49話:愚策の果て
「どうにかなるから選択肢を与えたんですよ?」
余裕そうに愁がそう言った事に怒りを感じた冒険者の2人が愁に斬りかかった。しかし愁をすり抜けたのだった。
「ど、どうなってやがるんだ・・・」
「嘘だろ・・・」
呆然と立ち尽くす冒険者2人とその光景を見ていた愁を除く29人。まさか剣が愁をすり抜けるとは誰も思っていなかったからだ。
種としては簡単な話だ。愁がとあるスキルを発動させていたからである。正確にはハクがワープを使おうとした辺りから発動させていた。使ったスキルとは『ファントムミスト』である。このスキルにより周りの冒険者や盗賊、ヘモンズ達はハクがワープを使うまで地面に項垂れている幻影を見せられていた。そしてワープが完了したとともにその幻影を消したのでそこにいた者達からすると突如ハク、ルナ、リムが消えたように見えたのだった。幻術を見ているせいでハクがリムに対して歩み寄っている際に誰も動かなかったのである。そして今は愁は気配遮断のスキルを使い幻影を置いて冒険者たちの後ろに隠れている状態である。
「どうしますか?楽に死にたいですか?苦しみながら死にたいですか?」
幻影の愁がその場にいる皆に声を掛ける。
「し、死んでたまるかあぁぁああ」
そう言った冒険者の一人は幻影の愁を斬りつける。何度も何度も斬りつける。しかし幻影のため愁には全くのダメージを受けていない。しばらくすると冒険者の方がへばってしまった。
「どうしたんですか?このままだと死んじゃいますよ?」
それを皮切りに幻影の愁に向けてその場にいる皆によって一斉攻撃が始まった。それを見ていた愁は呆れていた。何故ここまでここにいる人達は無意味な行為と知りつつ無意味な事を行うのだろうか。
人間と言う生き物は死の恐怖がよぎると頭が真っ白になってしまう。例え目で見ていてそれを現実と認識していようが、死の恐怖に関することは排除しようとする。生きるために。つまりこの現状においては死の恐怖を運ぶもの、つまり愁の幻影をどうにか殺そうと考えているのがその場にいる31人である。
(見苦しいな)
そう思った愁はワープを使い洞窟の入り口へと飛ぶ。そこにはハク、ルナ、リムの3人がいた。
「お帰りなさいませ、御主人様」
「シュウさん、お疲れ様ー」
「シュウさん・・・」
上からハク、ルナ、リムの反応である。
「ただいま、今から後始末をするね」
そう言って愁は風化と念じた。すると洞窟の入り口が崩壊を始めた。
「これで奴らは生き埋め状態だ。自らの行いに相応しい罰だったのかな・・・?」
「御主人様を斬りつけた罰に関しては軽すぎるかと思います。もっと苦しめてもよろしいのでは?」
「人族の罪と罰については知らないけど、私達魔物の中では即死なのになー・・・」
「シュウさん、一体あなたは何者なんですか?」
ハクとルナ的には生き埋めはまだ軽いらしい。そしてリムに至っては俺が行ったことに関して理解が追い付いていないようだ。うーん・・・どうしたものか・・・
「そう言えばリムさん、なんでリムさんの様な人が捕まったんですか?」
「・・・」
少し黙った後にリムは自らが捕まった経緯を説明しだした。
リムはギルドを首になってどうしようかと思っていたところ、仕方がなく冒険者に復業することに決めた。そして武器を買いに行く道中で突如後ろから縄で縛られて白昼堂々攫われたとの事。
「なるほど、そんな白昼堂々と人を攫って問題ないのか・・・この国は・・・」
「貴族とかなら問題になりますが平民でしたら大きな問題にはなりません。」
愁のつぶやきにハクが答える。
以前人攫いによる奴隷は有り得ないと言ったが、これはあくまでも正式な奴隷に限られた話だ。人攫い等による奴隷は俗に言う裏ルートにて取引がされており、国家も組織の解体を目論んではいるが、完全な解体は現在不可能な状態である。
「とりあえずリムさんは今後どうするの?」
「私はヘモンズのやつが生きている限りどうしようもないです。これがあるんですから」
そう言ってリムは自ら着ていた服を脱ぎ始めた。そしてそこにあったのは奴隷契約の証があった。
「・・・気分が変わった」
愁はそれだけ言うと洞窟の方へと歩み始めた。そして自らが塞いだ入口にある岩に向けて風化と念じた。すると洞窟の入り口が開き中から冒険者とヘモンズと盗賊が出て来た。
「貴様・・・貴様如き平民風情がよくもわしを虚仮にしてくれたな・・・死ねえええぇぇぇぇ!」
ヘモンズがそう言うと冒険者と盗賊が走って来た。
「死ぬのはお前らだ」
愁はそう言うとダークヘルフレアと念じた。すると冒険者と盗賊達はたちまち黒炎に包まれた。
「ひいいいいぃぃぃ」
「助けてええええぇぇ」
「悪かった・・・だから許してくれええええ」
冒険者達や盗賊達がなんと喚こうが愁は無視した。しばらくするとその場にいた30人の盗賊と冒険者は真っ黒な動かぬ死体へと成り果てた。
「ひぃぃ・・・化け物」
そう言ってヘモンズは走って逃げだす。それを逃す愁ではなかった。再びダークヘルフレアと念じてヘモンズと自分を黒炎で囲んだ。
「逃げるのか?」
愁がヘモンズに尋ねる。
「た、助けて・・・そうだ、金をやろう。いくらが良い?いくらでも払うぞ?」
愁が一歩一歩ヘモンズの下へと近づく。
「わかった。爵位が欲しいんだな?よし、わしが交渉してやろう。貴族だぞ?一生遊んで暮らせるんだ。文句はないだろう?」
「死ね」
愁は短くそう言い放ち風化と念じた。するとヘモンズの手足がミイラの如く水分を失う。
「ひいいいいぃいいぃぃぃ」
泣き叫ぶヘモンズ。しかし愁は一切止めようとしなかった。だんだんとミイラ化は進行していく。手足から胴体、胴体から首、首から頭。だんだん近づく死の恐怖にヘモンズは叫び声を止めない。しかし口の辺りがミイラ化すると叫び声は急激に止んだ。そしてしばらくするとヘモンズのミイラが出来上がった。もちろんヘモンズは死んでいる。それをさらにダークヘルフレアと念じて塵や灰一つ残さずこの世から消し去った愁。
(気分が悪いな)
そう思いながらも囲んでた黒炎を消しハクへと歩み寄る愁であった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
個人的にはもう少し残酷な終わり方をしたかったんですが、自らの限界を感じました・・・文章力もっと欲しい・・・。
さて次回の話は明日に投稿する予定です。
次回作は50話と言う事で50話記念の話にする予定です。楽しみにしていただけると有難いです。




