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ダークエルフさんとの商売② / 魔女さんとの接触


あの後、リンカさんが町の衛兵に連絡し、その方々に聖騎士さん達を回収してもらった。


ありがたいことに、リンカさん達は俺のことを喋らず

、黙っていてくれた。

リンカさん曰く『決闘をしたことは知っていいますが、その後のことは私は見ても聞いてもいません。衛兵さんに聞かれたのは、あの聖騎士達についてだけ。その事については知らない、と答えても嘘にはならないでしょう』とのこと。

その時の、リンカさんの頼れるお姉さんっぷりときたら、俺の中の全オタクが感涙しながらスタンディングオベーションしていたほどだ。


ちなみに片手が黄金の呪いを受けた聖騎士さんはシャルさんが治してくれました。

尻拭いをさせてごめんね、と感謝と謝罪を送っておいた。



リンカさんの時間稼ぎを無駄にしないよう、行方をくらませて逃げようと思ったのが、その必要はなかった。

彼らは、俺とルイズの決闘あたりの記憶が全て失われていたらしいのだ。勿論ルイズ本人も。

そして後遺症はそれだけらしい。軽い記憶障害以外は特に問題はないとのこと。

考えるまでもなく、天使様の『聖痕(スティグマ)』のおかげだろう。


俺はいつも助けられてばかりだ。感謝してもし足りないね。




その日の夜から、俺の毎日のルーティーンに『シェムハザ様の偶像に向けて、頭を地面に叩きつけながら感謝の土下座頭突き五百回』の項目が追加された。


ルウが心底恐怖した顔で『本当に怖いからやめて』と懇願してくるので、残念ながら宿で行うのは禁止となった。

その為、ルウが寝付いた後に、夜遅くの広場でその行事を行うこととなる。



それと同時期に、なぜか怪しい噂が流れ出した。


何やら、広場で頭をブンブン振り回しながら額を地面に叩きつけ、狂ったように何かを崇める男の姿が目撃されたらしい。


邪教徒……この世界ではそう言った類の連中を『邪法師(ウォーロック)』と呼ぶらしいのだが……邪法師と思わしき人物が、『悪魔』や『暗闇の住人』を召喚する闇の儀式を行なっているのでは?と街によろしくない噂が流れているのだ。



なんて傍迷惑な奴なんだ。

俺が天使様に祈りを捧げてる場所でそんな怪しい儀式を行わないでいただきたいね。俺まで怪しまれてしまうじゃないか。


時間が絶妙に被っていないのか、そう言った人物とはいまだにエンカウントしていない。


見かけたらとっちめてやる!

強い決意を胸に、額を硬くする日々が続いた。




○●○●




「そこに座って少し待っていてくれたまえ。すぐに持ってくる」


「はーい!」


「は、はい……」


俺たちの返事を待たず、マギアさんはすでに店の奥へ向かい、姿を消していた。



本日は、とある目的のため、マギアさんのお店へルウと一緒にお邪魔しています。




ルウは、あまり落ち着かないと言った態度で店内を見渡す。無理もない、マギアさんのお店に連れてくるのは初めてのことなのだから。どう見ても怪しいもんね、ここ。

だが俺は、ルウとは正反対に胸の内がワクワクで溢れかえっていた。なんせ今日は『ユートピア』の売り上げの分前をいただけるのだ。


どれほど稼げたかは、あえてまだ聞いていない。見てのお楽しみというやつだ。

あまり過度に期待するのはよろしくないとはわかっていても、やはりこういうのはドキがムネムネしてしまうよね。



「に、兄さん……こんな怪しいところに(かよ)ってたの…?」


「大丈夫大丈夫。俺とマギアさんは契約した仲だから!商売仲間だから!ソウルフレンドだから!悪いようにはされないよ!………多分」


「そもそも……ここ何のお店?いかにも怪しいです!って感じなんだけど……兄さんは怪しい商売に関わってないよね?」


「………ははは。ルウ、恩人に向かってその言い草はあまりよろしくないんじゃないか?」


何をしてるかは詳しくは知らないが……少なくともここで、夢魔(サキュバス)さん達にエッチな夢を見せてもらえる商売が行われているとは口が裂けても言えない。まだ幼いルウの教育に悪すぎる。


『ユートピア』に関しては、まぁ今度機会があれば一緒に利用してもいいかもしれない。



「そ、そうだよね。失礼だった……ごめんなさい」


「なーに、次から気をつければいいのさ。ははは」


ルウが素直な子でよかったぁあああ!

内心冷や汗ダラダラだよこっちは。ヒヤヒヤさせてくれるぜまったく。




今日は売り上げの分前をいただく以外にも、もう二つ他に目的があるのだ。


一つはルウの人狼の『呪印カース』の定期検診的なやつ。

ルウをマギアさんに紹介したあの日から、マギアさんは定期的にルウの呪印を診てくれている。


なんて頼れるお姉さん。さすがは我らがマギえもんだ。

なにかに困ったら、真っ先に泣きつく相手として、俺の頭の中に既にインプットされつつある。



そしてもう一つは……これに関してはほんと、全くこれまでと関係のない話にはなるのだが……次の満月が昇る日を把握とかしてないかな〜〜?知ってたら教えて欲しいな〜〜?という頼み事だ。


シャルさんとのデートは満月の日の夜ということになってる。この前悲しい思いをさせてしまった件もある。

しっかり日付を確認してちゃんとした準備を–––––



「だ〜れだ〜」

突然、後頭部にやわらかい感触と共に視界が遮られる。

えっちレベル121の俺にはわかる。この感触、確実に女性のたわわだ。しかもこの大きさ&柔らかさ……そしてこの甘ったるい声。ユートピアで出会ったあの人だ。


「『ウィッチ』さん?」


「だいせいか〜い!すぐにわかっちゃうなんてぇ、あーしのこと好きなのかなぁ〜?」


振り向くとそこには、ユートピアで見たまんまの姿の魔女さんがいた。

大きな帽子にローブ、黒一色に身を包んだ、THE 魔女!と言った格好の彼女。


この人、実際見てもかなりの美人さんだ。『今まで籠絡してきた男は数知れず!』と顔に描いてある。

にへらと笑う彼女の片手には酒瓶らしきものが握られている。

ほろ酔い気分といった感じで、頬を若干赤らめながら、ふわふわとした雰囲気を漂わせている。


怪しい老婆とかではなかったみたいだ。あの時は失礼なことを考えて申し訳ございませんでした。



「や〜〜ん!人間くんってば、実際に見る方がイケメ〜ン」


「ははは、まぁそれほどでもあるかもしれませんね。ウィッチさんはユートピアで見た時よりも超絶ハイパー美人さんですね」


「やんやん!口説かれちゃった〜!どうしよっかな〜?気分良いし、お持ち帰りされてあげちゃおっかな〜?」


空いてる手を頬に当て、『やんやん』と身体をくねくねさせてるウィッチさん。

揺れまくる大きなたわわに、ついつい目が釘付けになってしまう。

クッソォ……!男の性があれから目を離すなと命令してきやがる……なんて強力な指揮系統なんだ……っ!こんな人に誘惑されちまったら…俺は果たして対抗できるのか……?!



「に、兄さんがまた別の女の人を……しかも美人で、胸も……っ?!」


「…?どうした?ルウ」


「あぐぅ………はっ、はっ、はっ」


ルウの様子が変だ。呼吸が浅い、ウィッチさんを見る目に恐怖……いや、恐れとはまた別の逼迫した表情で彼女を見つめている。



「あらあら、ごめんなさいね〜。大丈夫、大丈夫よ〜」

そんなルウの頭を、彼女は優しく撫で始める。


「あっ……」

それだけ。たったそれだけでルウの表情に安堵が戻る。


なになになになに?え、何が起こってるの?心配なんだけど、保護者である俺を置いて勝手に物事を進めないでくれませんかぁ?!



「えっと……ルウは…大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ〜。ごめんね?びっくりさせちゃったね〜」


「ん……んぅ」


なんだか胸がモヤモヤするなぁ。俺以外の人に頭を撫でられて気持ちよさそうにするルウを見て妬いてしまっている。

俺の心もなかなか狭いようだ。



「それにぃ、人間くんもなんだねぇ?」

『あの時から、もしかしたらって思ってたけど、まさかねぇ〜?』と1人でに呟くウィッチさん。


俺には何が何やらわからないが、ルウに異変がないならとりあえず一安心だ。



「はは、勝手な真似はしないでくれと言ったんだけどね」


マギアさんの声。結構大きな袋を担いで戻ってきた。


「そんなケチケチしなくても…ちょっとくらい、いいじゃ〜ん」


「マギアさん、どうしてウィッチさんがここに?」


「彼女は、ルウくんのために呼び寄せたんだ」


「ルウのため?」


『あぁ』と返事をしながらその袋を机に置く。『ジャラジャラ』と、袋越しに硬貨の音がする。かなりの量が入っているようだ、これが売上金か……始めたばかりにしては中々繁盛しているように思える。

……が、今はそっちよりルウの話だ。



「彼女はね、人狼の呪印の発明者(インベンター)なんだ」


「………はぇ?」



そのとんでもない言葉に、俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。



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