異種族で修羅場
はぁ〜〜。いい匂いだなぁ。柔らかくてもちもちすべすべ。とっても気持ちの良い寝心地だ。
ずっとここにいたい。日の光が瞼をくすぐって少し鬱陶しい。もう朝なのかぁ……まだ起きたくないなぁ。
「リュートを返して」
「返す?何を言っているリュートは私のものだ」
「に、兄さんはボクの家族だから……ボク達の家へ帰してください」
なんかちょっと騒がしいけど、それが気にならないくらい気持ちがいい。
……あれ?こんな良い枕持ってたっけ?っていうかこれ、枕か?もちもちスベスベすぎない?この感触どこかで………?
っていうか、昨日どうなったっけ?あれ?ここどこだ?待って?これ…ラミアさんの太ももじゃね?
「黙れ!私はリュートの主だ!リュートを好きにする権利がある!」
「やはり吸血鬼。醜悪。滅ぼす方が早い」
「う、うぅ。返してもらえるまで……絶対に退きませんから!」
「……良い機会だ。貴様らには私との格の違いを見せてやろう。安心しろ。リュートの友人ということに免じて、優し〜〜く、加減してやーーーー
「ちょおおおおっと待ぁったぁ!」
一気にスイッチが入り、バッと起き上がりながら渾身のポーズをとる。
寝起きに歌舞くの、世界ひろしといえど俺だけなのではないだろうか?
「あっ、リュート起きたの?え、えへ。おはよう」
さっきの険しい雰囲気は何処へやら。ニヘニヘと口が緩んだまま朝の挨拶をしてくれるラミアさん。かわいい。
「……リュート、説明して」
声の方を向くと、ムスッと拗ねたような顔つきのシャル。かわいい。
「そうだよ!ボク、ずっと宿で待ってたのに……帰ってこないから心配してたんだよ?!」
焦っていたのか、心配したような顔で俺を見つめてくるルウ。これに関しては本当にごめん。保護者失格だよね。本当に反省してます。みっともない大人で申し訳ございません。
「あ、あのぉ……へへへ」
こ、この修羅場…どうするべきか……。
今までにないほどの窮地。幼い頃シャルと一緒にいた時に襲われたあの時や、パラシュートオフスカイダイビングの時、狼化したルウに噛みちぎられた時なんて目じゃない。
ひたいからダラダラと垂れてくる嫌な汗が妙に重く感じる。
しどろもどろではっきりしない態度をとっていると、急にラミアさんに抱き寄せられる。
「リュートは貴様らよりも私を選んだ。き、昨日だって……あ、あんなに激しく私を求めて……」
体をくねくねとよじらせるラミアさん。見たことのないレアな振る舞い。
だが、それに見惚れてる場合ではない。
「……え?」
「兄さん……どういうこと?」
ルウから放たれる、見たこともない冷たい視線が突き刺さる。
待って待ってやばいやばい。何が一番やばいかというと全く覚えてないということが一番やばい。
お酒を飲んで酔って、起きて気づいたら今の修羅場劇場。
残念ながら、ラミアさんほどの魅力のある女性を前に、我慢ができると言い切れるほど、俺は俺を信じきれない。
お、おおおお俺昨日なにしちゃったのぉ?!?!
「ざんねん。リュートはずっと前からシャルの事求めてた。こ、この前だって……一緒に………」
いつもは、なに考えているかわからないような感情表現に疎いその顔に、うっすらと赤みが帯びる。その表情は恥じらいを表していた。
含みのあるような言い方はきっとわざとだ。
「……リュート?」
『シャルさん?この前は普通にデートしただけだよね?』とは言えなかった。そこをつつけば、俺が小さい頃からシャルに性的刺激を与え続けていたクソど変態ということが芋蔓式にあばかれてしまうからだ。
つまり、俺に今できることは黙秘のみだった。
「ぼ、ボクだって毎日兄さんにだ、抱かれてるもん!」
そうだよね、そうだよね。この流れだと次はルウくんだよね。でもその言い方は流石に語弊があると思うな?『抱かれてる』って、抱きしめながら寝てるだけじゃん?!それもベッドが狭いし寒いからっていう、十分に情状酌量の余地のある理由があるよね?!
このままだと俺、ショタコンクソ野郎になるんだけど?!俺の社会的地位を貶めてそんなに楽しいか?!
「……リュートは私のもの。そうだよね?りゅーと?」
「あ、あのあの、えと」
「……シャルと結婚しないの?」
「あわあわあわ」
「兄さん、ボクとずっといてくれるって……」
「えとあのその」
「リュートは、誰が一番好きなの?」
シャルさん……その質問はあまりにも俺に効きすぎる。
3人の視線が突き刺さる。
自信満々に余裕の表情で不敵な笑みを浮かべるラミアさん。当然自分が選ばれると信じてるようだ。
唇をとんがらせながら、ジトっと視線を差して来るシャル。圧が強く、選ばなかったらどうなるかわからない。
不安そうな縋るような瞳で見つめてくるルウ。庇護欲が掻き立てられつい選んでしまいたくなる。
誰を選んでも地獄を見る気がする。
自業自得なのはわかっている。
だがこんな優柔不断な俺に選ぶことなどできるはずもない。
「……あ、あのぉ、ルウはぁ……一番大切な人でぇ……」
「に、兄さん…!」
「シャルはぁ……一番大好きな人でぇ……」
「……兄さん?」
「……りゅーと?」
「ラミアさんは……一番大事な人ですぅ……」
「……わかった」
「わかってくれましたか!ラミアさん!」
唯一の理解者!この絶望の窮地に希望の光が差し込む。このまま2人ともこちら側へ引き込……
「『自分が欲しいのなら、奪い合って勝ち取って見せろ』……リュートはそう言いたいんだね?」
「………え?」
全然希望の光なんかじゃなかった。
違うが?全然違うんだが?いや確かに魅力溢れるみんなに奪い合われるのは、全く嬉しくないと言えば嘘になってしまうわけだが……いざ当事者に立ってみると、焦りしか感じない。本当にこれ以上ないくらい困っている。
しかもこの面子でそんなことさせたら絶対とんでもないことになる。
「……なるほど、わかりやすい」
「シャルさん?!」
頼むから乗り気にならないで!
「に、兄さんは渡さないからね!」
「ルウくん?!」
そんな、フンスフンスとやる気をみなぎらせないでくれるかな?
まずい、なんとかしないと。
たとえ今ここで誰かを選んだところで結局暴発するのは目に見えている。
これは俺の責任だ。友愛や親愛を超えたものを向けられているのを自覚していながら放置していた俺の責任だ。
だが残念ながらバカな俺にはみんなが納得できる落とし所など思いつかない。
なので全然違う話で誤魔化させてもらおう。
一触即発な張り詰めた空気に、俺は思い切って言葉を切り込む。
「あの!よかったらこれから4人で暮らしませんか!」
その言葉に、3人揃ってポカンとしたような驚きの表情を浮かべるのだった。
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