猫獣人さんとのデート①
約束の日時、集合場所であるギルド前の広場へ俺はやってきていた。
ベンチに座り、シャルを待つ。
うーん、なんかドキドキしてきた。こうして2人で出かけるのも久しぶりだからなぁ。
「リュート」
後ろから待ち人の声がかかる。彼女は何故かいつも後ろから現れる。もう慣れたけどね。
「あぁ、シャル。もしかして先についてた?ごめん、またせ……た…」
俺は、彼女のその姿に目を奪われ、体が硬直してしまう。
「……どこか変?」
俺はそっと両手を合わせ、祈りを捧げた。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。
今ここに、感謝の意を示します…ありがとう。
「リュート?」
「あっ、ごめん、天に召されかけてて…あっ、めっちゃ可愛いくて、あっ、あっ、ソウキュートで、あ、好きだぁぁあっあっあっ」
あまりの可愛さに、某Hunter漫画の、猫獣人(?)に脳みそクチュクチュされてる人みたいになってしまった。
性格は似ても似つかないけど、髪型とかちょっと似てるからね。色も一緒だし。
「……変なの」
今回ばかりはその言葉を受け入れよう。可愛すぎて変なスイッチが入ってしまった。
だがそれも仕方のないこと。彼女の姿は、いつも俺に見せてくれる姿とはまた一段と……いや二〜三段違っている。
耳としっぽは残ってるものの、それ以外は完全に人の姿となっていたのだ。
いつもはその長毛に隠れてる顔の輪郭が露わになっている。ぽやっとしたもちもちのほっぺに、白い肌。ちょこんとした鼻にまんまるでありながらも、ネコっぽさを残した吊り目。瞳は大きく、翠玉のように綺麗だ。
服装はオーバーオールにブカブカの下に、長袖を着ている。少しサイズが大きいのか、体のバランス的には少し大きめのおててが完全に隠れている。
人間の姿なら手もいつもより少し小さいかもしれない。
毛がないからちょっと寒いのかな?
とりあえずとってもとっても似合ってます。
だねど、だけどね?どうしても、目がいってしまう箇所がある。
いつもはモフモフで埋もれて、あまり強調されないその、決して小さくはないそのお胸が……お胸の存在感がしゅごい。
『あどけない可愛らしいお顔なのに、体はすっかり大人だね』なんていうきっぅしょい感想が浮かんできてしまう。
いつもとはまた違う感じで、いやらしい視線を送ってしまう。いや?決していつもいやらしい視線を送ってるとかではないからね?そんなこと絶対ないない。うん。
あまり胸に視線が行かないようにしなければ。男の本能を抑えつけろ。
『人に姿を寄せるなんて、無理してない?』などとは聞かない。女の子にとってオシャレは我慢なのだ。
それも俺の為に…俺に合わせる為に頑張ってくれているというのであれば、尚更それを無碍にするような言葉など口に出せない。出せるわけがない。
ただ、1人の紳士としてそれとなく気遣いはさせていただこう。
きゅっ、と手を握られる。
感触は、すべすべもちもち〜、といったところだ。
「……いこ」
喉の構造なども人に近付いているのか、いつもなら聞こえてくエンジン音に似た振動が聞こえてこない。
だけど尻尾だけはしっかりピンと立っている。
うふふ。可愛いね。
「そうだな。もし疲れたら、言ってね」
「うん」
「夜は一緒の姿で楽しもう」
「…っ!うん!」
あの姿になって、というのが彼女の要望だからね。そのための満月だからね。
それにしても……可愛いなぁ。いつもより人に近いせいか、表情が豊かに感じる。可愛い。どうしよう、可愛い。
俺、今絶対だらしない顔してるよ。鼻の下を伸ばしたキモいおっさんの顔してるよ。
しょうがないよね、精神年齢おっさんだし、若い子にはデレデレしちゃうよね。
「今日はどうする?何かしたいことある?」
前回のラミアさんとのデートをちゃんと活かして、予め聞いておくぜっ!俺はアップデートできる男なのだ。
「日向ぼっこ」
「………」
「天気いいから、日向ぼっこしたい」
「じゃあ、お昼はなにか露店でテイクアウトして、草原にでも行こっか?」
「さんせー」
今日のデート内容はピクニックに決まりました。
俺たちは、商店街で適当な商品を買って、比較的安全な草原へと向かうのだった。
○●○●
草原に着く。実にいい風が吹いていて気持ちが良い。少し空気が冷たくなりつつある季節ではあるが、日光が暖かいので丁度良い。
夜にはあの姿になるから、それほど寒くは感じないだろう。
見晴らしのいい場所で、適当に買った大きめの布を地面に敷く。
ブルーシート代わりだ。そこに料理の品を並べてゆく。
「んんんんっ」
シャルは少し遠くで伸びをしている。猫っぽい動きではあるが、今は限りなく人の姿に近いので、俺の目には新鮮な姿として映った。
「シャル〜、とりあえず飯にしようか」
「ん!」
今日の昼食メニュ〜。
チキンのサンドイッチに、焼き鳥(塩&タレ)、そしてフライドチキンです。
なぜこんなにも鳥ばかりかというと、シャルさんの好物だからです。
「では、いただきましょうかね」
そう言い、料理の品に手をつけ始めてゆく。
シャルを見てみると、実に良い食いっぷり。『美味しい?』と、聞くまでもない。
フライドチキンには、柑橘系の汁をかけてもいいかな、と思ったが……猫ちゃんはみんな苦手なのを思い出して、一応やめておいた。
「シャル、口端にソースついてる」
「んー」
「あ、こら。べろべろしない」
俺はハンカチでサッと拭ってやる。部屋の中ならいいけど、一応お外なのでね。
目を閉じて俺に顔を預けるその表情にドキッとしてまう。
最近の俺の感性はガバガバだなぁ。理性の箍がゆるゆるだ。この調子じゃいつ周りの子に不埒なことをしてしまうか……去勢したほうがええか?
「……懐かしい」
「そうだなぁ。昔もよくこうやって一緒に外でご飯食べたり、こんな感じの場所で、よくじゃれてたよなぁ」
実に平和だ。昔のシャルとの思い出が蘇る。
こうして思い返してみれば、ここに来るまで色んなことがあったなぁ……そう、例えばあの時化け物に襲われて、天使さんと出会っ−−−−−
「…昔みたいに、腰トントン、して?」
「………」
その言葉に、昔に行きかけていた意識が一気に現実へ引き戻される。
♪たんたらたんたん、たんたらたんたん、ほんあんほんあんほん、たらららん♪
〜〜まずいことになったゾ〜〜
ク○ヨンし○ちゃんのタイトルコール風にしたところで、事態は特によくならない。
「だめ?」
ダメじゃあ……ダメじゃないけど、ダメっていうかぁ……
何がダメなのかを説明すると、少し長くなる。
まぁ、猫に少し詳しい人たちならよくわかっていることではある。
俺は昔、猫のあれやこれやの知識と経験があることに驕り高ぶり、何も考えず前世で培った猫マッサージ技術を余すことなくシャルや、その家族に施していた。
だが俺は、大事なことを忘れていたのだ。
そしてそれが、何を意味するのか、彼女達にどう言う影響を及ぼすのか……深く考えていかったのだ。
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