吸血鬼の討伐①
朝、日差しが入り目が覚める。
今日も朝のルーティンである、ジェムハザ様への感謝と信仰の儀式を行う。
その間に、ルウも目を覚まし朝の支度をしていく。
毎晩深夜に五百回頭を地面に打ち付けてるからか、最近額が硬くなってきた気がするな。
ラミアさんの眷属効果でそんなに寝なくても元気なんだよな……千回に増やそうかな。
「ルウ〜、ちゃんとあれ使って歯磨けよ〜」
「あ、あれ、苦くて嫌なんだけど……」
『あれ』とは、前世でいうところの歯磨き粉。と言ってもこの世界にそんなものないので、それっぽい効果のある薬草から抽出した汁を使っている。
マギアさんのところで販売しているのでありがたく購入させていただいている。だが作成自体はウィッチさんが行なっていると聞いた。
あの人は呪術だけでなく薬学にも精通しているらしい。
そんなウィッチさんからあれやこれやの薬を卸してもらい、それをマギアさんが販売しているとのこと。
マギえもんではなく、ウィチえもんかもしれない。
「歯は一生ものだぞ〜?虫歯になったら引っこ抜くしかないんだからなぁ。最初の時みたいに俺が磨いてやろうか?」
まぁ、俺もルウも人狼由来の再生能力があるので、引っこ抜けば新しく生えてくるんだろうけど。
そんな痛いことしたくないよね。
「………い、いい!自分でやる!」
歯を磨く時、動物の毛などを使った、歯ブラシっぽいものを使用している。
ルウは最初、その存在を知らなかったので、その時は俺が代わりに歯を磨いてやった。
なんとも気持ちよさそうに、俺の膝の上で涎を垂らしてたのだが……流石に思春期、羞恥心からか、途中から自分で磨き始めた。
犬っぽくて可愛かったんだけどなぁ。
そんなこんなで、支度を終えた俺たちは、食堂で軽く朝食をとり、ギルドへ向かうのだった。
○●○●
ギルドに行く前に、ガディを預かってくれている魔物小屋へ寄る。
「よーう、ガディ。今日も元気かぁ?」
『クゥァアアアッ』
翼を広げ、前足を高らかと上に上げる。
「良いお返事だ。じゃあ、行こうか」
「ほんとに、よく懐いてるね」
「俺の自慢のかわい子ちゃんだからな!」
ガディも参入。一緒にギルドへ向かう。
流石にギルドの中に入れられないので、悪いが少し外で大人しく待っててもらう。
扉を開けようとして、中から聞こえてくる慌だたしい声に気付く。
「なんか……中、騒がしくね?」
「そうだね、なにかあったのかな?」
疑問に思いながらも、中へ入る。
ギルドはいつも人が多く、その分話し声も多い。
だが今日はいつもとは違う。賑わいではなく、焦燥による不安や緊張の声で溢れかえっていた。
通常なら依頼掲示板の前にたくさんのハンターが集まっているのだが……その七割ほどが中央に集まっている。
ガゼンさん達もその中に紛れている。
そしてギルドの職員も数人。
その中心には一人の若い女性が座り込み、血のついた布を握りしめていた。
顔面蒼白。悍ましいものを見て、恐れで体をガタガタと振るわせている。
「本当に見たんです……大きな蝙蝠の羽と赤い目を……!暗闇に溶けるように紛れて、気づいたら他のみんなが………あれは…吸血鬼でした……!」
盗み聞きはあまり良くないね。話を聞くならちゃんと聞こう。
「ルウはここで待ってな?」
「え、ちょ、ちょっと兄さん?!」
俺たちは人混みをかき分け、テーブルに近づいた。
「あーどうもどうも、こんちゃすこんちゃす」
「リュート……」
「何があったんで「お前には無理だ」……」
俺の言葉を遮って拒絶するガゼンさん。
え、えぇ…?そんな速攻で否定するぅ?
「今回ばかりは危険すぎる。ランク2のお前が出る幕はない」
「そうですか……わかりました」
俺はトボトボとそのそこから離れ、ルウの元へ戻る。
いーもん別に。どうせクソ雑魚ですよーだ!
「兄さん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫大丈夫」
別にいいし?そんなに否定するならこっちで勝手にやるし?
『吸血鬼』の単語が出た時点で俺は引き下がるわけにはいかない。もしその人が俺のご主人様であるラミアさんの知人だったりして、そのまま討伐なんてされてしまったら、流石に寝覚が悪くなってしまう。
食事のために命を奪うのは仕方がないのもわかる。だが逆に人間達が必死に抵抗するのもわかる。
なのでせめて他の場所で、出来れば人を殺さず生きていけないのか打診して、余計なリスクや争いを減らせないかと頼んでみよう。
それでダメならもう俺にできることはないので諦める。やれることだけはやっておかないと、心に棘が刺さったままになってしまう。
そんな痛みを抱えながら生きていくのは嫌だし、ラミアさんに会う時にいちいち罪悪感を抱く羽目になるのもごめんだ。
ちなみに、彼女達を襲ったのはラミアさんではないことだけはわかる。
何故なら、彼女は俺の血しか飲まないらしいから。
『俺以外の血を飲むか死ぬか』という状況になれば、悩んだ挙句死を選ぶと言われた時は、流石に冗談だよね?と思ってしまった。
もしそれが本当なら愛が重すぎる。
……重い愛もまぁなかなか悪くはないけどね。
「ルウ、悪いけど、俺あの話に聞き耳たてなきゃいけないから、クエストついでにガディも連れてってくんない?人を襲ったりしないし、危ない奴には近づかないよう教えてあるからさ」
え?盗み聞きは良くない?何それ?誰が言ったの?
「え、えぇ?えっと……えぇ?ツッコミどころが多すぎて何から言えばいいのか……」
「まぁまぁ。ルウはパーティースポットの約束あるんだろ?なんならガディに手伝わせてもいいからさ?」
「う、うん、わかった。じゃあ、連れてく………兄さんも、無理しないでね?」
「あたぼうよ!俺は自分の命が二番目に大事!一番目は大切なみんな!それ以外は割とどうでもいい!そんな男だからな!」
「……本当に気をつけてね?」
なんとも複雑そうな表情だ。
まぁ、そうだよね。俺自体はクソ雑魚だけど、俺のケツモチさん達がぶっ飛んでるからね。あと再生能力持ちだし、『死にはしないっしょ!』って感じだよね。
ルウを見送ったあと、俺はちょっと離れたところから耳だけ中央に傾け、話の内容をこっそり聞き出す。
「北部の廃坑に行った四人のパーティーが襲われたそうだ。この娘さん以外全滅らしい」
中央の女性が顔を上げる。彼女の目は恐怖で見開かれ、顔は蒼白だった。
「お願いします……助けてください……印をつけられて……私、ずっとあれに狙われ続けるなんて……っ」
その言葉に場が静まり返る。
「吸血鬼に噛みつかれた私を、仲間が命懸けで逃がしてくれました。でも、その時にはすでに印をつけられてて、あ、あ、あいつの眷属に…….」
恐ろしい光景を思い出したのか、彼女の表情は恐れで歪み、その顔を手で覆った。
職員が彼女の肩に手を置いた。
「恐ろしい目に遭ったばかりなのに、ありがとうございました。あとは任せてください。あなたは医務室でどうぞお休みください。」
そう言い、1人のもう1人の職員が彼女を医務室へ案内していった。
医務室ね……
職員がハンター達に向かって声を発する。
「この件は聖騎士を呼んで対処していただきます。ハンターの皆さんは決して手を出さないようにお願いします」
その通達にそれぞれ思うところがあるような反応をするが、ギルドの方針に逆らうことはできない。
言いたいことがないわけではないだろうが、それでも彼らはそれぞれ日常へと戻っていった。
ふむ……聖騎士さんが来る前になんとかしなければならないな。
っていうか、吸血鬼って本当に結構恐れられてる存在なんだね。ラミアさんが例外だということがよくわかる。
俺は先程の彼女のいる医務室の前まで行き、頼れるアイテム……例の仮面とマントをつけて入室する。
「やぁ!お困りかねお嬢さん!私の名は博愛仮面!全ての種族を平等に愛する博愛の–––
「その声、さっき追い返された人ですか?」
「………」
お、俺ってそんなにわかりやすい声してるかなぁ…?
今回こそはと、意気揚々とした博愛仮面のお披露目はまたもや失敗に終わってしまった。
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