人狼くん(?)のお迎え①(呪われてたっぽい)
四肢で地面を蹴り、闇世の中を必死に駆ける。
ごめんなさい。ごめんなさいお兄さん。
目から落ちる涙が、風景と共に後ろへと過ぎ去ってゆく。あの温もりから、どんどん遠ざかってゆく。
もう自分に、あの場所へ戻る資格はないのだ。
そして、あの人ももう……
ごめんなさい。こんなに意地汚くて、心が弱くて、謝ることすら出来なくて、あんなことをしておいて恐怖に呑まれ逃げてしまって、ごめんな––––
悪寒。
あまりにも強烈なそれに、身体が急激にブレーキさせる。
『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、』
前方には何もいない。
だが、『それに近づくな』と本能がとんでもなく警報を鳴らしている。身体の全てが今すぐ逃げろと騒いでる。だけど恐怖で足が竦んで動かない。
相反する身体の反応に、どうしようもな苦しめられる。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
それはゆっくり、闇の中から這い出て来た。
恐怖と妖艶の気配を纏い、怪しい笑みを浮かべながら姿を現す。
『ガァッ?!』
いっっ?!痛い痛い痛い痛いぃぃぃい!
視界に入れた。それだけで頭の中にとんでもない刺激が暴れ回る。快楽と苦痛が同時に弾け飛び、視覚が朦朧としてきた。
「うーん、私の印がついているにも関わらず手を出すなんてどんな奴かと思ったけど……その程度、か。やっぱり3割じゃうまく機能しないのかなぁ?はぁ、リュートはこんなのの何処が気に入ったんだろ……違うか……リュートはそんなので判断しないよね、フフ」
リュート
聞きたかった名前。聞きたくなかった名前。
まだ生きてる……?
そう希望を抱く。だけど……
もう、ボクには関係ないか。
その希望に縋る資格など、自分にはない。
あんなことをしておいて、一体どの面下げて戻れるというのか。
でもせめて、生きているなら、生きていると信じれるのなら……少しだけ救われる。
「ま、どっちにしろ、初めてのリュートからの頼み事だし……しっかりとこなさなくちゃ」
その瞬間、身体の動きが制限される。
『ッ?!』
動けない。体を拘束されている。闇から伸びた楔が身体を絡め取り、雁字搦めにしている。
いつの間に?!わからない。格が違いすぎる。
あぁ……ボク、ここで死ぬんだ。
そうだよね、きっとこれは天罰だ。
全てを諦め、死を覚悟する。
『もっと長く生きたかった』なんて後悔するのは烏滸がましい。ここで死ぬのが、自分の運命だったのだろう。今から訪れる死を『やっと解放される』という救いとして受け入れることで、恐怖を誤魔化す。納得したフリをしようとする……
(これからだと思ったのに)
やめろ考えるな。
(やっと、暖かい人に出会えたのに)
違う、ここで終わるのが正解なんだ。
(……本当は……本当はもっと、)
やめて!
せめて……せめて最後くらいは、自分を肯定させて……
だけど、そんな覚悟を吹き飛ばすように、遠くから声が届いてくる。
「おらぁぁぁああああ!クソガキィィイイイ!」
その声は、ボクの心にこべりつく罪悪感も、今の恐怖も、全部……全部全部拭い去ってくれた。
あ、あぁ……また、また助けてくれるの?
こんな、こんなボクにまた手を……
「はぁ、はぁ、やっと追いついた……いっつも勝手に1人で突き進みやがって……」
……差し伸べてくれるの?
「今日は説教だからな!ルウ!」
その人は、ボクの心を、ボクを、また救いにやってきてくれた。
○●○●
「リュート!こんな感じでどう?」
ぜぇぜぇ、と息を切らしていると、ラミアさんが声をかけてくる。
ドヤ!と言わんばかりに、その成果へと視線を誘導するように手を伸ばしている。
おぉ、すげぇ。
なんかわかんないけどすげぇ。
確認してみると、黒い鎖が、巨大な狼となったルウの体を縛り付けていた。
『ぅうううう』
身動きの取れないルウは、唸っているばかりだ。今更俺の前で、獣の『ふり』などしないだろう。
もしかしたら、あの姿の間は人の言葉が喋れないのかも。口の形とか全然違うもんね。発声器官が違うなら人の言葉を喋れなくても仕方ないのかも。
というかそもそも、理性がなくなってるかも、とのこのらしいし。
とりあえず俺はラミアさんに感謝を伝えることにした。
「ありがとうございます!めっちゃ助かりました!」
「へへ、よかった。それじゃあ……ん!」
トテトテと近づいてきた彼女は、おもむろに旋毛をぐいっとこちらへ向けてくる。
俺と彼女はそれなりに身長差があるため、ここまで近づくと彼女の顔は角度的に見えなくなってしまう。
「……?えっと?」
「……白猫の時、褒めてた…でしょ?」
…なるほどね?シャルと同じようにしてほしい、と。
いや待ってほしい。
え?か、可愛いね?どうしちゃったのかな?
「……私、役に立てなかった?」
吸血鬼としての能力を発揮した後だからか、彼女の瞳は赤く煌々と光っている。
その綺麗な瞳で、上目遣いされる。ウルウルとした瞳、真祖の吸血鬼として振る舞ってる時とは想像もつかない、子供のような甘くあざとい表情。
「いやいやいや、そんなことないですよ。流石俺の主様って感じで。チョベリグッ!です!」
「んっ。へへへ」
俺の体は勝手に動き出しており、すでに彼女の金色の髪を撫で付けていた。
やめてくれ、このままじゃ引き返せなくなる。見た目は綺麗、纏う空気も妖艶。なのに俺に見せるその仕草は、幼子が甘えるような可憐な所作ときたもんだ。
この人、俺のこと堕とそうとしてるのかな?
きっとそうに違いない。
俺は一度ダメになったら、中々人間に戻るのにじ時間がかかってしまうので、堕落するわけにはいかない。ちゃんと自立しなくてはいけないのだ。
おっと、そうだ。
こんな状態なのだからゆっくりしてられないな。人に見られたら大変だ。ルウが魔物と間違えられたりなんかしたら、とんでもないことになる。
「あっ」
名残惜しそうな顔をする彼女を置いて、ルウの前まで移動する。
そんな顔をしないでいただきたい。どんどん甘やかしてしまうじゃないか。
本題に入る前にまずは聞かなきゃいけないことがある。
「……俺が誰かわかるな?」
こんなことを聞くのには理由がある。
今の俺の姿はいつもと違う。言うなれば…狼の獣人のような外見になっているのだ。
–––––– • • • • ルウを追いかける前、俺の身体は、再生が終わった直後、突然獣人のような姿となった。身体が体毛に包まれ、顔の形も、体の形も変わった。
どういう事だと困惑していた俺に、ラミアさんが答えを出してくれた。
「首元見せて?」
「へ?あ、はい」
彼女が見ているのは、ラミアさんの印が付いている方とは逆側だ。
「やっぱり……これは人狼の『呪印』だね。移されちゃったみたいだね」
「へぇ?!つまり俺も人狼……ってこと?」
なんか、かっこよくていいかもしれない。
「もちろん、リュートには私の印もあるし、『聖痕』もある。だから完全、とは言えないんだけど。でも、人狼の呪印ってちょっと厄介でね……満月の夜しか発動しない代わりに、中々に強力で、しつこくこべりつく呪いになってるの」
そんな、洗剤のCMで出てくる汚れみたいに言わないでいただきたい。
曰く、それは獣人と違い、呪いによって姿が変えられるものであると。
制御もできず、強制的に身体を変えられてしまう。そして理性も無くなる。
強制的に凶暴な獣へと変身させられるのだ。
しかも、満月の夜以外は普通の人間。
人狼だとバレれば、周りからどういう扱いを受けるか……想像に容易い。
「なるほど……」
満月、狼、噛まれることによる感染。
ルウは人狼だった。
そして、そんな彼に噛まれ、呪いを移された俺もまた、少しだけ人狼になってしまったというわけだ。
–––––– • • • •まぁだからなんだという話である!仕方ない部分があるとは言え、それでお咎めなしは許されない!お前には俺と一緒に、部屋の修理費の負債を背負ってもらいます。
……だけど、今喋れないもんね?さっきの質問に対しても反応は無いし……
そもそも言葉を理解してくれているのか……その辺が頭からすっぽ抜けてたな。
その場合、俺は無駄に叫んでたバカになってしまうな。なんか、ちっちゃい犬がおっきい犬に吠えるアレみたいで情けねえな。
へへ、かっこわり。
とりあえず、朝まで待つしかないのか?こんな道のど真ん中は目立ちすぎるからなぁ……かと言ってこんな巨大を部屋に押し込めるのもかわいそうだし……どうしようか。
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