第一章 平穏な日々()1
世界暦1617年、春の初月、某日
良識ある者は政治から引きずり下ろされるれ、賄賂や不正が横行する。
王国の腐敗はすでに取り返しがつかなくなる、ギリギリの線まできていた。
第一王位継承権保持者の王の長男マルスは、27となったものの元老院と貴族院の反対によって未だに即位できていない。
こんにちは、ノイリです。
朝起きたら、『ナレーションよろ』とかいう紙があったから、この章のナレーションは僕がお届けします。
それにしても、ナレーションって何の事でしょうか?
さてさて、女の子と間違えられるという、ちょっとショックな出会いから10年。
いまでも彼らとの付き合いは続いています。
彼等も僕も訓練や勉学があるため、四六時中一緒って訳にはいかたないものの自由時間に共に街におりて遊んだり、兵舎にある彼等の部屋にしょっちゅう泊まりにいったりしてます。
王子がそんな事していいのか、と訊かれると本当はダメでしょうね。
が、『末の』『何の後ろ盾もない』『流れる血の半分は庶民で』『コレといった取り柄もない』王子に注意を払う暇人は王宮の中にはまずいません。
私腹を肥やすのに忙しいようですよ、皆さん方。
ところで、ドロドロとした宮中から少し離れた小さな中庭。
のんびりとした昼下がり、なんてものはここにはありません。
今日のおやつにしようと思って、二人が任務中につくったドーナツが熾烈な闘いの引き金を引くなんて思いもしませんでした。
「うぉおりゃ、先手必勝、籠ごと寄せっ!!」
「やりやがったな、コノヤロウ!
お返しだ、必☆殺!喰おうとしたその手から奪う攻撃ッ!!」
「ああっ、畜生!こうなったら最終秘奥義……」
大人げない蒼髪と茶髪――イールとレイド――がドーナツを巡る熾烈な闘いを繰り広げています。
そのうち落として悲鳴をあげる、という終末を迎えそうです。
流石にそれはもったいない。
ニッコリ笑顔を浮かべつつ。
「ふ・た・り・と・も?
いい加減にしないと取り上げるよ!?」
『すみませんでした』
雷を落としたら大人しくなりました。
見事に声がハモりましたね。
そんなにドーナツが大事なんでしょうか?
まあともかく。
拝啓、天国に居るであろう母上。
体に悪そうなドロドロ空気が満ちた王宮に居ない時の僕は、結構楽しい毎日を過ごしています。
ヤなやつとすれ違ったりしない限りは。