最初の一歩
精霊の住む森を抜けるとそこは平原であった。
精霊の森は日が暮れる前に無事抜けることが出来た。時間にして6時間というところだったが、長かった、本当に長かった。
だって森の中では何もなかったんだもん。
初めの頃はどこかで物音がするたびに木刀を構え、緊張と興奮で息を荒げながら猛獣の襲撃に備えた。
なのに猛獣どころかウサギ一匹現れやしない、時おり鳥の鳴き声が聞こえはしたが、はっきり言ってひまだった。
おそらくじいちゃん達精霊が気をきかせて動物を遠ざけてくれたんだろうと気がついてからは、物音がしても目もくれずひたすら森を歩いた。
きゃー猪が出たも、あっバンビがいる可愛いなも、キツネがいるよ怖くないからおいでとか、イベントがいっさいナッシング。
それで同じような風景の森を6時間も歩き続けるのは長いよ
ようやく平原に出たと思えたら気が抜けて動くのがイヤになりましたよ、まだ明るいけど今日はここで一泊しよう
でも晩飯には早いし、どうしょうかな
時間もあるしここで自身とこの世界の現状を再確認
名前・滝川銀次郎
年齢・31(肉体年齢25才ぐらい)
職業・旅人(無職ともいう)
装備
頭・コンバットヘルメット(プラスチック製)
体・フィールドジャケット
防弾ベスト(レプリカ)
ジーンズ
手・防刃グローブ
足・コンバットブーツ
武器
木刀、コンバットナイフ、知恵、勇気
魔法
火属性、雷属性、草属性(威力は全て平均魔法使い以下)
悲しくなんてないさ
フィヨルディア世界
この世界には人、エルフ、ドワーフ、コボルト、ゴブリン、オーク、リザード、人とゴブリンのハーフのホブゴブリン
更に数は少ないが東の大陸で常に対立し戦争を繰り広げているドラゴノイドと魔人がいる。
その他にも神様に召喚された種族がまだいるらしいが隠れ里にこもっていたり地底に身を隠していたり、なかには滅んでしまった種族もいるとか。
僕が今いる大陸は中程度の3つの大陸が隣り合っている北大陸と呼ばれる場所だ。
大海を挟んで南には南大陸、そのままのネーミングだ。
東には先ほど出たドラゴノイドと魔人が争う暗黒大陸。
南西の海に浮かぶ連合諸島。
あとは未確認だが北極と南極にも氷の大陸があるとか。
さすがに氷の大陸に住むトレントはいないのでじいちゃんも精霊仲間の噂に聞いただけなんだって
ディーヌさんは水の精霊だけど蛇だから寒いところには行ったことがないだろう
じいちゃんに未知の世界を見てくるよとか言ったりしたけど、氷の大陸はパスしてもいいよね
フィヨルディアを統一した国家はなくいくつもの国が争ったり同盟を組んだりとその辺は地球と一緒、特筆すべきは国家を越えて様々な分野に影響を持つギルドと呼ばれる組織があること。
大きな所では商業ギルド、工業ギルド、魔法ギルド、傭兵ギルド、何故か騎士のギルドも存在する。
騎士は王様とかに仕える名誉職じゃないのかな、僕は騎士になりたいとか思わないから関係ないから別にいいけど
そしてハンターギルド。
ファンタジーの定番、冒険者の家、人々の安寧を脅かす魔獣を駆逐する愛と平和のハンターギルド。
まずはそこに加入して、
職業・ハンター レベル1を目指さないといつまでたっても只の住所不定無職のままだよ
元公務員で将来的にも安定した生活だったから今の状態は身ぐるみ剥がされてるみたいで落ち着かないや
今日はここで野宿だけど明日は町でハンターになって宿屋のベッドで眠りたい
明日に備えて英気をやしなわないとね
ここは精霊の森の外だから獣もでるかもしれない、焚き火の準備をしておこう
朝までもつぐらいの薪を集めようと落ちてる枝を拾っていると近くの草むらから一匹のウサギが現れた。
平原の第一住人発見
ウサギか、でもウサギ相手にも油断しないよ。ファンタジーのお約束だからね、可愛いウサギと油断させて角を使ってた突進するとか
鋭い前歯で首をはねるとか、どうせそんな凶悪なウサギなんだろ。
かかってこい、木刀をアポーツさせいつ来てもいいようにかまえた。
隙のない構えに臆したのかウサギは僕を見つめクンクンと何かを嗅ぐようなしぐさをしたあと草むらに逃げていった。
おそらくヤツはこの辺りの主なのだろう、短いやり取りであったが強敵との対峙で僕のレベルはかなり上がったはずだ。
この分ならギルドでハンターになったとたんにレベル10はいくんじゃないかな、将来有望な新人ハンター現れるとか騒ぎになったらどうしょうかな
ハンターライフがたのしみだ
闇があたりを包むころ、僕は焚き火の前で木の実だけの質素な食事をとっていた。
こっちに来て以来お肉系の食事はご無沙汰だった。あの時ウサギを倒していたら丸焼きにして久しぶりの肉にかぶりつけたのに、ハンターなら狩った獲物を美味しく焼かけないとね
でも魚はともかくウサギのなんて捌けるかな、スーパーのパックに入った肉しか触ったこともない、まして生きた動物を殺す経験なんてない。
まずはそこから勉強しないと、真のサバイバルをマスターしてみせるぜ
ガサガサ
何かがこちらに近づいてくる、ヤバい大きな動物のようだ。
あのウサギがボスキャラじゃなかったのか
とっさに腰を上げたもののどうすればいいか判断できずその場から動けなくなった。そのときじいちゃんのアドバイスを思い出した。
「強敵に出くわしたら目眩ましでもして逃げろ」
戦うだけが冒険者じゃない、逃げるのもありですよね
少し落ち着いた僕は、焚き火があるいじょう向こうはすでに僕の存在をしっている、ただ敵に背を向けて逃げ出しても追撃されてやられる可能性に気づき、足元の土を右手にすくい握りしめタイミングをはかる。
土を顔面に投げつけて目潰しをしてやる
口から心臓が飛び出しそうになるのをグッと飲み込み裏ボスが姿を現すのをまつ
焚き火の炎に照らされ輪郭が見えた。大きさは170センチの僕より一回りはでかい人形の魔獣だ。頭には2本の短い角があり手には武器も持っている。
オーガと呼ばれる鬼に違いない
じいちゃんの情報によると巨体ゆえに小回りはきかないが足は速くスタミナもあって人の足では逃げることはまず無理とのこと
だからといって今の僕では勝てる気がしない、あの必殺コンボ?
無理だって、全身ガクブルだもん。幸い精霊の森が近い、あの聖域に逃げ込めば魔獣も深追いしてこない。
頭の中で逃げるタイミングとルートを何度も計算する。
土を投げ最短距離で森に入る、土を投げ最短距離で森に入る、土を投げ最短距離で森に入る、
草むらをかき分けヤツが射程に入った。
今だ
女の子投げっぽかったけどヤツの顔面にヒットした。
すかさず森に向かってダッシュだ
後ろからヤツのうめき声がきこえる。
「うおっ、目がー」とか言ってるので作戦は成功してる。でも走る速度は落とさない油断禁物、喰われてたまるか
森まであとわずか、その時ヒュンと風を切る音とともに僕の進路を塞ぐように地面に矢が突き立った。
驚いて足を止め矢の飛んできた方へ振り返ると、焚き火のそばで顔を手で覆って悶えているオーガとその隣に立ってこちらに弓を構える狩人風の姿の人間が見えた。
オーガはまだ「目が、目がー」と吠えている。
我にかえった僕は逃走を邪魔されたのにもかかわらず狩人に叫んだ。
「速く逃げろ、そこにオーガがいるぞ」
この人は何故オーガのそばで平然としているんだ
「えっ、オーガ」
狩人は素早く後ろを振り向きあたりを見廻す。
違う違う隣だから、場違いにも僕はテレビのコントのワンシーンを思い浮かべていた。
これがフィヨルディアでのファーストコンタクトになった。
オーガが「ちくしょう、目が」と騒いでる。うるさい