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人狼くん(?)の選択


「えっ……え?人狼の呪印カースの発明の親……ってことですか?」

流石に驚きを隠せない。


「ちょっと〜!やめてよ〜。あんな出来損ないの呪術を、あーしが作ったなんて言わないでくれる〜?」


「はは、すまない。話を端折りすぎたね」


『も〜絶対わざと〜!』とプンスコ怒りを露わにしているウィッチさん。

『ジメジメエルフ〜』『湿度モアモア〜』『じっとりヤキモチ妬き〜』などなど、よく話かわらないヤジのようなものを飛ばしている。



「えっと……どういうことですか?」


「そうだね、ルウくんのこともある…ウィッチと情報交換といこうか」


俺はルウを自分の足の上に座らせながら話を聞く事にした。



話を聞いた結果、この魔女さんは人狼の呪いの発明者、ではなかった。だが関係なしというにはあまりにも深く関わっていた。


人狼の呪い。

元々は満月の夜という限定的なものでも、凶暴化するものでも…ましてや感染するものでもなかったらしい。


元々はウィッチさんが扱う『人を獣の姿に変える変身の魔法』だったそうだ。

それは人狼の呪いとはあらゆる点で違った。

感染などしないし、理性も飛ばない。

そもそも彼女は、相手の承諾を得て初めて行使していた。

彼女はそれを、気に入った人間にしか使用していなかったのだ。


彼女曰く『人の姿を捨てでも私を選んでくれた。その事実がたまらなく愛おしいの。だから獣化した子達はみーーんな私が最後まで責任持って、愛を持って、面倒を見ているの』とのこと。


怖すぎるね。近づきすぎないように気をつけないとね。いくら巨乳で綺麗なお姉さんといえどね。

俺には目移りする人がたくさんいるので、多分大丈夫だろうけど。



そういった行いから、彼女は『獣化の魔女』と呼ばれているらしい。


その魔法は秘匿されており、真似できるようなものではない……はずだった。

だが、彼女の弟子の1人がそれを会得しようと独学で研究を進め、行使した。


その結果、失敗し、暴発。

人狼の呪へと形を変えた。その被害者が逃亡し、世の人々へ感染…ねずみ算式にに広まっていったらしい。


だが、感染と言っても、その呪いを持つ人間は少ない。

理由は簡単、人狼の呪いが移る前に大体は先に命を落とすからだ。人狼達は狼の姿になっている時は理性がほとんど飛んでいる。

その狼の姿で噛みつかれことでしか感染はしないため、なかなか感染者は増えないのだ。


それが良いことなのか悪いことなのかは俺にはわからない。


……ルウくんってすごいんだね。今後はもっと褒めてもっと感謝しよう。




まぁとりあえず、そういった悲劇の末、人狼の呪いが世に蔓延っているらしいのだ。


うーん。なんとも言えない。





「もー、失礼しちゃう〜。あの魔法を、他人に呪いとして行使したのは一回しかないのに〜!」


「あ、あははは」

一回あるんかい!やはり近づくべきではない……が、いかんせん、ルウにとって頼りになる人ではあるんだよなぁ。


てきとうにご機嫌をとりつつ、のらりくらりとかわすしかなさそうだ。



「……解呪できるんですか?」

俺が聞こうとしたことを、そのまんまルウが自分で聞き出した。


ルウが彼女を見てあんな反応をしてしまったのも、人狼の呪印の元が、ウィッチさんの魔法が根源だからということらしい。


納得できるようなできないような……。呪いだの魔法だの全く身近でない俺にはよくわからない感覚だった。




「ルウ、もう平気なのか?」


「ん……もうだいじょぶ」


「嘘つけ、まだここにいなさい」


俺の上から降りようとしたルウを逃さず、俺はルウを抱きしめる。


「ちょっ…兄さん!ここ外だよ!?」


年頃だもんね恥ずかしいよね。でもそんなに強く拒否られると、パパ悲しくなっちゃう。これが反抗期というやつか。



「いいからじっとしてなさい」


「んむぅ……うぅ」


ジタバタしてるので、胸の中に押し込めてやった。



「あらあら、見せつけちゃってー」


「ははは、相変わらず仲が良いね」


「俺ら、二人で一つ。ニコイチなんで」


『……で–––』と話を戻しつつ、答えを急かす。すると、その魔女はルウに向かってにっこりと微笑む。


「あーしの手元を離れすぎてるから、完全には無理だけど、限りなく薄めることはできるよ?でも、その前にひとつ質問……ルウちゃんはそれでいいのぉ?」


「………」


ルウは考え込み始める。



初対面にも関わらず名前呼び。呪いを身近としている人たちに名を知らせるのはあまりよろしくない……というのが定説だが、まぁ、仕方ないことなのだろう。


マギアさんにルウの名前を教えたのも、呪印を弄るのにどうしても必要だったためだ。


人狼の呪印は、あまりにもその人の在り方を変貌させる。

なのでその人の奥の本質に触れ、その人をその人たらしめるために名が必要……的なことを言っていた。


バカな俺には半分以上何を言ってるのかわからなかったので理解が曖昧なままだ。




「ルウちゃん、その呪いの扱いがすっごく上手なんでしょぉ?マギマギが手を加えてるとはいえ、その呪いを自ら調整して扱うなんて……きっと他の人には真似できない…大袈裟でなく、ね。それはきっと世界であなただけの武器になると思うけど?」


ほえー、そんなにすごいんだぁ〜。俺の周りはすごい人ばっかで、どんどん肩身が狭くなるね


でも、こればっかりは本人の意思次第なので、俺は口を挟まず、ルウの答えを待つ。



「………兄さんは…どっちがいい?」


「………え?俺?」


と、思ったら俺に丸投げしやがった、このガキンチョ。でもまだ幼いから仕方ないか。大人の意見も参考程度には必要だよね。



「普通の人間のぼくと…人狼の力が使えるぼく……どっちの方が兄さんにとって良い?」


「えー俺かぁ……俺個人の一方的な意見としては、今の状態で問題がないなら、今のままでも良いと思うけどなぁ……」


「……クエストで、稼げて、役に立つから?」


「いや?モフモフの姿も可愛いから」


「…………」


え、なにみんなその『なに言ってんなこいつ』みたいな顔。マギアさんに関してはもはやめちゃくちゃ呆れてるんだが……

俺、そんなおかしいこと言ったかなぁ?仕方ないじゃん、俺ケモナーなんだもん。



でも流石に不謹慎だったか?でも嫌なら俺に聞かずに、いの一番に解呪を頼むよね?ね?そうだよね?そんなに悪いこと言ってないよね?


「…ごめん、ルウ。嫌なこと言っちゃった?」


「んーん、……ただ……」


「ただ?」


「人の姿のぼくは……可愛くないのかな……って」


うるうるとした瞳で見つめられる。


やめてくれ。これ以上俺の性癖を強制開拓するのは本当にやめてくれ。



「……前も言ったろ、可愛いと思ってるに決まってるだろ」


『ヒューヒュー!お熱いねぇ!』と茶化される。

ちょっと!外野の魔女さん!?そこうるさいよ?!



大丈夫。まだ大丈夫だ。これは家族的なアレとしてで、決してショタ的な可愛さにやられたわけではない。だから俺は大丈夫。

だからこうやって頭を撫でてやるのも全然そんな深い意味とかじゃない。


ルウが男の子でよかった。男の子じゃなかったらきっともっとやば−−−−−


「いでぇっ?!なにすんだっ?!」


ルウにガブっと腕を噛まれる。こいつ、何気に噛み癖あるんだよな。


「なんか失礼なこと考えてた気がした」


は?なにも失礼なことなど考えてないが?冤罪ですよ冤罪!控訴控訴!




「兄さんがこう言ってくれてるから……もう少し考えてみます」


ウィッチさんへ返答したルウの表情は、なんだかご機嫌で、嬉しそうだった。



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