猫獣人さんとのデート③
––––……んがっ」
「……起きた?」
ぼやける視界の中で、上から俺を覗く彼女の顔が見えた。
後頭部には柔らかい感触。
どうやら寝てしまっていたようだ。
目覚めたら猫ケモ娘の太ももの上……なんて素晴らしいシチュエーションなのだろうか。
「ごめん、寝ちゃってたや」
あったかくて気持ち良すぎたな。猫同士がひっついて寝るのもよくわかる。
「大丈夫、シャルもちょっと前まで寝てた」
空に浮かぶ巨大な円は、薄い黄色の光を発し、周りをよく照らしてくれている。
星々が輝き、夜なのにシャルの姿がよく見える。
……いや、夜目が効いてるのもあるがしれない。俺の姿はとっくに狼の獣人のような姿となっていた。
これ、寝てても勝手に変身するんだね。
夜しかこの姿に入れないと言うのに、時間を無駄にして申し訳ない。彼女の為に出来る限りの要望も叶えよう。多少過激だとしても。
「そろそろ帰ろ?」
––––と思ったら、その心意気はすぐに挫かれた。
「え?もういいの?」
「うん、したいことはできたし」
そう言いながら、彼女は手のひらの上に乗せてる大量の毛玉のようなものを俺に見せつけてくる。
「……なんそれ?」
「りゅーとの抜け毛で作った」
「………」
「毛繕い、して集めた」
だめだ、あまり想像するな。彼女が、その小さな舌を使って俺の身体中をぺろぺろ舐めている光景なんて想像してはいけない。
いけない気持ちになるし、性壁もおかしくなってしまう。これ以上は本当にやばいんだよ俺。
俺の中で、『グニョルギュゥィゲゲゲギ』と何かが捻じ曲がる不気味な音がこだましていた。
「……それ、持って帰るの?」
「うん。りゅーとの匂い、たくさん」
なんとも満足げな表情。
そんな顔されたら俺はもう何も言えない。
これが、したかったんだぁ……そっかぁ。
理解したくなくて、つい思考を放棄してしまう。
俺は今仏のような顔をしているだろう。これが無我の境地か。
「あ、じゃあ帰る前にこれを」
危ない危ない。意識を手放して忘れるところだった。せっかく吟味しまくって『これだ!』ってものを選んだんだ、貰ってもらわないと悲しすぎる。
俺はカバンの中から、包装されたとあるブツを取り出し、そのまま彼女へ渡す。
「はい、どうぞ」
「急にどうしたの?」
「日頃のお礼的なプレゼントだよ。俺の趣味嗜好を押し付ける為でもあるけど」
「…開けるね」
「どうぞどうぞ」
彼女はその鋭い爪を使って、包装を器用に引き剥がし、それを手に取る。
「……これ、なに?」
よくぞ聞いてくれました!
「それはチョーカーです!首に巻くおしゃれグッズ!」
ネックレスとかでもいいかな?って思ったけど、彼女の長い髪に絡みつきそうだったので、チョーカーにした。
あと、俺がチョーカーつけてる女の子が大好きってのもある。だってあれなんかえっちじゃん。
「首?…首輪ってこと?」
「ちっちっちっ。それとはまた違うんだなぁ。とりあえず、一回付けてみよ?ね?ね?はぁ、はぁ、絶対似合うからぁ…付けてみヨォゥ?」
「りゅーと、目、怖い」
「……ごめん。付け方わかんないと思うから、つけてあげるね」
「わ、見たことないくらい俊敏」
俺はすでにそのチョーカーを優しく手に取っており、そっと彼女の首に巻いていた。中心には小さめの十字架の金具がついている。
後ろに装着用の金具がついており、嵌めると『カチッ』と小気味良い音がなる。
「ど?苦しく無い?」
それなりに伸縮はするが、長毛のシャルさんのために少し大きめのサイズを選んでおいた。
彼女は軽くチョーカーに触れたり、首を動かしたりして着け心地を確かめている。
「……かわいい?」
「ちょーかわいい〜〜!ちなみにその十字架は、俺の胸にある『聖痕』とおそろっちにする為に選びました」
「………ありがと」
「あ、ほんとに首輪とかそう言う意味じゃないからね!おしゃれグッズとして使ってください」
「リュートなら……首輪でも良い」
「……」
「……むしろ首輪が良い」
「……シャルさん?まだわかってないの?そういうこと言うから俺にえっちな目で見られるんだよ?」
ちゃんと反省してくださいね?
「シャルもね、嘘ついてた」
ほぁ?急になんの話?
「今のその姿に、興奮するって言ったけど……本当はシャルも、普段のリュートにドキドキしてた」
「………え、えっ?!」
「あの時は、ちょうど発情期だったから、びっくりしてあんなふうになったけど……」
「あのシャルさん、待ってください。たんまたんま。そのまま続けられると俺、やばくなっ–––––
「りゅーとは、どの姿でもかっこいいよ?」
「……」
多分俺は今顔が真っ赤っ赤だ。月光さん、今だけ少し照明暗く出来ない?
「さっきのお返し」
そう言いながら、彼女は俺の鼻をツンと突いた。その表情はなんとも悪戯っぽい顔をしていた。
俺の元婚約者はやはりとんでもなく可愛いと改めて思い知らされた。元というのが惜しいと思ってしまうくらいに。
○●○●
その後、一緒に街まで戻った後、ちょっとしてから解散。いつもの如くリンカさんの元へ預けていたルウを迎えにいく。
ルウは『思ったよりも早かったね』なんて素直じゃないことを言いながらも、俺に抱きついてお迎えしてくれた。
まだ全然夜は明けてない。
今の俺の狼の姿にびっくりしたリンカさんに、適当に事情を説明した。
不可解そうな顔をしながらも一旦は納得してくれた。
この受付のお姉さん、深いことは聞かずにそのままにしておいてくれるこの距離感の取り方がカッコ良すぎるんだよな。
メロついちゃうぜ。
だが、こんなことを毎回頼むのは本当に申し訳がなさすぎる。早くセキュリティ安心安全な宿を探そう。
そんなことを考えながら、その日は幕を閉じた。
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