夢の世界での異種族交流④ / 精霊さんの思惑
「だぁかぁらぁ!金剛石が宝飾品の王者なの!しかもめっちゃ硬いのぉ!お前らとは訳が違うんですぅ!煌めきも硬さも価値も負けてる、モース硬度3以下の雑魚さんたちは黙っててくださぁい!」
「黙るのはお主だ!永遠に揺るがぬ金の価値を理解できん阿呆供が!だいたい、何が硬度だ!あんなもの、特定の方向からぶっ叩けば粉々に砕け散るではないか!クソ雑魚はお主だ!金こそ誰もが資産として認める財宝中の財宝!はるか昔から求められ、揺るがぬ高価値を持つ至高の財宝!よって一番価値があるのは金!はい論破論破ぁ!」
「何を言ってるのですか!有用性で見れば銀が圧倒的なのです。価値と言いますが、眺めるだけのものにどれほどの価値があるというのです!熱伝導もよく加工しやすい!その上で退魔の力を持つ神聖なる金属……銀はもはや神器と言っても過言ではないのです!神の力を賜る銀を差し置いて至高なものなどありません!あなた方のような欲を刺激するだけの俗物を、銀と同列に語らないでいただきたいのです!」
「フーッフーッ!」
「うぎぎぎぎ!」
「んぐぐぐぐ!」
俺を含め、3人とも一歩も引かない。なんで頭の硬い奴らだ。そんなに硬いのがいいならさっさと金剛石の価値を認めて降参しやがれ。
必ずこいつらをわからせてやる。
まだまだこの口論は続くかと思ったが、それは1人の声によって止められる。
「あのー……」
「「「誰だっ」」ですかっ!?」
「ひぇ」
3人でそのギラついた鋭い視線のまま、その声の主へ振り返る。
「なんだ貴様…貴様も至高なる黄金を侮辱しにきたのか?」
「至高は銀と言っているでしょう!」
「あぁん?!」
「おぉん?!」
「い、いや……あのっ…」
「ストップストップ。俺の知り合いだ。とりあえず俺は一旦抜けるから、2人はそのまま二位争い続けてて」
俺の言葉に、後ろの2人の幼女(?)がわーわーと喚き散らすが、俺はそれを無視してるルウに近づく。
「……なんだ、ルウ。どうした?なんかあったか?」
「ううん。あの、結構時間も経ったから……そろそろ帰らない?」
「あー、確かに?」
口論に夢中だったが、確かに結構長いことバトってたかもしれない。俺1人ならともかく、ルウまで巻き込むのはよろしくないね。
少なくとも、俺より冷静なルウがそう感じているのだから、その感覚を信じた方がいいね。
ハァ、仕方ない。あいつらにも切り上げさせるか。あの調子だと永遠に屁理屈捏ね続けそうだし。そうなると夢魔さんたちにも迷惑かかっちゃうしね。
「ルウ、ありがとな。ちょっとだけ待ってて」
「う、うん」
少しオドオドしい態度だ。わかるよ…あいつら必死すぎてドン引きしちゃうよね(笑)
「おいお前ら」
俺は未だに無駄な口論をし続ける敗者たちに割って入る。
「なんだ!」
「なんですか?」
「そろそろ時間だ。切り上げるぞ」
「なぁにぃ?!まだ決着は着いてなかろうが!」
「そうなのです!銀の!神聖なる銀の素晴らしさを–––むごぅ?!」
俺はその雪の結晶の口っぽいところをつまんで、その言葉を遮る。
「はいはい、また今度ね。いい加減にしないとお店の人に迷惑かかっちゃうよ?出禁とかにされちゃうよ?いいの?」
「……ふ、ふん!『今度』…というのであれば、まぁ?一旦手を引いてやらんでもないぞ?」
「はいはい、光栄の至りですよ。契約主様」
ぽんぽん、と頭を撫でてやる。身長が子供サイズだと自然に撫でてしまうな。
「むふ、むふふ。吾輩の器はでかいからな!良い良い!許してやらんこともない!くるしゅうないぞ!」
「勝手に話を進めないでください!と、言いたいところですが……ま、まぁ、良いでしょう。今回のところは引いてあげましょう!……つ、『次』?次で決着をつけるのです!」
「はいはい、わかったわかった」
『どんだけ話しても金剛石が一番なのは変わらないけどね(笑)』と、煽ろうとしたけど、そんなことをしたらせっかく落ち着いてきたこいつらが再燃しかねないのでやめておいた。
「絶対!絶対次も来てくださいよ!来週また来ますから、絶対ここに来るのですよ?!」
「そ、そうだぞ!来なかったら、逃げたとみなして貴様は最下位とするからな!わかったな!」
「わかったわかった。来週ね。そんな念押ししなくても来てやるから、大人しく待ってろちびっ子ども」
「ち、ちびっこじゃないのです!わたくしは立派なレディなのです!」
「そうだぞ!吾輩は数千年前から––––
「じゃ、また今度な!お前らも早めに出ろよ!………よし!ルウ帰るぞ!」
「い、いいの?なんか後ろで騒いでるけど」
「いいのいいの」
「喧嘩してたと思ったのに……なんか、懐かれてたね……」
「そうか?そうでもないだろ」
なんだかルウくんご機嫌斜め?どうしたの膨れっ面なんかしちゃって。
「……兄さんはそんなすぐに、色んな人の頭をぽんぽん撫でない方がいいと思うけど?」
「なになに〜?ルウくんってばヤキモチモチモチしちゃったわけ〜?」
ニヤニヤしながら問いかける。
「んー!!」
ポカポカ殴られる。否定はしないその隠しきれない素直な態度になんとも癒される。
その後は、『新しく友達はできたか?』とか『楽しかったか?』とか聞いたりした。
変なお姉さんの友達のようなものはできたらしい。……変って何?今度紹介してもらおう。そしてルウに害をなすなら排除しよう。
逆に、『あの2人はなんなのか』と聞かれた。
危険生物認定されてる邪竜とは答えられないので適当に誤魔化しておいた。もう片方に関しては俺もよくわかんない。『雪の精霊さんだよ』と適当に答えておいた。
俺たち2人は仲睦まじくおしゃべりしながら『ユートピア』から現実の世界へと帰ってゆくのだった。
○●○●
「……ふぅ」
目を開けると、眠る前と同じ景色が広がる。
ちゃんと現実世界に戻れたことを確認する為、体を起こしながら周りを見渡す。
周りには、白い鎧姿をした『聖騎士』達…そして1人の男性。この男が店主なのです。
「お戻りになられましたか、ムヘルヘイロ様」
1人の聖騎士の方が近づき、わたくしに手を差し伸べてくれる。
「はい」
この椅子は人間の成人サイズに合わせて作られているので、わたくしには少し大きいのです。
彼の手を借りないと、上手に降りれません。
「体に何か異変などはございませんか?」
「特にこれと言って……」
「それはよかったです。向こうで何か怪しいものはございませんでしたか?」
「皆それぞれ交友を楽しむだけで…怪しいことは何もなかったのです」
「なるほど…」
「だから言ったでしょう?私たちは人様に危害を加えることなど何もしていないと。そんなそんな、恐れ多くもあなた様方に逆らおうなどと、そんな無謀なことなど、とてもとても……」
店主がニヤニヤと怪しげな表情で語りかけて来る。この男はずっとこの顔をしてて少し不気味なのです。
「だまれ!貴様らのような『邪法師』を野放しにするなど……ただでさえ耐え難いというのに……夢魔を使った商売を容認しなければならないなど……!」
最近この国で急に流行り出した『ユートピア』
その商業の内容は聞くところによれば《・》実に健全。人と人との交友を離れた場所からでもできる画期的なものだ。
だが、それを扱っている存在、そしてそのやり方がまずいのです。
調べてみれば、夢魔の力と精神に作用する呪術を織り交ぜた、あまりにも怪しすぎる方法で執り行われていた。
だが、疑われることを予測していたのか、彼らは先に国の許可を取っていたのです。
それでも、『神聖なる者』であるわたくしも放置はできず、こうして一度自分の身で調査をしていだけですが……
「もうよろしいですかな?我々もそろそろ店じまいと行きたいのですが?」
「まぁ、良いでしょう。国に許可もとっている。調査して何も問題ない。むしろ人々は『ユートピア』に感謝すらしていると聞きます」
『わかっていただけて安心しました』ニヤつく表情を顔に貼り付けたまま、店主はそう答えた。
当然なのです。人間は遠くの距離をすぐには移動できない。遠く離れた大切な人と定期的に連絡が取れる、それだけでも大きな価値はあるでのです。
「な?!よ、よろしいのですか?ムヘルヘイロ様!こ、こんな者どもの商売を許容してしまって……」
「もちろん、このまま放置はしないのです。これからも定期的にわたくしが調査を続けるのです」
「おやおや、随分と気に入っていただけたようで」
「勘違いしないで欲しいのです!あくまで調査のため……もし、神に背くような行いをしていれば、『ユートピア』を取り扱う店は、一つ残らず全て!この国から壊滅させるのです!」
「ひへへへ、それはまた恐ろしい」
「ムヘルヘイロ様にそのような手を煩わせるわけには…!」
「良いのです。この判断を下したわたくしが最後まで責任持って見届けるのが筋というものなのです。」
聖騎士達は、納得できない、というような態度ですが、彼らはわたくしには逆らわないので大丈夫でしょう。
「それで、定期的とは、どれほどの周期で来られるおつもりで?」
「……毎週……くるのです」
「ムヘルヘイロ様、それは流石に多すぎませんか?」
「う、うるさいのです!これは決定事項なのです!何かあってからでは遅いのです!利用してる人数が多く、リスクが高い故の判断なのです!」
そう!これは人々を危険から守るための必要なことなのです!決して、あの人間のお兄さんや龍人?のような少女とのおしゃべりが存外楽しくて、定期的に会いたくなってしまったというわけではないのです!
わたくしは規律を重んじる精霊!天使様に使える立派なレディ!私欲のために行動するなどありはしないのです!
「な、なるほど……?」
「毎週、ですか………ほ、本当に随分気に入っていただけたようで……」
「とにかく!毎週きますので!あ、あなた方の付き添いは次からはなくて大丈夫なのです」
教会には、わたくしの化身を置いておけば問題ないでしょう。何かあればすぐわかるのです。
「そういうわけには行きません!『神聖なる者』であるあなた様を、1人でこんな怪しい場所になど……」
「……このわたくしが、人間であるあなた方に遅れをとると?勘違いしてはいけません。あなた方がわたくしを守るのではありません、わたくしがあなた方を守るのです。わたくしはそういう存在なのです。守れるべきはあなた方なのです」
「も、申し訳ございませんでした!無礼をお許しください!」
その謝罪の姿にハッと気づく。
抑えていた冷気が体から漏れ出し、それらが霜を作り出す。
周りの棚や彼らの鎧に薄氷が出来ていた。
いけないのです。こうやってすぐ心を揺らして力を漏らしてしまうのは良くないことなのです。
「あ、あ、あのー、そ、そ、そういうのは、そ、そそそ外でしてもらってもいいですかね?」
店主は自分の体を抱きしめてガタガタと寒さに震えていた。
「……申し訳ないのです」
そんなこんなで、本日の『ユートピア』の調査は終わり、わたくし達は教会へと帰るのでした。




