初めての討伐クエスト①
「今日は何卒、よろしくおねぇぁっしゃぁあっっす!」
「リュート、ちょっと声大きい」
「兄さん、もうちょっと静かにして?」
「……さーせん」
獣人のシャルと、半狼モードのルウ。
聴覚が鋭い人が2人いるのに、近くで大声を出しすぎた。失敬失敬。
自分でも思ったより興奮してしまっているようだ。気をつけなければ。
「ははは、君は今日も元気だね。元気すぎるほどだ」
「さーせん……」
皮肉を言われてしまった。ダウナーの耳にもシゲキックスだったみたいだ。
……マギアさん、皮肉屋なキャラ、すっげえ似合うな。もっと皮肉言って欲しいかも。
さて本日はですね、このメンバーで、わたくし初の討伐クエストを行いたいと思いますわよ。
すでに、指定モンスターの目撃情報があった草原へお邪魔させていただいておりますわ。
………正直言って全然乗り気じゃない。
仮に魔法が使えたとしても、俺はこんなこと全然したくない。
前世の『日本』という安心安全に浸された俺の価値観では冒険なんて全くそそられない。
転生もののアニメで、よく、ファンタジーの世界だから冒険者とかになって、魔法バトル繰り広げたり、モンスターと戦ったらしていたけど、俺にはあれが理解できない。
『かっこいい武器や技をゲットしたから、冒険へレッツゴー』なんていう思考だったら……前世の時点で、田舎とかで狩猟の資格でもとって、銃を持って熊とかいうバケモンにバトルを挑んでるんだよなぁ。
残念ながら、俺はそんなマタギメンタルは持ってない。
普通に恐怖が勝る。
でもまぁ、行かなきゃいけないのなら、重たい腰を上げるくらいの勇気はある。
ことの経緯としましては、ルウが『討伐クエストを受けてみたい。自分が今、どれほどの力を持ってるのか確認したい』とのことで……
確かに自分の力を把握しておくことは大切だなぁ、と納得した。
力を自覚して、加減を覚えてもらえるのは俺にとってもありがたい
だが1人で行かせるわけにもいかない。さりとて、俺みたいなクソ雑魚が一匹ついていったところで、当然役に立たない……むしろ足手纏いになる可能性がでかい。
そこで俺は、急遽、頼れる仲間たちを招集。
スマートな土下座で頼み込み、なんとか承諾していただいた。
一応この人選にも理由がある。
呪いの professional であるマギアさん。
呪いをいつでも抑えられる神獣、ことシャルナールさん。
この2人がいれば、万が一ルウに何かあってもなんとかしてくれるだろうという、THE 人任せな思考から選抜させていただいた。
本当は俺はお留守番しようかと思ったが……流石に無責任すぎると思い、足手纏いになったら申し訳ないが、それでも一応ついて行くことにした。
朝にギルドで集合し、皆さんの紹介をする。
初めこそ畏まっていたルウだが、2人に対し気軽に話しかけてる俺の姿を見て、それなりには緊張を解いてくれたみたいだ。
コミュ力つよつよで羨ましいね。
そして良さげなクエストを見繕ってもらって受注する。
もちろん俺は難易度の感覚などわからないので、その辺は皆さんにお任せした。
その時に初めて知ったのだが、なんとなんと、シャルもマギアさんもギルドの登録は済んでいたらしい。
実にスムーズにクエストへ赴くことができた。
頼むぜぇ、みんなぁ!信じてるからなぁ!
いざとなったら肉盾くらいにはなれるように努力します。自分!再生能力だけはあるんで….!
○●○●
「中々出てこないね。こんなに見晴らしいいのに」
「風が強くて、匂いもわかんない」
草原を探索しながら周りを見渡す。感覚の鋭い獣コンビは耳をぴくぴくさせながら鼻をすんすんさせている。……可愛いな。
今日の目標は鷲獅子さんです。
推奨等級は6、と中々高めです。
因みにギルドが設定している等級は1〜10の十段階です。最高ランクの10になると、世界で十本の指に入る実力になるそうです。つまり今の所、ランク10のハンターは、世界で10人だけらしいです。すごいね。
ということで、ランク6のクエストは、初陣にしては難易度高めだが、このお2人さんの等級は7とか8なので、まぁまぁ余裕があるそうです。すごいね。
ちな、ボクちんのランクは2です。
………ど?可愛いっしょ?
ルウはもちろん、年齢も経験値もまだまだなので1です。
でも多分俺より全然強いです。
なので、まぁ実力的には問題ないけど……死なないように無理はしないでね、ということらしい。
やばかったら、みんなを連れてすぐ、にーげよ。
歩き回って少し時間が経ち始めた頃、俺は今更なことに気づく。
「っていうか、空飛んでたら見つけられなくね?」
そんなことはとっくに理解した上で、マギアさんはきちんとその問いにも答えてくれる。
「グリフォンはプライドが高い。ここら一体は既に彼らの縄張りだ。こうやって複数人でズカズカ歩き回ってれば–––
その瞬間、甲高い雄叫びのような声が上がり、地面を影が横切る。
–––ほーら、お出ましだ」
マギアさんは、上空を眺めならつぶやいた。
その視線の先、はるか上空には混合の獣の姿。
猛禽類の獰猛な爪、獅子の身体、尖った嘴、こちらを逃すまいと見下す鋭い視線。
前世で、物語に登場していた、幻想の生物が……今、視界の先で高々とこちらを睨みつけていた。
「オラァ!グリフォンがなんぼのもんじゃい!こちとらつよつよメンバー拵えてきてんだよ!皆さんやっちゃってくださぁい!」
降りてこないので、とりあえず挑発…もとい喧嘩を売ってみた。
「に、兄さん……」
ルウから憐れみの目を向けられる。なんかごめん。
「はは、君は随分と虎の威を借りるのが上手なようだ」
マギアさんの皮肉、早速いただきました。うーん、delicious 。
「リュート、守る!」
シャルさんは、ふんふん!とやる気を漲らせてる。シャルさんって結構ママみ強いよね?オギャってもええか?
……あれ?グリフォンさん、いなくなったんだが?え?今の一瞬で見失っ––––
「兄さん!避けて!」
「おぎゃぁっ?!」
ルウの叫び声が聞こえた瞬間、視界一気にブレ、体に衝撃が加わる。
そのせいで変な声が喉から捻り出された。
「リュート、大丈夫?」
「シャルさぁん」
俺はいつの間にかシャルにお姫様抱っこされていた。
図らず、俺はシャルさんにオギャっていた。いや、声だけで、だけどね?
先程まで俺がいた場所を、グリフォンが高速で横切ったようだ。
そのまま上空へ登ってゆくのが見える。
狩りの仕方は猛禽類なんですねぇ……
「シャルさん!ありがとうございまぁす!」
とりあえず感謝の気持ちを伝えておく。ちゃんと小声で。
だが、またグリフォンがこちらへ急降下してくる。
それを察知したシャルが俺を抱き抱えたまま動き出す。
「舌噛むから口閉じてて!」
「んぁぁい!」
地面と景色が高速で後ろへ過ぎ去ってゆく。
後ろを見ると低空飛行でこちらを追いかけてくるグリフォン
シャルさんはっえぇ。
俺のために強くなった的なこと言ってたなぁ……
……っていうか、なんで俺ばっか狙われてんの?雑魚から削っていく戦法ってこと?
「させないっっっ!」
声と共に、小さい影が、グリフォンの前に立ちはだかる。
衝撃音と共に土煙が巻き起こる。
その音と共にシャルの動きも止まる。
俺はゆっくり降ろしてもらって、その先を凝視する。
煙が晴れた先にあったのは……
「んぐぐぐっ……ぁぁぁああっ!」
……ルウがグリフォンを正面から受け止めてる姿だった。
……え?えっとぉ……確か、運動量って、速度×質量だよね?
近くで見て分かったが、グリフォンはどう見ても前世のライオンだとか虎よりも一回りでかい。
ライオンさんとかが体重200キロくらいあるから…それよりも大きい質量が、鷲並みの速度でぶつかってきて、それを、まだ10歳のルウさんが受け止めている……と。
はにゃぁ??
「人狼くん、そのまま少し抑えておきなさい」
俺が混乱している中、マギアさんは既に次の手を仕掛けている。
キセルから吸い上げた怪しい紫の煙を地面に吹きかける。
すると、土が腐りだし、木の幹が盛り上がってゆく。ヘドロのような土を含ませたまま、その樹木はグリフォンの体に絡みつき、縛り上げる。
『キィィィィァアア』
鷲のような甲高い声が響き渡る。グリフォンは抵抗を見せる。
その獰猛な姿にたじろいてると、隣にいたシャルが駆け出す。
「これでとどめ–––
だがそう上手くは行かない。
シャルの爪が届く前に、グリフォンは獅子の膂力を発揮し拘束を振り解く。
「っ?!」
グリフォンはまた上空へ飛び立ち、振り出しに戻ってしまった。
「ルウ、大丈夫かっ?!」
「んっ、平気」
グリフォンが拘束を振り解いた際、振り撒かれたヘドロがルウに飛び散っていた。
顔についたそれを拭き取りながらグリフォンを睨め付けている。
さて、どう攻略したものか……
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