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吸血鬼さんとの約束デート①(むしろご褒美っぽい)


「ハァ、ハァ、ッ。なんで……なんでこんなことに…ッ!」

そこは深い深い森の奥。木々が生い茂り、遠くから響く何かの鳴き声と、自然が織りなす草木の雑音が混ざり合い、不気味な合唱を奏でている。

時間はすでに逢魔が時を過ぎており、日の光は当に途絶えている。


暗闇は森の中をより一層怪しくさせる。闇の向こうから、今にも魑魅魍魎の類が溢れ出しそうだ。


暗闇の世界。障害物の多い森。

ここはもう既に、彼女にとっての絶好の狩場だ。


カサカサ、という衣擦れや草木が掠れる音……何かが周りで蠢く音が響き、俺の耳はそれを敏感に感じとる。

「っ?!もう見つかったのか?!ハァ、ハァ、どこだ…?!どこから来る?!」


なんでこんな時間にこんな場所でこんな事をしているのだろう?なんて事を考えてはいけない。

これは俺のやらなければいけない使命なのだ。恩返しであり、約束だ。そして何より、今日という日を楽しみにしてくれていた彼女の期待を裏切らないためにも、俺は手を抜くわけには行かな–––––



「のわぁっ?!」

突如、背後から衝撃が襲いかかる。

そのせいで俺の口から奇声が飛び出てしまう。


彼女の怪力に逆らえることができずそのまま倒れ込む。



「みぃ〜つけぇたぁ」

妖艶な声が、耳に絡みつく。


俺の上に覆い被さる彼女。

その瞳は赤く煌々と輝いており、獰猛な牙を見せつけてくる。


「ハッ、ハッ、ハッ。ひっ…ひぇぇ」

「その怯えた表情(かお)とっても良い。すっっっごく唆る。ふふ、いただきます」

そう言い、彼女は俺の首筋へ、その艶かしい舌を這わせながら鋭い牙を食い込ませてゆく。


「ちょっ、ラミアさん、そろそろ本当にやば–––あ゜ッ」

本日、何度目かの痛みの混ざった快楽が、俺の脳を侵食していった。



まさか、彼女とのデートがこんなことになるなんて……




○●○●




夢の世界から帰還した(ついでに世界を救っておいた)俺は、マギアさんとこれからの方針を話し合った。

といっても、俺にできることなど殆どないので、ほぼ任せっぱなしになるわけだが。



あの夢の世界の名前は『ユートピア』にしておいた。安直だが、わかりやすいほうがいいだろう。

そして『ユートピア』を広める為に、マギアさんが知人などを当たってくれるらしい。


『これでも長生きしているんだ。それなりに人脈はあるさ。まずはそこから当たってみるとしよう』とのことだ。

不甲斐ない俺は、『何もできなくてさーせん。何から何までさーせん』と謝っておいた。

すると、『そういう契約内容なんだから、君が気にすることはないよ』と慈悲深いお言葉をいただいた。

やっぱりこのお姉さん素敵だなぁっと思った。



料金形態とかも、素人の俺が口を出せることなどない。

とりあえず、契約では基本、売り上げの1割が俺の元へ入ってくることになっている。


今はまだ街5つ分ほどの範囲。

ただ、これは協力してくれる夢魔さんの数や、魔法陣を広げることでさらに広域になってゆく。とりあえず、国全土に普及させることが目標だ。

できれば外国にも普及させたい。


そうすれば利用者も増えるし……と言うか広くないとあまり意味がない。

1番の売りは『離れている相手ともコミュニケーションが取れる』ことだと思うからね。


とりあえずは、ユートピアの存在と共に、その魔法の範囲も一緒に広めてくゆくのが、今後の方針となる。


そんなところで、一旦話は落ち着いた。




ギルドへ戻り、リンカさんに預かってもらっていたルウを迎えに行く。

まだ子供なので、宿に1人というのは少し不用心だと思い、リンカさんを頼ったのだ。


「ルウ〜。ちゃんといい子にしてたかー?」

「あら、リュートくんお帰りなさい。もう用事は済んだんですか?」

「あぁ、リンカさん!すみませんね、迷惑かけちゃって」

「いやいや、ルウちゃんとってもいい子なんで、迷惑だなんて––––––


「ちょっと!」


リンカさんと和やかに会話していると、頬を膨らませたルウが顔を出す。

拗ねているのかな?


「2人とも子供扱いはやめてよ!」

「はいはいそうだね。お前は立派な大人だね」

「もー!、そうっ!いうっ!のっ!」

ポカポカと殴れる。

ははは、強い強い、結構強いからやめてね?腹に響くからね?


まぁ、わかるよ?背伸びしたい年頃なんだよね?俺にもあったあった、そういう年頃。



「リンカさんありがとうございました!もしかしたらまた頼んじゃうかもなんですけど……」

「いいですよー!ふふ、ルウちゃんとっても可愛いから、私も癒されますし」

「良かったなー、ルウ。可愛いってよ!」

「………」

「……ルウ?」

「に!……兄さんは、ボクのこと…可愛いって思う…?」

『に!』の音量バグってない?すんごい大きかったんだけど…その割には、そのあとの声がめっちゃちっさい。

リンカさんは『あらあらまぁまぁ』とニヨニヨとしている。



「何言ってんだよ、可愛いに決まってんだろ」

「んむっ」

そう言い少し硬めのツンツンくりんくりんの長毛ヘアーをわしゃわしゃと撫でてやる。

最初、この質感に懐かしさを感じたのは、きっとじいちゃんとこで飼ってた小太郎と似てるからなんだろうな。

しば犬って犬の中で、狼に遺伝子が1番近いらしいし。


お前は可愛い弟分だよ。


「リュートくんはなかなか隅におけないですねぇ」

「え、えぇ?」

なんか生暖かい目で見守れてるんだが……俺も子供扱いされてるってこと?

まぁ……悪くはないかも?この身体はまだ17歳だしね?



「うぅ!兄さん!もう行こ!」

「あ、おいこら!引っ張るな!すいませんリンカさん!また今度お礼させていただきます!」

「はぁ〜い、お気をつけて〜!」

そう言い、優しく手を振ってくれた。


俺はルウに引かれるまま宿へと帰った。




宿に戻れば、いつも通り食事を摂り、部屋に戻り、狭いベッドの上で2人ひっついて眠る。

「おやすみ、兄さん」

「ん、おやすみ」

その際、ルウは俺の腕を掴み、自分の体をしっかり俺に抱きしめさせるように、俺の手を前へ引き込む。


あの日から、この体勢で眠るのが毎日続いている。まぁ狭いから仕方ない部分はあるが……遠慮がなくなったのか、心の距離が縮まったのか……どちらにせよ、大変いいことだ。



暫くして、ルウの口から寝息が聞こえ始める。

「……スゥ……スゥ……」

寝つきが大変いいんですこの子。


俺はというと、なかなか寝付けずにいた。

ユートピアを試行していた間、意識はあったものの一応、寝ていることには変わり無いみたいだ。


暇なせいで、俺の頭の中で今日のおさらいが勝手に始まる。



今日はクエストには行けなかったが、まぁそれなりに有意義な一日だったように思う。

ただの試行だったのに、マギアさんが連れてくる人選、癖がありすぎだったなぁ。


っていうか、どこで、なにがあって、あんな恐ろしい存在と知り合ったんだろう?年の功ってやつ?

まぁ、とにかく借金返済のためにも、『ユートピア』を早く広めて、利用者増やして……売り上げ、上げ……て………しゃっ………き、…ん……





「………んがっ、」

いつの間にか眠りに落ちていたようだ。

だがそれも、唐突に覚めた。その理由も直感でわかる。

俺はルウを起こさないようにそっとベッドから降りて、視界の先で佇む麗人へと声をかける。


「こんばんは、『我が主(マイロード)』」


「へ、へへ。き、きちゃった」


「…っ、っ、」

思わず、顔に手を当て体を仰け反らせてしまう。


「へ、なになに?どうしたの?大丈夫、リュート?」


聞きましたか?奥さん。『きちゃった』ですって。可愛すぎではあ〜〜りませんか?


ふぅ、主人の前で失態を曝け出し続けるわけにはいかない。もう手遅れとか、そういった正論パンチは受け付けておりません。お控えなさってください。



ちなみに、ルウを起こさないようにずっと小声で会話している。

ラミアさんも気を遣ってくれていて、何ともありがたい。


「大丈夫ですよ。ちょっとあなたの美しさにクラッと来てしまっただけです」

ニコッと微笑む。なかなか紳士風に振る舞えたのでは無いだろうか。


「…え、えへ?…うん。えっとそれでね……?」


ん゛、がわいっっっっっ。

逆に魅了される始末。

ダメでした。僕は一生この人に勝てそうにありません。対戦ありがとうございました。


「こ、この前約束した……」

あーはいはい。あれね、内容を理解せず適当に返事したやつね。


「……デートの件なんだけど……」

デートだったのかぁ………なるほどぉ……

……

……

デ、デデデデデデデ、デートぉ?!??

え?え?え?逆にいいんですか!?俺へのご褒美になっちゃうんじゃないですかそれ!?



「あ、明日とか……空いてる?」


「ラミアさんのためならいつ如何なる時でも空いてまぁす!」


「ほ、ほんと?えへ、よかった。あ、明日のいつもくらいの時間に…リュートのとこに来るね?」


「あ、待ち合わせとかはしないんですか?」


「…?、リュートがそうしたいならそうするけど…?」


ふーん。なるほどね。完全に理解した。(してない)

この世界…というか、吸血鬼にはそういった文化がない、ということかもしれない。

でも、俺の元へ出現するなら、俺が先にどこかでラミアさんを待っておけばいいわけか。

これなら、待ち合わせと言えなくもない…か?



「いえ、大丈夫です!ぜひ俺のところへ来てください!そして期待しててください!あなた様の従順なる(しもべ)である、このリュート・ベルクニフが、必ず至福のひと時を用意してご覧に入れましょう!」


「う、うん。何だかよくわからないけど…楽しみにしてるね?へ、へへへ、ほんとに楽しみ」

『あ、明日ね!明日だからね!』と、小さくはしゃぎながら影の中へ溶けていった。


ん゛っっっ!?がわ゛い゛っっっっ!!(本日2回目)

はぁ〜〜〜〜〜(クソデカため息)

やっぱり俺の主様が世界最強で可愛い件についてだよなぁ、まったく(?)



……こりゃ明日もクエスト無理ですわ。何とかしてデートプランを練らねばならない。


「……んぅ……にい、さん?起きてたの?」

「あ、悪い、ルウ。起こしちゃったか」

とりあえず、今日は寝るか。英気を養おう。


「んーん!」

寝ぼけて甘えん坊モード突入したらしい。

こちらへ手を伸ばし『はやく!』と体の動きで急かしてくる。


……ルウくんや、そんなあざとい抱っこおねだりポーズ、どこで覚えてきたんだい?

おじさんが大変なことになったら、責任取ってくれるのかい?



ルウの駄々っ子モードが限界突破する前に、俺はベッドに入り、またルウとくっついて眠るのだった。


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