災難15 人格不信
いつものように学校へ歩いて登校。だが、今日はなんだか違うところがあった。
そう、それは――――
「ほら、早く行くぞ~」
俺は、玄関前で座り込んで靴を履いている実坂井を急がす。
「待って、もう少しだから」
たまにいるよな、可愛い靴を履いているのだが、その靴を履くのに時間がかかる奴っていうの。俺は対して飾り気の無い靴だが、等の実坂井は自分の髪色に合わせてか、ほんのりとピンクの薄がかった俺には到底買えそうにない珍しい靴を履いていた。なんつーんだろ、あれ? 俺は生まれた時から一人っ子だから、そういう類のものは何一つわかっていない。人生に遅れをとっているということだろうな。
「なに突っ立ってるの? 早く行くんでしょ?」
「あ、おう」
いつの間にか、実坂井が先を越して玄関を飛び出していた。飛び出す実坂井の姿はまるで羽ばたく綺麗な蝶を見ているくらいで、なんつーか、その……捕まえたくなるような、鮮やかに見えた。
しっかし、まさか俺の家から女の子と一緒に出ることになろうとは……。よくもまあ、実坂井も俺の家に泊まると言ってくれたもんだな。ここにいるのは年のいい男子だ。何をしでかすかわかったもんじゃないと思うのだが……。
俺は、後頭を掻きながら、飛び出す実坂井に一言声をかける。
「おい、実坂井?」
「なに?」
「その、なんだ? あまり昨日みたいに男の家に上がり込んだりすんじゃねぇぞ?」
「……なんで?」
おっと、なんでときましたか。
俺は、頭を傾ける実坂井に向かって、目を細めてしんみりと言う。
「いいか? 昨日は俺だったから良かったものの、もし俺よりも年のいい男の家に上がり込んだら、お前の始めてが綺麗さっぱり無くなるかもしれないんだぞ?」
「ふ~ん、で?」
「え?」
実坂井が、ケータイを手に目を細めて俺を横目で見つめながら口元を緩めていた。
な、なんだ? お母さんにでも電話かい?
そう思ったのだが、実坂井は番号のところを指で三回しか押さず、どう見ても親への電話ではないような感じになって……って、三回って警察じゃねぇか!
「いや待て早まるな! 俺は何もしてねぇだろ」
「うっさいな! 下落が変なこと言うからだ!」
げ、下落……。昨日実坂井から新たなあだ名の脱落をもらったというのに、一日で下落というあだ名に書き換えられたよ。
というか、本当に口調が変わるんだな。
今の実坂井は、俺には横顔でしか見ることはできないが、微妙に頬を赤らめていた。
自分では気づいていないのだろうか? 口調が変わっていることを――?
だが、自分でも思う。今のは言いすぎたな。軽々しく女の子に行っていい言葉じゃない。ここはさすがに謝っておかないと。
「すまん実坂井。なんだかすまん」
さっきのことをそのまま口に出すのもアレなので、俺は一様すまんを二回言った。
すると実坂井は、腕を組んで俺に向き直った。
「どうでもいいから、行こ」
いつもの口調と、例の口調が混じりあったような喋り方。俺はさらに実坂井の本性が気になっていた。