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Toy ガンナー  作者: チョーゆんふぁ
第二章 別世界の入口
13/36

デビュー

マギさんのパーティーに仲間入りした翌朝、僕のハンターとしての初仕事は朝御飯を作ることだった。

材料はマギさんが朝一に狩ってきた主、もとい丸ごと皮付きのウサギである。

試練だ

「今まで捌いたことなかったのかい」

初っぱなから呆れられながらもマギさんの指導のもと、1時間かけてウサギを解体した。

剥いだ皮はボロボロで売り物にはならないだろうってことで内臓と一緒に土に埋めた。

マギさんは気にするなと言ってくれたけどウサギの皮一枚だってハンターには大切な収入源だ。次は上手くやってみせると密かに誓った。

可愛いウサギも解体してしまえばただのお肉、土魔法で作った小さな釜戸にアポーツしたフライパンをのせてマギさんが持ってた油を引きお肉を炒める。そこらに生えてる食べられる野草をマギさんに採ってきてもらい千切って中に入れ塩を適当にふりかけブロンの酒を失敬して軽くフランベ、

僕の調理を興味津々で見ていたダニロさんが立ち上る焔に歓声をあげる。

ちなみにブロンはまだ寝ていたので自分の酒を使われたことを知らない。

炒めすぎると肉が固くなり野草もぐちゃぐちゃになるのでこれで出来上がり、

「ウサギの香草焼きハンター風です」

マギさんとダニロさんが手を叩いてお見事といってくれた。

僕自身ひさしぶりのまともな料理に気合いがはいっていたのだ。約3カ月の木の実と素焼きの魚だけの食生活、昨夜は肉を食べたけど塩味の串焼きじゃ物足りない。

日本にいた頃グルメを気どるほど食べ物にこだわった訳じゃない、月の大半がコンビニ弁当だったしね

それでもラーメン、カレーに牛丼とか庶民の食べ物がどれだけ恋しかったか、料理は偉大な文化だよ

「なんかいい臭いがする、食いもんだろ。早く喰わせろ」

ブロン待て、おあずけ

「ギンジーロウ、お前が作ったのか。いつもと違うまともな飯だ」

坊主から名前に呼び方がかわったか、仲間って感じでいいね

「ブロンのくせに違いがわかるのか」

ちょっと見直したよ

「先輩への口のききかたがなってねえな、ギンジーロウ」

「なんで誉めたのに怒ってんだよ、年下」

電撃くらわすぞ

「はいはい、せっかくの食事がさめちゃうからブロンもギンジーロウもじゃれあうのは終わり」

じゃれあいじゃないよ、っていうか気になって仕方がないんだけど

「僕は銀次郎、ギンジーロウじゃないよ」

「変わった名前だよな、ギン、ギンジーロウ。上手くいえねえよ」

ダニロさんも銀次郎と発音出来ないみたいだ。

「私も難しくて言いづらいな」

知性派のマギさんもダメか、なら

「だったら、銀城でどうです」

元ネタが雅な人だから恥ずかしいんだけど、銀次郎=ぎんじろー=銀城。じいちゃんの親が俳句に凝ってて、じいちゃんに俳人の松根東洋城こと松根豊次郎の名前を拝借して滝川豊次郎と命名したのだ。ちなみに親父は高浜虚子の本名から清、兄貴は夏目漱石の本名から金之助になるところを親父に反対され母に秀一郎となった。夏目漱石はすごい人だけどあ今どき金之助はどうかと思うよ。危なかったね。

僕の銀次郎も豊次郎に似た感じを出したかったらしく、じいちゃんがあれこれ悩んで決めたそうだ。

「ギンジョー」

ダニロさんおしい

「ギンジョウです」

「ギンジョウ、ギンジョウ、銀城、これであってるかな」

さすがマギさん、完璧です

「銀城か、呼びやすいな」

一番無理そうだと思ってたブロンが一発OKだ、嵐でも来なきゃいいけど

「なんだと、やんのかコラ」

「ごめん、声に出てた」

「わかればいいんだよ」

「ブロン、今のは銀城あやまってないから」

マギさん余計なこといわないで

「なんでだ、こいつごめんていってたぞ」

「うん、君がいいならいいや」

ふう、危なかった


「朝御飯一つ食べるまでに大騒ぎだね」

「俺はもう喰うからな、残す気なんてねえぞ」

ダニロさんなら本当に全部食べちゃうかも、冗談じゃない


僕の料理と携帯用に固く焼かれたパン、あとマギさんが干し肉を刻んでお湯で戻したスープの朝食を4人で食べた。

ウサギの香草焼きは好評でダニロさんとブロンが最後の肉をどちらが食べるかでケンカを始めるほどだった。ケンカをよそにマギさんが最後の一口を食べちゃって試合終了。

わめく二人に何かもんくがありますかとニッコリ笑って黙らせた。

傍観していた僕もこの人には逆らうまいと思いました


火の始末をしっかり確認してついに出発


僕らが目指すのは街道を西にいった最初の町だ


道中歩きながら魔獣討伐やその失敗談など色んな話をしてくれた、途中小さな村が2つあったが立ち寄ることもなく順調に進んだ。

たまに出てくるウサギやキツネをマギさんが素早く狩って僕がそれを捌く、動物も魔獣も捌くときの基本は同じだからこれは練習だよってナイフの持ち方から皮を傷つけない刃の角度とか丁寧におしえてくれたので今朝のウサギよりキレイに剥ぎ取れた。

ウサギやキツネは村にいる猟師も売りにくるから値段もそこそこだが魔獣は狩るのも大変で皮一枚も高価だから剥ぎ取りの失敗は出来ない。

だからこそ本番にそなえて今のうちに何度も失敗しながら経験を積まなくちゃいけない。


町が見える頃には空っぽだった僕のリュックは剥ぎ取った毛皮でパンパンになっていた。

捌いた獲物は合計26匹、1匹にかかる剥ぎ取り時間も短くなり最後の方は皆から合格を貰えた。

剥ぎ取りマスターと呼んでください


その日の夕方、目的の町「フォトキワ」に入った。

門番どころか門自体なく簡素な木の柵の間から自由に出入りできるようだ。

ヨーロッパの城塞都市をイメージしてたけど、解放的でのどかな地方の観光都市っぽい。


「よっしゃ着いたぜ。飯だ、飯食おう」

ブロンが腹へったって騒いでるけど僕はそれどころじゃない。

たくさんの人種で賑わう様子に圧倒されていた。

千葉の国際的遊園地に初めて行ったときの地に足のつかないやようなワクワク感みたいな、フワフワしたメルヘンの世界が目の前にあるんだ

ビシッと隙のない制服姿の犬顔のコボルトや、マギさんみたいな狩人風のエルフ、籠を抱えた主婦らしきゴブリンとオークと人間が通りで井戸端会議をしている。

これぞファンタジー

こみ上げる熱い想いを噛み締めてるとまた空気の読めない脳筋が邪魔をしてくる

「突っ立てないで飯行くぞ。これだから田舎者は、この程度の町でビビってたら王都をみたらチビるんじゃねえの」

感動をぶち壊しだよ、生肉でも喰ってろ

「銀城は初めての町の人種の多様さに驚いてるんだろ。私達の村も人族ばかりだったから最初はびっくりしたよ」

さすがマギさん、機微ってやつを察してくれます

「気持ちは分かるがすぐ慣れちまうよ。俺は飯より先にギルドに行って銀城の加入を済ませるほうがいいと思うぞ」

気を使わせてすみません

「ありがとうダニロさん、でもブロンがうるさいし腹が減ってるのは僕も同じなので先に昼飯にしませんか」

ブロンより年長だからね、これが大人の対応だよ

「別に銀城に気を使って言ったわけじゃねえんだよ」

ダニロさんが真面目な顔で僕をみる。

「ここに来るまで魔獣が出なかったから良かったんだけど、町中だろうがいつ魔獣の襲撃で俺らハンターの出番がくるかわからないからな」

「そうだね、出撃して魔獣を倒してもオーブを持ってなかったらもったいないからね」

オーブ?もったいないって何で

「あっ、そういやコイツはまだオーブを持ってなかったな。なんでオーブ持ってないんだよ、俺は腹へって死にそうなんだぞ」

ブロンまでオーブ、オーブ

「オーブって何なの、誰か説明して」

話においてけぼりにされて、腹が立ってきた

「ハンターになりたいのにオーブを知らないのかい」

マギさんまで

「面倒だ。ギルドに行くぞ」


ダニロさんに先導され通りを進む、足取りに迷いがないから前にも来たことがあるんだろう。

コボルトの女の子と男の子が手をつないで歩いてるのを見かけると、お菓子をあげて頭を撫でまわして抱きしめたい衝動が暴れだしハアハア息を荒げてしまい、見ていたブロンに引かれてしまった。

だってモフモフしてて歩くヌイグルミみたいに可愛かったんだもん、けっして幼児愛好趣味なんかじゃありません

でも、コボルトって可愛い

犬好きの血がうずくよ


他にもドワーフやオークとかの種族に目を奪われながら歩いていたら、気がつくとギルドの前にいた。


西部劇の酒場のようなたたずまいで入り口も胸元の高さにある小さなスイングのドアだった。

いかにも荒くれ者がいそうな雰囲気、先に気合いを入れとかないと


「さっさと済ませて飯にいこうぜ」

ブロンが中に入っていく。

まて、心の準備がまだ

続いてダニロさんまで黙って入った。

「緊張しなくても大丈夫だよ、私達もついてるし」

そう言ってマギさんは僕をうながす。

「お、お邪魔します」

「邪魔するなら出ていけ」

お邪魔しました、一歩踏み込んだとたんに追い返されたよ

「マギさんここダメです。つぎの町行きましょう」

心が折れました

「あんな冗談真に受けない、中に入って」

マギさんに背中を押されて再び中へ、

「サマージさん、新人をからかわないでくれよ」

ギルドの中は外から見たイメージ通りの酒場そのものだった、さっきは中の様子を見るひまもなかったけどランプに照された薄暗い室内は喧騒につつまれ、小綺麗なカウンターとテーブル席がいくつかある。ダニロさんとブロンはカウンター席につき酒を注文している。

壁には依頼書らしきものが無造作にピンで留められてあった。

カウンターの向こうで陶器のカップを磨きながらこっちを見ている大男が僕を追い返した本人だろう。

僕らの他にも10人ほどの男たちがいたがま皆テーブル席で酒を飲んだりカードをしていたり僕らには目もくれない。


気圧されて動けない僕をマギさんが後ろから肩を捕まえカウンターにまっすぐ連行する。

黙ったままじっと連行される僕を見ていた大男は、何だコイツはとマギさんに視線を移す。

めちゃくちゃ怖い、身長2メートル以上あるんじゃない、体格もいいし絶対この町の闇の首領だよ、じゃなかったら角のないオーガだ

「ハンターになりたいって新人を連れてきました」

マギさんがぼくをオーガの前につき出す。

「このガキをハンターにしろって」

オーガがジロリと睨む。

「はい、銀城と申します。経験の浅いふつつかものですが誠心誠意をもってがんばらしていただく所存であります。なにとぞご指導ご鞭撻よろしくお願いします」

声が上ずる、日本での新人研修時代に習った言葉遣いとか全部ぶっ飛んだよ。僕は今何て言った


「コイツ何て言った」

大男が目を丸くしてマギさんに聞いた。

「私にも判らないよ。本人も自分が何て言ったか分からないぐらい緊張してるし」

マギさんが苦笑する。

「小僧、ハンターってのは他に能がない馬鹿がやる命がけの仕事だぞ。家に帰ってもう一度考え直せ」

「小僧じゃありません。32才です。銀城です。帰る家はありません」

「その成りで32か、人族じゃないのか」

目が飛び出しそうなほど驚いてる。

「一応人族ですが、そんなに若く見えますか」

「17,8かと思った」

日本人て本当に若く見られるんだな

「お願いします、ハンターにしてください」

「ああ、いい歳した大人の決断に口はださねえよ。ガキ扱いして悪かったな」

思ったより人のいいオーガなんだ

「いえ、僕のほうこそ変な態度をとってすみません」

きちんとあやまって間違えた情報を集成しとかないと


「うちのじいちゃんにはオーガは人里で暮らせない魔獣だと教わっていました、あなたのようなオーガもいるんですね」




あれ、一瞬にして静かになった


何事だろうかとギルド内を見回すと全員が顔を真っ赤にして何かを堪えている


次の瞬間、どっと大爆笑が破裂した。

ダニロさんやブロンはもとよりあのマギさんまで真っ赤な顔でカウンターをバンバン叩いて笑い転げているよ


「誰がオーガだ」

前にも聞いたようなセリフを大男が叫んだ。


僕のギルドデビューは後々まで語り継がれるものとなった。


今回も戦闘はありませんでした。のどかですね

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