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吸血鬼さんとの関係


あれから、俺の無味無臭だったクエストの日々に彩りが咲いた。 

俺の日常のルーティンに一つの新しい工程が加わったのだ。


朝起きる→洗顔歯磨き→昔助けてもらった天使様に祈りを捧げる→クエストを受ける→吸血鬼さんに吸血される(NEW)→成果報告を終え、宿へ帰宅。



相変わらず、彼女の瞳は艶やかな金に覆われたままだが、なぜか魅力されてしまう。

俗な言い方をすればドキドキしてしまう。


その代わりになるかはわからないが、俺は毎日、クエストの合間に少々の血を提供させていただいている。

何やら大層気に入っていただけたようで……。


魔力すっからかんな俺の血を飲んで腹を下さないか心配していたが、特に異常はないらしい。

むしろほんの少し飲んだだけで元気が出るらしい。不死(アンデット)の種族が生き生きとしている姿はなんというか……シュールな絵面ではあったが、それでも綺麗なお姉さんの喜ぶ姿に見惚れてしまうのは男として仕方のないことなのだろう。



それらをこなす為、俺は今日も今日とて薬草採取の依頼を受けに行くのだった。




○●○●




「おはようございまーす!今日もお願いしまーす!」

元気な挨拶は社会人としての基礎だ。

無能ならせめて人柄は良く。好印象を持ってもらうのは大切だ。


「リュートさん。おはようございます。本日も薬草採取の依頼ですね、無理はしないようお気をつけて」


にこにこと爽やかな笑顔を向けてくれる受付さん。こんな俺へ心配の言葉を毎日かけてくれる。天使だ。いや、俺の天使様はちゃんと別にいる訳だが。


そんな彼女に軽く手を振りながら出入り口へ向かう。実に気持ちよく出立できそうだ。



だが、それは筋肉達の壁に幅れる。


「あ痛て」

受付さんの方を向きがら後ろ向きに進んでいたため前が確認できずそのままぶつかってしまった。


「よ〜う。リュートぉ、今日も草むしりかぁ?」


「これはこれはガゼンの旦那。本日はお日柄もよく……へへ」


俺がぶつかった筋骨隆々の男、『ガゼン・フォーレン』その人が佇んでいた。 

その威圧感に俺はつい腰が引けてしまう。この人を前にすると、なぜか俺の中の子悪党が胡麻を擦らせるのだ。


「……フッ。なにかあれば俺たちに言いな。お前みたいなやつはすぐいびられちまうからな」


「へへへ、いつも気にかけていただいて感謝いたしやす、旦那」


何故かよくわからないが、いつの間にか気に入られてるっぽいので、お言葉に甘えて頼らせていただいている。

この人のおかげで『魔力無し』という悪目立ちする俺に対して、面倒を起こそうとする輩は消え失せた。


真っ先にいびってきそうな風貌のくせに、なかなか心優しいおじさんなのだ。

俺が女なら惚れてたね。



その善性に応えるべく、俺はいつものように彼等を褒めちぎる。


「よっ!良い筋肉っ!キレてるよっ!仕上がってるよ!胸がケツ!ドラゴンでも飼ってんのかいっ!」


「……お前のそれ…いつも何を言ってるのかよくわかんねぇが…まぁ褒められてんのは伝わってくる。悪くねぇ」


へへ、俺の熱い気持ち、伝わってよかったぜ。


「こらー!ガゼンさん!リュートくんをいじめたらダメですよ!」

「あ、い、いやいじめるだなんてそんな…」


ガゼンさんは、あの受付のお姉さん……リンカさんに逆らえないのだ。まるで親娘のようだ。


そんなほんわかした光景を背に、俺はギルドを後にした。




○●○●




「で、ではいただきます!」


「どうぞ召し上がれ〜」


薬草採取もひと段落終え、俺は今日も吸血鬼さんに指を喰まれている。

彼女の種族が吸血鬼というのが発覚してから、彼女と会うのは日が落ちた時間帯へ変えた。


彼女は、実にイキイキと、ちゅーちゅーと、タピオカの如く俺の血を吸い上げてゆく。


「……ぷはぁ、ご馳走様でした…」


「お粗末様でした」


恍惚な顔。そのような幸せそうな顔をして貰えるとは……生産者としても鼻が高いね。


「あの…あれから毎日、当たり前のように血を貰ってってるのですが……い、良いんですか?私、何もお返しできてないのに……」


「いやいや!良いんですよ!そんなそんな!むしろ貴女様のような、高貴な方の糧になれて光栄ですよ?『我が主(マイロード)』」

一度言ってみたかったんだよね、これ。


「………」


「えっと…?」

やべ、もしかしてスベッた?ついに俺にも魔法が発現しちゃった?氷魔法発動しちゃった感じ?



「……っぱりそうだったんだ」


「へ?」


「や、やっぱりそうだったんだ!へ、へへへ!や、やったやった!眷族!ついに私にも眷族が!私専用のご飯!」


困惑している俺をおいて一人でに盛り上がっている。


「……えっと、何を言って……?」


彼女の不可解な言動。

何かしら理由があると俺は訝しむ。彼女の心の奥には一体何があるのか?


その謎を解明するため、我々調査隊はアマゾンの奥地へと向か––––おうとした時には既に、俺の体は彼女に押し倒されていた。


俊敏な動き。

物凄い速さを発揮した彼女に、俺は反応などできるわけもなく、抵抗すらさせて貰えなかった。



「ハァァ、ハァァ。リュートさん…い、良いんですね?良いってことですよね?!」

艶かしい吐息。興奮が抑えられない、歯止めの効かないと言ったその表情。


彼女の様相はまるでご馳走を目の前にした獰猛な肉食獣だ。

その鋭い牙から唾液が滴り、ぼとぼとと俺の顔に落ちてゆく。


暗闇の中、初めて彼女と目が合う。

その瞳孔は猫のように大きく広がり、少ない光を瞳に集め、反射させている。

俺の視界の中にあるただ一つのその光は、血のように赤く変色し、爛々と輝く。

その瞳は、コチラだけを見つめていた。


……なるほど、これが捕食者の目か。

そして俺が蛇に睨まれた蛙というわけだ。

だが蛙とは違う所が一点ある。


恐怖ではなく…見惚れてしまって動けないのだ。


やばい、マジで動けない。

彼女のその妖艶な色香、綺麗な顔立ち、全てに魅了されている。

彼女の瞳から目が離せない。どうしようもなく見ていたくなる。

見つめられていたくなる。

彼女に……俺を求めて欲しくなる。



彼女の熱い吐息が首にかかってゆく。艶かしい熱が自分の体へ移り、体温が上がってゆく。

次に、それは気持ちの良い痛みへと変わった。


血を、首から、吸われている。


その快感は想像を絶する。

痛みと、その快楽が混ざり、どうしようもなく虜にされる。


俺の首筋にかぶりつき、『ゴクッゴクッ』と喉を鳴らしながら実に美味しそうに、俺の体の中に流れる血を堪能している。


しばらくして、満足した彼女は密着していたその体を俺の上で起き上がらせる。

口の端ついた血の赤を、更に真っ赤な舌で舐めずる。


「……はぁ、あぁ、さいっっっ…こう…!これから毎日、これを……あれ?なんか(マーキング)が、中途半端……あれれ?上手く眷属化できて……ない?えっ?えっ?なんで?あれ?リュートさん?」


「……あへぇぁ」


「え?起きない……え?大丈夫ですか?え?え?」



徐々に焦りを見せてゆく彼女の心配する声が、頭の中に鈍く響き渡る。




彼女に体を激しく揺さぶられる中、頭の中に充満する快感に溺れ、俺の意識は沈み込んでいった。




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