吸血鬼さんとの進展
「……綺麗だなぁ…」
俺は目を覚ます。
視界の先には、見慣れた天井を半分ほど隠す、黒の衣装と白の肌と、金色があった。
その美しさについ感想が口から溢れてしまった。
「あ、お、起き…ました?」
先程とは違う落ち着いた表情……いや、少し心配の混じる表情で見つめられる。
心配させてしまって申し訳ないな。しかも何やら膝枕をしてくれている。
それにわざわざわ部屋の中に運んでもら……って、え?
「えっ?!俺がいつも借りてる宿ですかここ?!え?え?ど、どうやって?!」
「へ?あ、あ!えっと…に、匂いを辿って…お店の人は催み––––じゃなくて…えっと、はい!優しかったです!案内してくれました!」
何やらあまりよろしくないワードが聞こえかけたが、部屋に運んでおいてもらって責めるなど俺にはできない。
『マッチポンプも甚だしい』だとかそんなことも考えてはいけない。
「大丈夫でしたか?ここまで来るの、平気でしたか?」
「…え?」
「あんまり、人混みとか得意じゃないのかなって……街の中を歩くのは大変じゃなかったですか?」
今の時間帯は食事だの酒だので大騒ぎしている頃だろう。
周りは酒場が多い。吸血鬼さんにとって、この辺を通るのは感覚的に不快なはずだ。
「なんで……わかるんですか?」
「吸血鬼さん達って、五感が敏感だって聞いたことがあって…あんまりごちゃごちゃしてるとこ好きじゃないのかな〜って」
「……だから、ずっとあの森でいつも待っててくれてたんですか?街に連れ出そうともせず、あんな、何もないところで……」
なんだか瞳がうるうるし出したぞ…?
もしかして……気を遣われてる?
「いやいやいやいや!そんな気にしないでください!俺は貴女と静かなところで二人でお話しするの好きですよ?」
それに、指をねろねろ舐められるのも不思議と悪くない。
いや、決して俺の性癖が捻じ曲がったわけではない。
『綺麗なヴァンバイヤお姉さんに、口から漏れる少し怪しい声を聞きながら、指を艶かしく舐め取られる』というシチュに目覚めたわけではない。
……でも、目覚めてても仕方ないとは思う。
「こんなに私のことを想ってくれるのに……私は……何にもできなくて…」
「いや、ほんとに気にしなくて良いで––––––
「眷属化も上手く出来ないし…」
––––……ん?」
「主として失格ですよね私……」
なんか、よくわかんないうちに眷属?というものにされてかけていた?どゆこと?
それも失敗に終わってるらしいので…なんとかギリギリセーフ?
……というか眷属って何?
「えっと……因みに、眷属になってたらどうなってたんですか?」
『じ、じゃあ説明しますね!』と彼女は徐にやる気を漲らせる。
ふんすふんす!というような仕草付きで。
……可愛いな。
「まず!他の暗闇の住人達に襲われなくなります!私の印なので…これを無視できるのは、パパとママくらいです!」
「なるほど……」
それは良いかもしれない。『暗闇の住人』とやらと会った事などないが…危険を減らせるのは悪くない。
あとパパママ呼びなんだぁ〜可愛い〜。
視界の隅にある鏡。そこ映るにちゃつく化け物と目が合う。……心霊現象か?もしかしてあれが暗闇の住人ってやつ?
「あと、再生能力が付与されます!治癒ではなく再生です!主である私がいつでも血をたくさん飲めるようになります!」
「ふむふむ」
ま、まぁこれはプラス面が大きいな。うん。怪我が早く治るのは助かる。
つい、気を失う前に味わった、あの快感を思い出してしまう。
……危ない、あんなもの続けられたら、さらにヘキが捻じ曲がるところだった。
いや、曲がってないけどね?
「あと基本的な感覚や身体能力も底上げされますね…普通の人間さんよりかはだいぶ強いと思います!」
「ほうほう」
なんか聞いていると良いところばかりだな。なっといた方が良くない?眷属。
でもなんか失敗したんだっけ?
「あとは、主である私の命令に逆らえなくなったり、り、り、リュート……ふへへ、…ん"、
う"う"ん"…の、考えてることが大体わかるようになったり、居場所がわかるようになったり、視界を覗けるようになったり…良いところ盛りだくさんです!」
「ほへぇ〜〜」
なんかデメリットを一気に捲し立てられた気がするな?貴女様にとっては良いところかもしれないけど…それは、俺の人権ないなった案件では?
「……」
「……?えへへ?」
「ははは」
クソ!可愛いなちくしょう!
確かに、彼女のような見目麗しい女性に支配されるのは一定…いや、かなりの需要がありそうだ。
実際、俺も吸血されていた最後の方は、求められることにどうしようもない満足感を得ていた。
餌を効率よく集められるように、無意識下で魅了を放っているのかもしれない。
まぁそんなものなくても十分魅力的ではあるが……
故に、彼女達は『人間が自分に屈服し支配を受け入れるのは至極当然。自分たちの餌になれる事は彼らにとっての幸せだ』というような認識で生きてきたのだろう。
罪深い一族やでぇ……
「……というか、別に吸血鬼になるというわけではないんですね?」
「はい!あくまで私たちの僕であり、食事として、眷属になっていただくことになります!」
「じゃあ、眷属にならなくても、今とあまり変わんないかもしれないですね」
「…え?」
「僕の血であれば、全然いつでもご提供させていただきますよ?…あ、でも、し、死ぬまで吸うのは勘弁してほしいですが……」
「……ずるいです」
「へ?何か言いましたか?吸血鬼さ––––んぐ」
俺の唇は、彼女の綺麗な人差し指で塞がれる。
「ラミア…って呼んでください。リュートさんなら…真名で、呼ぶことを許してあげます。それか……『我が主』って呼んでくれても良いです……よ?」
彼女のその妖艶な笑みに、俺はまた見惚れてしまうのだった。
因みに、今のやり取りの間、俺はずーーっと彼女の太ももを堪能していた。
やっぱり眷属になった方がいいかもしれないと思った。
次回!元婚約者の猫獣人さんがギルドに来訪?!
お楽しみに〜〜




