人狼ちゃんの異種族交流
「わぁ〜すごい、たくさん人がいる」
扉を開けると、そこには空間がただひたすらに広がっていた。つくりは質素で、床は木製。
だけど、壁が見当たらない。いや、見えはするけど、遠すぎるのか、距離感が掴めないような先の先の先の方にうっすらと佇んでいる。
そしてその中にいる大量の人の姿。
ぼくと兄さんがいる街は、どちらかというと田舎なので、これだけの人が密集してるのは中々に新鮮な光景だった。
兄さんに『いいから、着いてきなって』と強引にマギアさんの店へ連れてかれたと思えば、椅子に座らされた。そして変な液体を飲まされ、急激な眠気に襲われた。
あの時はびっくりしたけど……こんなものがあったなんて。
国中の色んなところに店舗があったり、ユートピアの『装置』を設置だけさせてもらったりして、どんどん広げていってるらしい。
こんなことができるなんて…マギアさんと夢魔さん達って、ぼくが思ってるよりすごい人達なのかも。
周りを見渡すと、あちこちで複数のグループが作られており、交友を楽しんでいるようだ。それぞれ座ったり立ってたり寝そべっていたり、様々だ。
みんな喋っているのに、不思議とそこまでうるさくない。
どこかに混ざろうかな?何だか緊張するなぁ。
とりあえず、何の話をしてるのか様子見をしながら色々歩いてみようかな。
「ね、ねえ、そこの僕ぅ」
「あ、えっと、ぼくですか––––
後ろから声がかかり振り返りながら返事をする。その瞬間、とんでもないものが視界に映り出す。
一言で言うなら……痴女だ。
とんでもない布面積の少ない格好。そのなけなしの衣類は何とかギリギリ女性の大切な部分を覆っている
だがそれも、その大きな胸が揺れるたびに危うさを感じさせる。
そして、その上にはロングのコートを羽織っており、それを、ぼくにだけ見せつけるように広げていた。
「へ、変態だぁ?!」
兄さんから言われた『変な人がいたらすぐ逃げろ』の言葉を思い出し、そのまま実行に移そうと駆け出す。
「ま、待ってぇ!」
その切実な声に、つい立ち止まってしまう。
開けた距離をそのまま維持しながら振り返る。
「な、なに…?」
いつでも駆け出せるように足には力を入れた状態を保つ。
その姿をよく見ると、上半身は人間だが、下半身は毛に覆われ獣の様相をしていた。足が、草食動物のような形をしている。足の先にある蹄で立っている。
「す、少しでいいから…私の解消に付き合ってくれない?ほ、ほんとにちょっとでいいのぉ」
体をくねくねさせながら扇状的な動きをする。
兄さん言ってたっけ。世の中にはいろんな人がいて、色んなことで興奮する人がいるって。
でも、そもそもぼく……
「お姉さん……」
「はぁ、はぁ、なにぃ?」
「ぼく……女の子だよ?それでもいいの?」
「えっ……?」
○●○●
「ご、ごめんね?変なの見せちゃって……」
先ほどの態度とは打って変わって、彼女はしゅんとしおらしくなっていた。
「あの、あんまりああいったことはしない方がいいんじゃ……?」
「わかってるの……わかってるんだけど、どうしてもね…」
何か事情があるのかな?ぼくも兄さんみたいに、しないと。すぐに否定せずに一旦話を聞いてみよう。
「何か訳があるんですか?」
「……優しいのね……聞いてくれる?実はね–––––
話を聞くと、彼女の悩みは思ったよりも深刻というか複雑というか……
彼女は、獣人であり山野の精霊でもある『サテュロス』という種族。その性質上、どうしても性欲が強くなり発散が必要らしい。
普通は、同じ種族同士で解消するものだが、彼女の性癖?というのがどうも特殊らしく……それは人間の少年にしか興奮できない、というものだった。
というのも、そもそもサテュロスは性に貪欲で、様々な趣旨嗜好を持つ者が多いとのこと。
……………………………
ダメダメ!理解を放棄したらダメだ。
兄さんならきっとこういう時、寄り添って、助けになるはず。僕も同じように、手助けしてあげないと!
「現実で人間の子を襲ったりなんかしたら、絶対捕まって、聖職者に消されるじゃない?かといって、夢魔ちゃん達は女性向けの夢は不得意だし……インキュバスは珍しくてなかなか見つからないし…そもそも半分精霊である私たちなんて、相手にしてくれないでしょうし……あなたの周りに、そ、そういうのに興味のある同年代のお友達とかいないかしら?!」
いたとしても、このお姉さんに紹介するのは中々憚られるなぁ……
「そういえば、兄さんって今17歳だっけ……?」
あまりにも切実なその態度につい口から溢れてしまった。
だ、ダメダメ!これ以上ライバル増やしてどうするの?!何やってんのぼく!バカバカバカバカ!
「17歳かぁ……うーん……ギリ…?いやでもねぇ」
「そ、そうだよね!17歳はもう成人してるし!少年ではないよね!」
「……でも、わがままばっかり言ってられないしなぁ……」
あぁ…!興味持ち始めちゃってる!なんとかしないと……!
兄さんはむっつりだし、魔女さんの時だって、胸をチラチラ見てたし。
寝てる時だって…寝ボケながらぼくのお腹とか太ももとか……む、胸とか触ってくるし。
こんな男の欲を刺激するようなとんでもないスタイルの人と合わせちゃったら、兄さんはすぐに獣さんになっちゃう!
「で、でも!兄さんは魔力もないし。あとあと…その……そう!『聖痕』が二個もついてて。恐ろしい吸血鬼の眷属でもあるし、人狼だし、他にも『呪印』がたくさんあって、だからあんまりよくないかも…!」
「……うふふ、そんなに必死になっちゃって……その人のこと、とられたくないんだ?」
「うっ、………うぅ」
「そんなすぐにわかる嘘ついちゃうくらい、好きなのね」
「………」
今話したことは、本当なんだけどね。でも気持ちはわかる。あんな状態で生きてられる人間なんていない。
世に伝わる『勇者』でさえ、聖痕が三つで限界と聞いたことがある。マーキングを複数……しかも相反する神聖と邪悪のものを、両方同時に受け入れられてる兄さんの体は、誰がどう見たっておかしい。
「ねえねえ!お姉さんその人より、あなたに興味出てきちゃった!」
「え、えぇ?!」
「どんな感じなの?兄さんって言ってるから、兄弟との禁断の恋なの?!どんなふうに2人で過ごしてるの?恋バナ聞かせて聞かせて!」
「は、恥ずかしい」
と、言いつつも、ぼくの口は回り出してゆく。人に話を聞いてもらえるのが、案外楽しくて心地よい。
普段は兄さんと……あとはスポットで入ったクエストのパーティの人達と仕事の話しかしないから、こうやって自分の話を聞いてもらえるのには自然と心が弾んだ。
お姉さんはぼくの話を楽しそうに聞いてくれて、その時間はあっという間に過ぎていった。
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