあ、気にするな。それより、実坂井の面倒を見てはくれまいか? 俺は購買でパンを買ってくるからよ」


「はいはい、喧嘩したなら素直に言えばいいのに」


 喧嘩はしてねぇよ! そんな感じのことはしたがな。


「んじゃ、よろしく頼むよ」


 そう言って、俺はそそくさと学食に向かう。


 実坂井も、女の子同士なら何の問題もなく話し合えるだろう。それに、きっと俺に悩みを打ち明けられないのは、俺が男だからかもしれない。ならば、雨宮と親しくなれば、雨宮に悩みを打ち明けてくれるかもしれない。そんなことを考えた上で雨宮を実坂井の元へ投入した俺って、なんかとっても賢いやつなんじゃないか?


 Dクラス隣の階段を下りて二階の廊下を歩きながらそんなことを思う俺。


「なんとか先輩、なに死んでるんすか?」


 そんな俺に、聞き覚えありまくりの声が聞こえてきた。


「ぐっ、すまんな……実は俺の寿命はあとマイナス五時間だったんだよ」


 廊下に倒れながら心臓を抑さえる俺。


「な、なんと! それってもうアウトじゃないすか!」


 俺の目の前には、俺を見て慌ただしくしている波久礼の姿があった。


「だから、こうやって死んでるんだろう」


「いや、滅茶苦茶喋ってますけど」


「ふん、動く屍とでも呼んでもらおうか」


 男らしい口調を上げながら目つきを格好よくして言う俺。


「いや、動いてねぇしですし」


 なんだ、そのよくわからん無駄に繋げた敬語は!


 確かに、俺は心臓を抑えたっきり喋ってはいるが動いていない。


「ふん、喋る人体模型とでも呼んでもらおうか」


 またまた男らしい口調で目つきを格好良くして言う。


「うす、喋る人体模型先輩!」


 せ、先輩は付けるんだな。


 何故か、廊下を歩く下級生たちが珍しそうに俺と波久礼の行動を見据えている。なんだか恥ずかしいのでやめて欲しいな。


「で? 喋る人体模型先輩は今日ここに何をしに来たんですか?」


「いや、俺は別に一年に用はないんだが」


 廊下に倒れて心臓に手をつけていた俺は、


「さあたちあが~れ~、人体~模型~♪」


 波久礼のなんだか聞き覚えのあるリズムで、思わず俺は立ち上がってしまった。


「おお、これは確実に動いて話す人体模型先輩ですな」


「んだな。これからは『ハイスペックに行動できる特化した、動いて話す伝説の理科準備室に一度も置かれたことのない人体模型先輩』とでも呼んでもらおうかな」


「な――――……」


「な? どうしたって?」


 俺は、波久礼に向かって鋭い目つきを向ける。多分、こいつは長いと言おうとしたんだろうが、んなこと言わせねぇ。コイツには((滅茶苦茶噛みましたで賞))の賞を与えなければあかんのでな。


 俺は、腕を組んで波久礼に話しかける。


「おい、波久礼、俺はなに先輩かわかるか?」


「えーとですね、それは先輩が知ってることかと――――」


「うおっ、頭痛が! やばい、俺の脳から俺自身の名前の記憶だけが抜き捨てられていく!」


「なんと――――――っ! 本格的なんとか事故じゃないですか!」


 なんだよ、なんとか事故って。


 波久礼は、予想以上に驚き俺の頭に向かって軽く拳を振る。


「うおっ、何すんだ」


「い、いや、叩いたら治るかな~っと」


 いやいや、コイツ今殴ったろ。ちゃんとグーで殴ったろ!


「グツグツ煮込み、防寒グ――――っ!」


 なんだか懐かしいセリフを吐く波久礼、そんな波久礼を見ながら冷静に戻る俺。こいつは絶対にあの長い俺の名前を言いたくないようだ。ならば、ここらでお開きとしようじゃないか。


「ん? どうしたんですか、ハイスペックに行動できる特化した、動いて話す伝説の理科準備室に一度も置かれたことのない人体模型先輩?」


「言えてんじゃねぇか!? お前記憶力決定戦の場に立ってこいよ!」


「はい? なんすかそれ?」


 俺が知るわけないだろう。そういうイベントは昔どこかでやっていたとは聞いたことはあるが。


「ふぅ……」


 思わず波久礼と疲れるほど話しあってしまったよ。俺はコイツじゃなくて購買に用があったんだ。早く行かねぇと蒸しパンと俺の欲しい、ルックスをよくするために欠かせない謎の分泌液が入った人には見せられないゴージャスなメロンパン。通称『ルックパン』を買いに行かねばならないんだった。


「波久礼、お前との最後の雑談はここで終わりだ。楽しかったよ」


 俺はそう言って波久礼の横を通り過ぎていく。


「ちょっ、最後ってなんすか!」


「…………」


「待ってください! 僕を置いていかないでくださいハイスペックに行動できる特化した、動いて話す伝説の理科準備室に一度も置かれたことのない人体模型先輩!」


 まだ覚えてやがったかその名前。


 つーか付いてきたいなら付いてこいよ。なにムーンウォークなりの足さばきで俺に手を伸ばしながら後ろに下がってんだよ。演技のつもりか? あれは生き別れの恋人のような、別れの演技をしているのか?


 とまあ、ついてこないなら仕方がない。俺は、一人で叫ぶ波久礼を置いて購買に向かった。


 はあ、面倒臭ぇ……。


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