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弟との決闘③


先ほどの光景を見ていた聖騎士さんは、ぶつぶつと呟くように話始める。


「ば……バカな……!『邪悪なる者(ジン)』と契約を交わしておきながら……神聖の力を宿しているだと……?!」



目の前の聖騎士さんは、何やら取り乱しているようだ。

俺を囲う周りの聖騎士さん達も同じように驚愕の表情を浮かべながら絶句している。


ちなみにルイズきゅんは気絶している。

あいつはもう一回起こして徹底的にいじめ抜く。



『邪竜さんや、これおかしいことなの?』

とりあえず、よくわからないままなので、1番答えてくれそうな厨二竜に聞いてみる。


『眷属よ!どういうことだ貴様!吾輩というものがありながら、他のやつとも契約しているのか!?』


だが、返ってきたのは質問とは関係のない言葉だった。

お前が驚いてた理由そっちかよ?!



『お前以外って言われても……えーと、聖痕(スティグマ)が二つに……呪印(カース)も二つあって……マギアさんとの契約もあるから……そもそもお前との契約は6番目なんだよな…』


『ろ、6番……この吾輩が……6番目…』



BAD入っちゃった……。

トカゲの姿なのにすごい項垂れてるのがわかる。

なんか、ごめんね。



『いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだーーーーーーっ!吾輩は人間と契約するの初めだったのに!吾輩の初めてが汚されたぁあああっ!うわぁぁぁあああん』


と、思ったら急に騒ぎ出す邪竜さん。

その喚き声が全部、とんでもない音量で脳内を響かせる。



『おいこらぁ!頭の中で騒ぐなぁ!頭がんがんするだろうが!』


『いやだいやだいやだぁあ!吾輩以外にも契約者がいるなんていやだぁあ!全部取り消して!今すぐやめて!マーキングも全部とってぇ!吾輩だけの人間になってぇえええ!』


な、なんだこいつ。急にめちゃくちゃヘラり出すじゃん。すぐ癇癪起こすじゃん。


うーん、こういう時は……



『でも、名付けの契約はお前だけだよ?』

この言葉に、頭の中で劈く喚き声が収まり始める。

ガディは……魔獣なので別枠ということで。許せ、ガディ……世界を守るためなんだ。



『………ほんとか?』


『本当ぉ!に決まってるぜぇ! 契約ぅ!の順番なんて関係ねぇ! マジでお前は俺の特別ぅ! 炸裂ぅ!するぜ黒い炎ぉ! 俺たち2人は超絶最強ぅ! お前と死ねるならマジで本望ぅ! 一緒に歩もうぜ紆余曲折ぅ!』


『………』


なんでこれでフロアが沸かないのか意味不明なんだが。俺の洗練された即興ラップが理解できないのかこいつ?


『むふ、むふふふふ。そ、そうか。吾輩は特別か…むふっ。……それならば良いのだ。』



ムフムフ言いながらなにかを納得している厨二竜さん。

どうやら、(ラップ)に乗せた俺の(ライム)はちゃんと伝わったみたいだ。


みんなの知らないところでまた世界を救っちまったぜ。俺の詩は世界を救う。




「ありえないっ!」


聖騎士さんが急に叫び出す。

おぉ、今度はこっちだ。俺ってば忙しい男。

みんなもう少し情緒安定させてこ?



「ありえないと言われましても……」


「こんなことあってはならないっ!我々聖騎士でさえ、『聖痕』を賜われるのはごく一部のみ……それを、それを邪悪なる者(ジン)と連なる貴様が……っ」


そ、そんな理不尽に怒られても……



「そうおっしゃられても…『聖痕(スティグマ)』を二つ賜ってるのは紛れもない事実でして……」


「ふ、二つ?!二つだとッ?!戯言を……!そんなことをすれば、精神と体が……」



「え、えぇ?いや、あるんだけどなぁ。この額の傷とぉ……」

髪をかきあげ、額を見せる。


「そして、この胸の真ん中の上の方にあるこれ…」

そして、天使様につけて頂いた、未だポワポワと光り続けている胸の十字架の傷を見せる。


「あ……?あ、あぁ………」


「………え?」

なんかみなさん様子がおかしいような………


この聖痕を見せた瞬間、彼らは涙を流しながら、膝を地面につけ、両手を組み出す。

これは多分、祈りの所作だ。



「あっ、あっ、あっ、あ゛、ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛アッッ」


「へぇっ?!」

なになになになに?!怖い怖い怖い!

兜の中から透明な体液が溢れ出だしている。

発狂したように叫びだし–––––


「な……なんなんですかぁ……?!」


–––––そのまま気を失い地面に倒れた。



体をビクビクと痙攣させながら倒れている聖騎士さん達。


『どうやら貴様のその聖痕が強烈すぎて、()()()()()しまったようだな』


『え、えぇ?そんなことあるの?』


『邪気も聖気も、強すぎるものを目の当たりにすれば、気がふれてしまう。中には一生狂気に染まったまま正気へ戻ってこれない人間もいるのだ』


ひぇぇ、こわぁい。

……なんで俺は無事なんだろ?………ま、いっか。わかんないこと考えても仕方ない。




『で、どうするんだ?こやつら』


『うーーーーーん。このまま放っておくのもなぁ……』


どうせこいつら、またシャルに迷惑かけるんだろ?こいつらをここで逃して、俺の知らないところで、シャルを巻き込んで取り返しのつかないことをしでかされたら最悪だ。


その時俺は、きっと後悔して自分を許せなくなるだろう。




『……眷属?』


『よし!全員、黄金にしちゃおう!』


『…ほう!貴様のような人間であれば、てっきり逃してやるものかと思ったぞ』


『こいつらの目当てが俺だけならよかったんだけど……シャルが狙いとなるとなぁ。俺、普通にこいつらの命より大切なものを優先したいし』


『自らの財宝を至高とし、野鄙蒙昧な者どもには呪いの懲戒を……クフフ。眷属よ貴様、なかなかわかっているではないか』


先ほどまでとは明らかに違う声色。あまりにも強い意志と信念……それはもはや呪言だ。

その声で、その邪竜は唱え続ける。


『そうだ!奪われたくなければ自らの手で守り抜けッ!迫り来る魔の手は全て焼き払え!降りかかる火の粉を、その黒い炎で飲み込んで焼き尽くしてしまえ!何人たりとも触れることは叶わんと知らしめろッ!……吾輩は貴様を肯定する。さぁ、卑しくも手を伸ばし、己の財宝を穢さんとする罪深き盗人どもに、その身をもって償わせるのだ!その罪ごと全て黄金へ変えろ!………そして今度は、こやつらこそが穢れた欲の前に身を晒すこととなるだろう』


その言葉が、俺の頭に鈍く響き、溶けてゆく。俺の意識に、その呪言が混ぜ合わさってゆく。



先ほど生成した黄金の杖。

それを握る手に力が入り、杖先に、金粉を散らす黒い炎が灯る。


俺は、目の前で倒れている聖騎士とルイズに向けて、その杖を……



「だめ」



その瞬間、背中にモフッとした感触が広がった。



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