第零章 薄暗い倉庫の中で 1
世界暦1603年
エイラウド王国暦328年
現王ゼクス三世の最愛の妃、アルフェは産み落とした王子と引き換えのように、18年という短い生を終えた。
以来、ゼクス三世は王宮に引きこもり、酒に溺れ、政治を省みなくなる。
王が政治を省みないのをいいことに、今までじっと息を潜めていた悪徳官僚や強欲貴族が台頭。
ゼクス王を廃位させ、新たに王を立てようにも、当時第一王子マルスは13歳。
国は瞬く間に腐敗していった。
それから4年、王城内某所……
……う…ひっく……ぐすっ………
薄暗い倉庫の中、小さな子供の押し殺したような泣き声が聞こえた。
「ねぇ、止めとこうよ~」
暗くて埃っぽい倉庫の中。
茶色い髪の子供が怯えた様子で言った。
「大丈夫だって。こんな所に入れる機会、めったにないんだよ!?」
「見つかったらどうするの…?」
「その時は『迷いました』って言えばいいじゃん」
若干、いや、かなり嫌そうな彼を、空のような蒼い髪の子供が引きずるようにして奥へ奥へと進んでいく。
奥へ行けばいくほど長年使われていないのか、乱雑に物が積み上げられている。
「なんだか、幽霊でも出そうだな…」
蒼髪の子供が一人ごちる。
その小さな呟きに茶髪の子供が過剰反応した。
「やや止めてよイール、そそういうこと言うの!!ぉ俺、幽霊とか苦手だって知って…」
るよね、と続けようとした少年の耳に聞こえた物は、冒頭のすすり泣く子供の声だった。