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災難11 自信満々

「わぉっ!」


 俺の家を見て、実坂井が声を上げる。

 別に普通の家とあまり大きさに変わりはないが、唯一俺自身も声を上げざるおえないところが、この家の外側、なんと窓を除けば全て紫色で統一しているのである。


 何のために紫色に統一したのかは甚だ疑問であるが、俺が一人暮らしをする際に、うちの両親が、「建てるなら、紫色の家がいいわね」なんて言いやがって、別に俺が金を払うわけではないからこうなってしまった。


 まあ、ピンクとか女の子系の色じゃなくて良かったが、なんだかしっくりこない。


「んじゃ、制服も乾かさなあかんし、ほら、入れよ」


「う、うん」


 玄関の戸を開けて、実坂井からまず中に入れる。


「意外と綺麗だね」


 玄関に入るなり家の内部を見て素直に思う実坂井。


「まあな、一人暮らしをしてまだ一年なんだ。汚れてたほうがおかしいだろ」


 一年間で新築を汚くする奴とか、どんだけ不健康な奴なんだよ……。俺は別に不健康な奴じゃないからな。家事洗濯くらいはちゃんとやるさ。


 玄関の目の前に位置するまだ新築同然の綺麗な廊下には、数足のスリッパが並べてあり、一足一足色が違う。同じだと分かりにくいからな。


 人の家だからだろうか? 実坂井は玄関で何やら立ち止まって、廊下に足を踏み入れるのを遠慮しているように見える。


「どうした?」


 そんな実坂井を見て、俺は先に玄関に上がって実坂井を呼ぶ。

 初対面の奴の家に入るのは嫌だったのかな? でも、この泥だらけな状態で道案内ってのもなんだか嫌なわけで、こうするしかなかったんだよ。


 俺がこめかみを指で掻いていると、実坂井が申し訳なさそうに口を開いた。


「あの、その……靴下も汚くなっちゃったんだけど……上がってもいいの?」


「ん?」


 小さな声であまりよく聞こえなかったが、実坂井のもぞもぞした足を見て理解できた。


 そういうことか。確かに人の家に上がり込むのに、汚いままだと失礼だと思われるよな。俺が中学の時は、ワザと砂場で転がってから、平気で波久礼の家に乗り込んだという記憶があるのだが……。ホント真面目は怖い。


「大丈夫だ、心配するな。ほら見ろ」


 俺は、実坂井に向かって自分の汚れている靴下と、俺が立っていた場所を見せびらかす。


 茶色く濁った靴下に、泥が落ちている廊下。


「?」


 その光景を見て、実坂井が首をかしげる。

 あー分からないのか、仕方がないな。

 俺は、背中に手を伸ばし、かゆいところを掻きながら言う。


「別にそのまま入ってきてもいいぜ? 壁じゃなけりゃ廊下に泥が付いたって拭けば取れるんだからな」


 雑巾がけで一発だ。ヘタをしても二発だ。


「そ、そうなら……わかった」


 実坂井が、靴を脱いで廊下に足を付ける。

 ん? 思ったより泥なんてついてないじゃねぇか。俺なんて滅茶苦茶付いたのによ!


 と、心の中で思いつつ、実坂井を後ろに連れて廊下をまっすぐ進む。まっすぐ進んで、すぐ左隣にある一室を開け、実坂井を中に入れる。


 白い壁に洗面台と洗濯機。そして、その先にあるガラスっぽいドアの向こうには、風呂が設置されてある。


「すまんな、選択には時間が掛かるんだ。ひと風呂浴びて体流して来い」


 俺がそう言って部屋を出ようとすると、実坂井が俺の袖を掴んで止めた。


「ん?」


「ちょっと待って? 鉄落は入らないの?」


 その言葉に、俺は首をかしげる。


「何を言っている。普通家主より先にお客人が入るのが礼儀ってもんだろ。それに、男の俺が先に入ってからお前は入りたいか?」


 俺は結構気が利く奴だと自分で思っている。いや、思いたい。


「えと、その…………」


 顔をしかめて口篭る実坂井。行動を見るに入りたくはないようだ。けっ、傷つくぜ!


「まあ、心配するな。俺の家は特別でな、実はこの家には風呂が二つあるんだよ」


 この部屋と、もう一つ隣の部屋。何故かはわからないが、親が俺のために風呂を二つ作ってくれたんだ。親曰く、『孝治はいつか泥だらけになった女の子を家に連れてくるだろうから、恒例の着替えシーンとかを見せないために、風呂は二つつけちゃいます!』などと言い張るものだから、二つになってしまったんだ。ほんと恐ろしい奴らだぜ。親の言ったことが今現在本当になっていることが俺には何よりも恐ろしいがな。


「そうなの?」


 実坂井が半信半疑に俺の横顔を見つめる。


「ああ、信じがたいのなら隣の部屋を見てみるがいい。ここと似たような風呂があるからな」


「ううん、いいよ。そこまで自身があるのなら見なくてもいい」


 なんだよ……俺見せる気満々だったのにな。


「そうか、だから心配するな。俺は隣で入る」


「う、うん」


 俺は、実坂井から目を離し、部屋の戸を閉めて再び廊下を歩き出す。


「はぁ……」


 くそぅっ! 風呂なら一緒に入ってみたかったぜ!


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