吸血鬼さんとの約束デート②
日が落ち始め、赤い黄金色と青紫のグラデーションが空を覆う。今まさに、光から闇の時間へと様変わりしている真っ最中だ。
異世界は空気が綺麗で、この時間帯でもちらほら星が輝き始める。17年いても、こういった幻想的な光景には、いまだに目を奪われる。
まるで絵を飾る額縁のように、視界の隅には木々の葉がチラついてくる。
森の中。ここは俺と彼女が初めて会った場所だ。
「リュート…お、お待たせ…」
背後から、我が愛しの主人の気配と声。美しい声の方へ振り向く。
「こんばんは、ラミアさ–––ぎゃぴぃっ?!」
「えぇっ?!だ、大丈夫?!」
彼女姿を見た瞬間、俺は奇声と共に涙を流しながら膝から崩れ落ちた。
い、生きててよかった。
素直にそう思った。
そこには、この世のものとは思えないほどの美貌を持つ女性の姿があった。
この世に舞い降りた天使が……いや悪魔だ。この美貌、色香、甘い声……まさに『ラミアー』だ。
いつもの装飾が多くついたフリフリのゴスロリチックな衣装とは違う。ワンピースのような、装飾の少ない上品な黒いドレスを着ていた。
そのシンプルで質素な格好が、彼女の妖艶さをより一層際立たせている。
う、美しい。美しすぎる。
夕焼けの黄金色の光が、彼女の金の髪にあたり、美しく光を反射させている。その後ろには青紫の夜色。
相反する色合いが彼女を幻想的な姿へと模ってゆく。
少し強い風が吹き、彼女のキラキラとした髪を揺らす。前髪が乱れ、その隙間から綺麗な黄金の瞳がこちらを覗く。
乱れる髪を軽く押さえつけるその何気ない仕草一つが絵画のようだ。
『○○よりも君のほうが綺麗だ』なんていう常套句が素で浮かんできてしまうくらいには、俺は彼女の美貌の虜にされていた。
「……失敬。お恥ずかしいところをお見せしました」
心を落ち着かせ、立ち上がる。
「きょ、今日は一段と変だね?」
「変な俺はお嫌いですか?」
「………す、好き。リュートなら……どんなのでも好き」
……せめて俺が俺たらしめている部分が残った上で、好きでい続けてほしいところではある。
俺が変わらなければいい話か。
自分を強く持って生きようと心に強く刻んだ。
「は、ははは。ありがとうございます。では早速、お手をどうぞ」
「あ、う、うん。よろしく…ね?」
彼女の白く綺麗な手が俺の上へそっと置かれる。
やーん。お肌すべすべ〜もちもち〜。どこの保湿クリーム使ってるんですか〜?
おっといけない。あまりのモチ肌に、俺の中のギャル(?)が覚醒してしまったようだ。
そのまま、とある場所へ彼女をエスコートし始める。もちろん、その間のおしゃべりに花を咲かすことも忘れずに。
「そういえば、最近よく俺の元へ駆けつけてくれますけど…その、色々大丈夫ですか?」
人の多いところは苦手なはずなんだけどなぁ。我慢して駆けつけてくれてるってことなのかな?だとしたらやっべっぞっ。
そろそろ恩を返しきれなくなるぞ。
「あ、うん。あれね。本当はね、吸血鬼は自分で五感を調整できるんだよね。でも…私あまんまり外に出なかったから。その…そういうのが発達してなくて……でも最近リュートに会いに行くことが多くなかったら、できるようになったんだ」
「ほう……なるほど」
つまり……俺の『吸血鬼は五感が鋭いから人混みや栄えてるところは苦手』っていう予測って、普通に外れてたってことぉ…?
ラミアさんが例外だっただけで……あ、あんなにキメキメで推理したのに、めっちゃ外してたってことかぁ……
「な、なんか俺…吸血鬼さんはみんな騒がしいところが苦手って…勘違いしてたみたいっすね……はは」
は、恥ずかしいぃいいいい。
「ううん。それでも、色々考えてくれてて、私は嬉しかった……よ?」
コテン、と首を掲げ、こちらを下から伺うように見つめてくる。前髪に隙間ができ、綺麗な瞳が、片目だけ露わになる。
ファーーーーーーーーーーーーー(浄化の音〜)
おっといけない、天に召されるところだった。気をしっかり保て、俺。まだ始まったばかりだ。
「俺の為に、ありがとうございます」
俺の為、などというのは少し自意識過剰すぎるかもしれないが、是非そういうことにしておきたいので、そう言っておく。
「んーん。…こ、こっちこそごめんね?お昼は仕事してるのに……私のために夜に合わせてもらって…」
「全然大丈夫ですよ!この日のために今日は休みにしてあるんで!あ、明日も休みなんでいつまででも大丈夫ですよ!気兼ねなくゆっくり過ごしましょう!」
申し訳ないが、ルウは今日もリンカさんのところへ預けさせてもらった。
「これでもちゃんと、余裕を持って生活をしているんでね!ラミアさんが気にすることなんて一つもないですよ!それに、ラミアさんとのデートよりも大事なことなんて、そうそうないですからね!こんな綺麗な人の隣を歩けて俺は鼻が高いですよ!」
心配をかければそれだけでデートの楽しみは半減する。気を遣わせるわけにはいかない。
「………」
ジトーっと見つめられる。
目が髪で隠れててもわかるほどの強い視線を感じる。
「……な、なんでしょう?」
なんかまずいこと言っちゃったかな?
「う、嘘だよね?完璧じゃないけど…それでも一応、リュートは私の眷属なんだよ?…感情とか、ほんのりわかっちゃうんだよ?嘘、ついてるよね?」
「えぇ?!そんな便利機能が?!」
あ、でもなんか言ってたな。俺の考えることが大体わかるようになる、とか。
だけど今はまだ、『ほんのり』しかわからないらしいからね。そこを突かせてもらいましょう。
「……でも、何が嘘かはわからないでしょ?」
「へ?え、あ、た、確かに……ど、どれ?どれが嘘なの?!」
「ふふふ、当ててみて下さいよ〜主様〜?」
「ず、ずるいずるい!ねぇ、教えて!」
「これでも、ミステリアスな男で売ってるんでね…そんな簡単に胸の内を曝け出すわけにはいかないんですよ」
その言葉に彼女の頬が膨らむ。その表情で、いじけてることを訴えてくる。
「悪いんだ〜。悪い僕さんなんだ〜」
『ブーブー!』と、俺の隣で不満を垂れる、麗しきご主人様。俺の胸をその綺麗な指で突いてくる。
な、なんかあれだね?可愛いね?もっといじりたくなっちゃうね?俺の中のいけない何かが、いけないことをさせようとしちゃうね?
実に楽しい。そして実に癒される。
彼女との楽しいおしゃべりをしながら、木々の隙間を抜けていくと、視界が開けてくる。
「まぁまぁ……あ、ほら着きましたよ。見てください」
「むぅ……なんか、誤魔化された気がする」
そう言いながら彼女は俺が手で示す方へ、目を向ける。
その瞬間、不貞腐れた彼女の表情は一変する。
「わぁぁ、す、すごいね?すっごく綺麗」
目をキラキラと輝かせながら、その光景に釘付けだった。
「足元、気をつけてくださいね」
彼女の手を引き、広いところまで案内する。
そこには大きな湖が広がっていた。
夜空に浮かぶ、月を中心とした星屑の数々が、あたり一面に広がる水面に映し出され、幻想的な景色を視界いっぱいに広げていた。
俺が今日、森の中でひたすら探し回ってやっと特定できた場所。
ガゼンさん達に教えてもらったこの湖。そういった場所がある、という曖昧な情報をもとになんとか見つけ出した。
まだあまり知られてない……というか普通に魔物が出る場所なので、本来はデートスポットなんかにできない場所だが、ラミアさんが一緒なら、そんじょそこらの魔物は怯えて出てこない。
ゆっくりと過ごすことができるだろう。
今日のデートプランは『2人でこの綺麗な景色を楽しみながら過ごす』という至極シンプルなものだった。
色々考えたが、これが1番いいだろう。この世界に夜景なんてないし。最近忙しくてあんまり会えなかったし。ラミアさんもあまり人目には着きたくなさそうだし。
目の前の景色に未だ夢中な彼女。
何も口にせず、ただただ目の前の景色に釘付けだった。
そこまで見入ってもらえるとは、連れてきた甲斐があるというものだ。
そしてまた彼女は呟く。今度はこちらへ顔を向けながら。
「すっごく綺麗。ありがとう、リュート」
……だけど、自分で連れてきておいて、なんだけど……俺はその景色よりも––––
水面に反射する星と月の光に照らされた彼女のその横顔。神秘的に映る、綺麗な横顔。
それらに見惚れてしまう。
心の底から、本当に思う。
––––貴女のほうが綺麗だ」
気付いたら、そう、口にしていた。
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