第二章 侍女(と書いて家政婦とよむ)は見た 1
ノイリ様達が長いイヤミを聞かされてから数日。
何やら王宮は妙な空気に包まれていた。
ある者はやたらと周囲を警戒して何かを運び、また別の者は茶会と称した話し合いに出席するため、足を急がせる。
そして、突然行われることになった季節外れの軍事演習。
冬の行軍演習、というには遅すぎる時期。
嫌な空気だ、ノイリ様はそう仰った。
しかし、その嫌な空気から離れようにも何時もの二人組は軍事演習に参加していて、あと1週間は帰ってこれない。
書庫に籠もろうにも時折イヤミ野郎が顔を出す。
結局王城を離れた山の中、釣りでもしようと川辺で座っておられるのが現在のところ。
日が長くなってきたとはいえ、まだ春の初月。
正直凍えながらノイリ様は岩に座って釣竿を垂らしておられる。
朝から何匹かの釣果を上げておられたノイリ様が、釣竿を握りつつコックリコックリと船をこいでおられたその時であった。
浮きがいきなり深く沈む!
ノイリ様は今まで船をこいでおられたたとは思えない動きで釣竿を引くッ!
そして数十秒の攻防の後、大漁旗の図案に使われそうな程見事な一本釣りッッ!!
……はッ!
しまった、テンションが上がりすぎてしまいました…
本日のナレーションは私、お付きの侍女ミーシャと申します。
ノイリ様がまだ乳呑み児であられた頃からお仕えして14年、恐れ多くも殿下が息子のように思えてきた今日この頃。
アルフェ様、貴女そっくりの殿下はこんなに立派で強かになられました。
釣った魚(結構大物が多数)を昼食にしようと、(手慣れた様子で)さばいて(道具もなしに)火を熾す(実はサバイバル生活できそうな)殿下が、気さくな笑顔で一緒に昼食をとろう、と近くにいた随従の者達3人を(魚の血にまみれた)手で手招きした。