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人狼くん(?)との進展


借金から無事解放された俺は、ルウと共に宿に戻っていた。

手元には頂いた分前の3〜4割ほど残った。俺にとってはかなりの大金だ。




「いやー、やったなルウ!これでようやく、借金から解放されたぜ!」


ウキウキのパラダイスだ。これからもあれと近い金額が入ってくるなら、宿ももう少しグレードアップしてもいいかもしれないね。

ルウも安全にお留守番できるようなセキュリティの高い……俺よりルウのが強いから、必要なのはどちらかというと俺か?


でも、俺に会いにくる人みんな、物理的な壁とか高さとか全部無視してくるからなぁ……



「兄さん…」


「どしたの?真剣そうな顔しちゃって?」


ここは喜ぶべき場面だよ?『笑えばいいと思うよ』って言ってあげるべき?



「ぼく……ぼく、まだここにいていい?」


「ん?……あー、どうする?」


ルウ的にはまだこの宿の方がいいのかな?確かに慣れてると安心するもんね。



「ぼくは……まだ兄さんと一緒にいたい…」


「………え?」


「…っ、わ、わかってる。ずっとずっと兄さんに頼りっぱなしで、いつまでも甘え続けて……借金がなくなった今、ぼくはもう用無しだから、兄さんにとっては負担でしかないぼくはもう––––

「ちょと待て待て待て!」


「……やっぱり、ダメ?」


「いや、ダメっていうか……え?俺もまだ一緒にいたいんだけど?俺、とっくに家族だと思ってたんだけど…」


まだ、というか……普通に関係を続けていきたいんだけど。

ベルクニフ家から勘当されてる今となっては、たった1人の家族だし……最初からあんな奴ら家族と思ってないけどさ?


とりあえずルウに捨てられたら、俺は心まで天涯孤独になっちゃうよ?いや、そもそもルウと離れること自体が寂しいんだけどさ。



「まだ…いていいの?」


「お前なぁ……」


「わぷ」


俺はルウを抱き寄せる。

まったく、なんでこいつはこんなに自己肯定感が低いのか。俺はこんなにもルウのことを頼りにしているというのに。


……当然と言えば当然か。『人狼(ウェアウルフ)』なんて、バレれば迫害されてただろうし、何より人と一緒にいるだけで『傷つけてしまうかもしれない』という恐怖と罪悪感で、まともな人間関係なんて作れなかっただろうしね。



「俺たちは2人で1つって言っただろ〜?お前が恋人なんか作ったりして、出ていきたいとか言い出しても、しばらくごねてやるからな」


厄介パパになってやるから覚悟しろよな。



「……それは無いから、大丈夫だよ」


「おいおい〜。自信持てよ〜?まだ幼いから可愛い顔してっけど、顔が整ってるのは間違いないんだから。成長したら絶対イケメンになるぞお前。諦めんのはまだ早いぞ〜」


「そういうことじゃ……んーん、いいや。可愛いって思ってくれてるなら、今はそれで」


なんだなんだ?歯切れが悪くない?



「兄さんも……勝手にどっか行っちゃ、やだからね」


「俺は家族を見捨てるような無責任な大人じゃありません」


「じゃあ、()()()一緒にいてね」


今日はなんだかすごい甘えん坊だなぁ。

いつから1人でいたのかわかんないけど、そりゃ寂しいよね。一番甘えたい年頃なのに、まともに人と関われなかっただろうし。

仕方ないね。


何かしらが溢れてしまったのか、ルウが全然離れようとし無いので、抱き上げてそのままベッドに運ぶ。




「んむぅ」


一緒にベットに入ってからしばらくして、人狼の呪印がついた方の首筋…ルウから移された(マーキング)の部分をあむあむと甘噛みされる。そんなルウの頭をポンポンと撫でてやる。


人狼の呪いの名残なのか、この子は眠たくなったりするとよく噛んでくるのだ。小太郎も小さい頃は噛み癖がひどかった。

まぁ痛く無いので、このくらいの噛み癖なら許してやろう。


さて、明日から別の宿を探してみるか。自炊とかしてみたいしね。



ちなみに、この世界は、前世ほどじゃ無いにしても、トイレやシャワーといった設備周りの技術はそこそこ発展している。


ただ、値段がバカ高い。

作る技術はあっても、量産する技術が追いついてない。

当たり前っちゃ当たり前だ。機械など無く、大体のものは手作り……それでも、ものづくりが得意で有名なドワーフさんたちが受注しているらしいので、手作りにしては高クオリティで生産スピードも速い。

それでもやはり限界はあるので、そこまで普及していない。


高くても、今の手持ちなら夢ではないはずだ。

貯金なんかして、いつかはマイホームも建てたりなんかしちゃったりしてぇ?

お金があるって素晴らしいね。


これからの未来に夢を馳せながら、俺は今日もルウと共に眠りにつくのだった。




○●○●




「おーいシャルさんや〜い。いませんか〜」


俺は今、シャルの約束を果たすため、彼女を探している。予定を決めるためにちょっとお茶でもしながらお話ししたいのだが……居場所がわからない。


なので、街の道で、適当に屋根の方に向かってシャルの名を呼び続けるしかない。

行き交う人々からの痛々しい突き刺さるが、甘んじて受け入れよう。



彼女が日々、どこで寝泊まりしているのか俺にはわからない。だが、わかることもある。

あの子は昔から、よく建物の上で日向ぼっこをしていた。

そして、いつもすぐに駆けつけてくれることから、多分ギルドの周辺にいるだろうし、耳がいいからこうやって呼び続けていれば、いつかは彼女の耳に届くだろう………

というような半ば賭けとも思える行動に出ている。



こういう時に連絡がつかないのは不便だな。

俺にも魔力があれば、魔具的なやつを使って、ある程度の距離にいる人とやり取りできるのにね。

ないものを強請っても仕方がない。



「リュート、どうしたの?」


なんていってると、後ろから声をかけられる。俺の声はどうやら届いたようだ。



「やっほシャル。来てくれてありがとう」


「ん」


そう言い彼女とのいつもの挨拶を交わす。鼻と鼻をくっつけて、次に頬を擦り合う。

その際、シャルはしっかり、その2本の尾を俺の足にから見つける。


ひょわぁ〜〜。もふもふ天国。至福ですなぁ。シャルと会う時は毎回ショートパンツにしようかなぁ?

……うん、普通に見た目も理由もキモイからやめておこう。



「でさ、呼んだ理由なんだけど…約束の件でちょっと話したいから、その辺のお店で茶でもしばきながらでも……どう?」


「ん、わかった」


そういって俺たちは適当な喫茶店に向けて足を動かし始める。




「……あのー、シャルさんや」


「なに?」


「歩いてる時まで尾を絡ませるのは……股で挟みそうで怖いんですが」


左側から、尾の一本が俺の左足に伸び、きゅっと巻きついたままだ。

てかその尻尾って結構伸びるんだね。すごいね。



「大丈夫、挟まれても痛くない」


「うーん、ならいっか!」



その後、適当なお店に入り、紅茶的なものに口をつけながら、満月の日付などを伝える。シャルはその日で問題ないと返してくれた。


彼女は普段からあまり表情を崩さないが、それでも長い付き合いの俺にはわかる。今の彼女の表情からは、『楽しみ』といった想いが読み取れた。俺も同じ気持ちだよ。


せっかくなのでデートはお昼から夜までゆっくりしようという話になった。



因みに、彼女は店に入ってからもずっと隣に座っていた。

普通対面だよね?という俺の気持ちなんぞお構いなしに、隣で密着し、体を擦り寄せ、匂いを嗅ぎ、頬ずりされ続けた。

周りの目もあるので最初はそれとなく注意していたが、いかんせん俺も嬉しい気持ちがあったので強くは言えず、結局振り解けなかった。




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