聖騎士さんの苦難①
マギアさんのイメージイラストを追加しました
『ダークエルフさんとの商い』の話に入ってます。
挿絵がある話には〔★〕のマークをつけようと思います。
我々聖騎士団はシャルナール様をお迎えに、ルイズ殿を連れ、辺境の地のギルドへと赴いていた。
ことの始まりは数年前に開かれた建国祭。
その数日後、突如我々にとんでもない朗報が舞い込んだ。
神獣である『シャルナール・ビウ・ガルシア』様が、ベルクニフ家の次男『リュート・ベルクニフ』殿と婚約関係を結びたいと申し出てきたのだ。
これは我々にとって大変喜ばしいことだった。
その婚約が成立し、無事2人が結ばれれば、神獣様…そして獣国と強い繋がりができる。
さらに安泰となるこの王国の未来に胸を馳せながら、シャルナール様とリュート殿の関係を丁重に扱いながら祝福していた。
リュート殿と関係を深めるため、シャルナール様が人の国に滞在することとなった。
彼女が外出するたび我々も警備を固める。
それが本人にとって窮屈なのは、初めて護衛にあたって私でも感じ取れた。
だが、その不服そうな態度が、リュート殿に出会った瞬間様変わりする。
まるで甘えるように体を擦りつけ、2本の尾を彼の体に絡ませる。リュート殿も嬉しそうにそれを受け入れていたのを、遠めながら眺めたことがある。
初対面の私から見ても、2人の姿は愛し合ってるように思えた。
この出来事は、王家だけでなく『聖職者』達にとっても大変喜ばしいことだった。
………だが、その喜びに酔いしれるのも束の間、すぐにその状況は転落した。
リュート・ベルクニフに魔力が発現しなかった。魔力が枯渇していたのだ。
問題はこの先に起こったベルクニフ家の対応にあった。
魔力の枯渇を理由にリュート殿をベルクニフ家が追放したのだ。
なぜそのような対応を取ったのか我々には理解ができなかった。
神獣様と婚約をしている我が子を、たかだか魔力がないだけ。
確かにベルクニフ家は代々炎魔法を司る名家だ。その一族に魔法が使えないものがいれば汚点になると言う思考回路は理解できる。
だがそれでもあまりある恩恵がシャルナール様との婚姻にはあったのだ。
これが我々にとっての不幸の始まりだった。
ベルクニフ家は末子のルイズ殿をリュートの代わりとしてガルシア家へ提案。
だがそれはすぐに却下される。
その答えに彼らはひどく驚愕していた。
彼らは勘違いしていたのだ。神獣様は、リュート個人ではなく、ベルクニフ家そのものに価値を見出し婚姻を申し出たのだと。
あまりにも傲慢な勘違い。神獣様が、そんなものを理由に人間を気にいる訳がないだろう。
そして彼女は、彼の後を追うように行方をくらませた。
彼女を捜し始めて間もない頃に、ガルシア家現当主でありシャルナール様の父親。『ビウ』の名を持つ一族の長……『ガラード・ビウ・ガルシア』からベルクニフ家との関係の破棄を旨とする連絡が届く。
『我が娘は、親愛なるリュート以外の人間など番に認めないと言っている。我々もまた、そのつもりだ。リュートがいないのであれば、ベルクニフ家との関係は切らせてもらう』
このよう内容だったらしい。
『リュート・ベルクニフ』そもそも、あれは一体何をして、気難しい獣人達にあそこまで気に入られたのだ。
協力関係を飛び越えて婚約を関係を結ぶなど……。
獣人は他種族に強い警戒心を持つ。
神獣ともなれば、尚更だ。
人の感情をより強く感じ取ることが出来るため、人を気に入ることなど無いだろう……そう思われていた。
彼の功績は他の人間には真似できないであろう偉業だった。
そんな奇跡みたいな状況をたかだか『魔力がない』だけで彼を捨てるベルクニフ家の考え方は問題でしかない。
あの次男坊ではシャルナール殿の機嫌を飼い慣らすことなどできるわけがない。
あれは傲慢すぎる。
リュート殿を連れ戻すという、1番可能性のある提案をしてみるが、断固拒否される。
名家としてのプライドが許さないのだろう。
何がプライド、名家が聞いて呆れる。
一度この縁を手放せば、神獣様と王家の関係を再構築することは至難だろう。
そしてその綱は、ルイズ殿ではなくリュート殿が握っている。
彼を追えば、シャルナール様に辿り着くのは、ガルシア家の方針からすぐに察せた。
この途切れそうな糸をなんとか繋ぎ合わせるために、リュート・ベルクニフの目撃情報のあった場所へ赴くこととなる。
そこは辺境の地に佇む場末のギルドだった。
追いかける理由はシャルナール様との関係の再起だけではない。
シャルナール様とリュート殿との関係をなんとか断ち切らなければいけない。
王族派……どころか貴族ですらない彼に、あの神獣様が、それも一族ぐるみでご執心というこの状況。
今や平民に堕ちた彼が、持っていていい力ではないのだ。
いっそのこと彼を王家の騎士なりなんなりに召し上げるか?という提案もされたが、そんな横暴を取れば、貴族派達の良い的になる。
それは最後の奥の手だ。
だからこそ、なんとかシャルナール様とルイズ殿の関係を結ばせる必要がある。
幸いにも彼は、拘りも強くなく、温厚な性格と聞く。
丁重に頼み込めば、きっと彼も快く我々の提案を聞き入れてくれるだろう。
彼の言葉なら、ガルシア家達の方々もまだ耳を貸してくれるかもしれない。
我々『聖騎士』は、その希望にかけて行動に移していたのだが……
蓋を開けてみれば、状況は最悪なものとなっていた。
ベルクニフ家の次男は魔力が枯渇している。
そして、本人の性格は争いを避ける平和主義者……悪く言ってしまえば臆病な性格。
故に、少し脅せば恐怖に屈すると……そんな甘い考えを持っていた。
まさかこんな状況になるなんて思いもしなかった。
ルイズ殿は我々が思っていたよりも感情的で、リュート殿が現れた瞬間、我々を無視して物事を突き進めていった。
そんな自分の弟に対し、リュート殿は火に油を注ぐが如く挑発し続ける。
魔力の無い人間がなぜああも無謀なことができるのか我々には理解できなかった。
勢いのまま行われた決闘。
中身はあれでも、ルイズ殿の魔法はベルクニフ家としてふさわしいものだ。強力な魔力とを宿し、技術も卓越している。
きっとリュート殿らはただでは済まない。
止められないならせめて、棄権してもらうしかない。
リュート殿はなぜかガルシア家総出で気に入られてる。彼の身に何かあれば、それこそ関係の構築は不可能となるだろう。
「我々はシャルナール様を迎えに参った者です。シャルナール様には是非、ルイズ殿と一緒になっていただく。その為にもどうかご協力願いたいのです。……拒否するというのであれば……その先はご想像にお任せします。どうかご懸命な判断を、リュート殿」
大怪我を負う前に、棄権をしてほしい。
その真意はこんな言い方で伝わるとは思わない。真意など伝わらなくて良い。脅しに屈して逃げてくれればそれで……
そう願っていたのだが……事体は思いもよらないものとなる。
「くそがぁっ!!来るな!来るなぁ!」
そう喚きながらルイズ殿が炎を放つ。雑なように見えて、それはかなりの魔力が込められた密度の高い炎だ。
その辺の魔法士なら防ぐこともできず灰と化すだろう。
「おいおい〜。久しぶりに会えたんだ〜。再会のハグでもしようぜ〜」
だが、なぜかその炎を受けてもなお平然としているリュート殿。
傷どころか服に焦げ跡すらついていない。
何が起こっているのか私には理解が出来なかった。
魔力は感じない。魔法を行使する際に起こる反応も見られない。
その後も突然奇声をあげたり、真剣な顔になったり……この男の人間性が全く掴めない。
訳がわからない。
そのまま何度も炎が彼を襲うが、変わらず無傷。
その光景がルイズ殿の激情をさらに加速させ、ついには神獣様への侮辱の言葉すら吐き出す。
この決闘が終わった後、彼には強い教育が必要だ。
我々と同じように、彼の瞳にも怒りが宿っているのがわかる。
それをトリガーに、彼は信じがたいものを呼び寄せた。
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