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災難12 関係妄想

 よくあるよな、エロゲー主人公がアニメになると、入浴シーンで女の子と一緒に入ったとき何も起きないっていうの。エロゲーではあんなことやこんなことやってたくせにってやつ。俺も、あんなことやこんなこととかはこの際抜きにして、女の子お風呂に入る、ただそれだけのことをやってみたかったよ……。


 などと考えながらため息をついて隣の部屋の風呂場に行く俺。

 実はもう既に風呂は沸かしてあるんだよな。準備がいいだろはっはっは!

 制服を脱ぎ、下着を脱ぎ、今の状況が俺ではなく実坂井だったらうひょ――なのだが、そんなことは起きない。


 俺はタオルを手に風呂場へ行く。なんの飾り気もない一般的な風呂。遠いところから順に浴槽にシャワー。そのシャワーの目の前には大きな鏡があり、下は石鹸などを置く台になっている。


 俺は、少しシャワーを浴びたあと、浴槽に大まかに浸かる。

 うむ、ちょうどいい温度だ。さすがは俺、ますます準備がいいよなはっはっは!


 実は、実坂井のとこの風呂もこんな感じに初めからお湯が憑かれていたんだ。ん? 誰かがあらかじめ入れておいたって? 違う違う。俺自身が今朝このために入れておいたんだよ。まさかこんなふうに実坂井連れて上がるとは予想もしてなかったけどな。でも、ここでもし実坂井が来ていなかったら、風呂をあらかじめ入れておくことなんてなかったろう。俺は超能力者でも魔術師でもない。未来なんて見えないさ。でも、どうやら俺の『事故に会いそうな人を、助けたくて堪らない』という病によって、実坂井が俺の家に上がり込むと、無意識のうちに察知していたようなんだ。たまにはいいとこがある病だと、今日初めて思ったよ。


 俺は、瞼を閉じて、その上にタオルを乗せる。こうすると目の疲れがなくなる感じがするんだ。


 そのまま俺は無言で一息つく。

 今更思うんだが、今日一日で実坂井……三回も事故に遭いそうになってたな。最初はあの道路で猫真似をしていた時で、もう一つは帰りの……あれ? 二つしか見つからないぞ? 俺は、顎に人差し指を付けながら真剣に考える。


 あと一つあと一つ……


 あと一つあと一つ…………。


 そ、そうだあれだ! 朝のメガネを落としていたおばあちゃんだ!


 って、実坂井となんも関係ないねん! それにおばあちゃん、メガネ落として道路に足を踏み入れてないから、事故にあったってことにならないじゃん! なんで俺助けに行ったかな~? あのおばあちゃんのせいで、俺年寄りより先にあの世へ行きそうだったよ。


 なんてことを思い出しながらまたため息をつく俺。ため息をすると幸せも一緒に逃げていくというが、そういうのは本当なんだろうか? 噂話とかはたくさんあって信じがたい。


「それにしても……」


 どうして実坂井は事故に遭いそうになるのだろうか? まだあって初日だから道が分からなかったっていう理由もあるかもしれないけど、流石に二回も(一回目は意味不明)事故に遭いそうになることなんて、自殺でも覚悟しない限りできないんじゃないだろうか?


 それに俺は思うんだ。俺が実坂井の体を掴んで田畑に飛び込んだあと……。


 あいつなんつってた? 確か




 ――私があのままあそこにいたら、あの車も爆発して炎上してただろうし――




 この言葉がどうにも引っかかる。爆発しなかったことはいいことだ。しかし、何故あの場で俺が実坂井を守ろうとしなかったら車が爆発していたというのか? 俺には何一つわからない。


「まあ、難しいことは考えなくていいか」


 俺は、瞼に置いたタオルを放し、シャワーを浴びる。


「うわっ、泥だらけやん!」


 そんなことを思いながら、眉間にしわを寄せて体を洗っていると――


『ふんふんふ~ん♪』


 ん?


『ふ~~~ふんふ~~~ん♪』


 んん!


 何かと耳をすませて聴いていると、俺の目の前――隣の風呂場にいる実坂井の声が聞こえてきたんだ。


「なっ!」


 俺は、シャワーを止めて壁に耳を引っ付ける。


 女の子の声。女の子の鼻歌。


 実坂井の声。実坂井の鼻歌。


『ふふふふふふふふ~ん♪』


 い、意外にいいもんだな、風呂中の女の子の鼻歌ってのは! 案外定番の着替えシーンとかよりもいいかもしれない。いや、絶対に良い! なんせ、こちとらそんな覗き行為なんてしてないんだ。ただ風呂に入っているだけなんだよ。どっかの覗きさんとは一味違うんだ。


 俺は、風呂の片隅に赤面しながら耳を傾けて、俺流の俳句を思い浮かべる。



〔 風呂二つ

      女子の鼻歌

           耳に良い 〕



 なんという出来だろうか? この最初の文の風呂二つが、後の文と全く関係していないような、繋がりのない俳句は! 感動するよ。まさに感動のしようがない部分じゃないか! しかも、このしっかりした五七五。完璧じゃないか!


 俺は、自分の考えた下手くそな俳句を自画自賛する。


 こ、これやめんか! 誰が下手くそだ! 自分で言うなアホ!

 とまあ、俺の場合はこんな俳句になるが、きっと波久礼が考えるとこうなるだろう――



〔 イヤあぁん

      ああイヤあぁん

             イヤあぁん 〕



 いるよな、こんな奴。最初に五文字になるものを考えるだけでいいんだもんな。あとは〔ああ〕なんて付けておけば万事解決。最初の五文字によっては、すごい作品になると思うんだ。……波久礼みたいに。


『はぁ~、気持ちいい~』


 大きな水音と共に、実坂井の気持ちよさそうな声が聞こえた。俺の予想では、多分風呂に浸かったんだろう。俺は女の子の風呂シーンを直接見たことがないからわからない。


 って、寒っ! 俺いつまで壁に耳をつけてんだよ……。


 耳を外し、再びシャワーからお湯を出す俺。この泥だらけな体をさっさと洗わないとな。このまま上がったら、実坂井に嫌な目で見られそうだ。そう思った俺は、タオルに石鹸をつけて、体を――いや、まず頭だわ! 体を先に洗うと、次に頭を洗ったときまた体に汚いものがついてしまうからな。ここは常識的に頭から洗うのが得策なんだ。


 俺は、シャンプーを手に、頭を洗う。

頭の中にも意外にも泥があり、すごく違和感を感じたが、すべて取り払えたので良しとしよう。


『ん~、あったまる~』


 俺が隣にいるのが分かっているのか、実坂井は先程から妙に気持ちよさそうな声を上げていた。


『脱落のお風呂かぁ~…………えへへへ』


 な、なんだ今のは? 体を洗っていてあまり真剣には聞いていなかったが、嫌だったとかかな? それともあの笑い……。もしかして、俺の風呂にいたずらしてるとかか?


 再びシャワーを止め、体に石鹸を纏わせたまま耳を壁に付ける俺。(赤面状態)


『ふたつもあるけど、ちゃんと磨いてるのかな~?』


 ああ、磨いているとも! しかも、俺の病のせいで今日は無意識に一段と綺麗に磨かれているぜ!


 俺は、誰もいない風呂場で親指を立てる。


『こんなに綺麗だから洗ってるよね』


 うむ、お気づきありがとうだ。


『私もこんなに綺麗に洗えられればな~……』


 洗えられないのか……。確かに、力を入れて洗わなければいけないところも出てくるからな。女の子の力じゃ無理なところもあるのだろう。


『あ、あれ? なんだかココ、気持ちいい……』


 ……は?


 キモチイイ? 風呂場がツルツルということか?


『あ……んぁ……っ!』


 ちょ、なに今の可愛い声!

 実坂井の声だよね? 隣で今なにしてんの? ねぇ、なにしてんの!

 俺は、壁につけている耳をさらに壁に押し込むくらい強く当てる。


『なんだか脱落のこと…………に……う』



 あぁ――――――――――――――――――――――――――――――っ!



 壁に耳を当てすぎて逆に聞こえなくなったじゃねぇか! 今実坂井なんて言ったんだよ! 微かだが俺の名前が……じゃなくて、脱落って聞こえたぞ? なんて言ったかもの凄く気になるんだけど!


『…………………………………………………………もぅ!』


 うあぁ――――――――――――――――――――――――――――――っ!

 完全に聴き逃したぁ――――っ!

 心の中で色々と訴えかけていたら、次実坂井が喋ったこと完全に聞き逃したよ!


 くそぅ……て、俺はどこのド変態だ!

 我に戻ったように、壁につけていた耳を放す。

 なに実坂井の声に熱中してんだよ! アホかボケ!

 アホとボケの使い方が合っていない俺。まったく、動揺しすぎだ。

 俺は、止めていたシャワーから再びお湯を出す。


「熱っち!」


 急に出た熱いお湯に、思わず声を上げる俺。すると――


『きゃあっ!』


 実坂井の声とともに、浴槽の水が暴れだすような音が聞こえた。


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