浪人の狐
さて何から話そうか。
「じゃあ名前から。」
うむ、ワシは四月一日 千鶴、お主の守り刀じゃ。
「お主って俺ね。でもここに来た本来の理由は違うでしょ。」
そうじゃ、御上の命でお主を見張っておる。
「俺なんか悪い事したかな。」
違う、よく社に来るから御上が気になったそうじゃ。
「悪い事出来なくなったな。」
ふん、する気も無いくせに。
「千鶴さんはその社の使いですか?」
厳密に言えば違う。
昔は他所で狛狐を務めていたが片目をやられて引退したのじゃ。
それで浪人をしていたらお主を見付けてな、お主の通う社の者にお目付け役を頼まれたのじゃ。
「どこの誰ともわからない浪人に頼んだんですか?」
ワシの眼、青いじゃろ。
「はい。」
これは御上に仕える、仕えたキツネの証じゃ。
「そうなんだ、それで頼まれたのか。」
「具体的には俺の何を見てるんですか?」
ヒトの道を外れぬ様に見張っておる。
「もう外れているんですけど。」
そうか?
まあワシも食事と寝床を与えてもらったからその恩にお主の守り刀という役目に甘んじておるがな。
「不本意ですか?」
ワシの尾を見よ。
「短い尾が9つ。」
九尾がヒトの子に仕えるのじゃ、主はそれなりの者がよかったのう。
「へぇ、サーセンねぇ。」
「守り刀とは言うものの、あまり干渉して来ないですね。」
お主は菖蒲やセリカ殿に腹が立った人間の攻撃を命じた事があるであろう。
「いやぁ、でも結局気晴らしの妄想だし。」
ふむ・・・、妄想と思うならそれで良い。
だが思考は言動に出る、寛容の心を養え。
「まあ、あなた達に仕返しを命じた所で何かが起こるとは思えないしな。」
陰気は陰気を引き寄せる、笑って忘れる広い心を持っていれば自ずと邪は退けれる。
「狛狐が言うなら信じてみるか。」
「今日はありがとうございました。」
うむ、また話そうぞ。




