●●●●との日々②(借金増えたっぽい)
本日のクエスも終わり、俺たちはいつものように、宿の一階でやっている安い食堂に来ていた。
「今日もお疲れー!いいだきまぁす!」
仕事終わり、腹ペコの状態で欲望のままに飯をかきこむ!この時が1番生を実感するね!
「お、お疲れ様……あのさ、いつも言おうと思ってたんだけど……」
「どした?」
「いつもボクばっかり、い、良いのかなって」
ルウと俺は別の品を頼んでいる。
ルウのは1番高いやつ、それを大盛り。対して俺は1番安いやつだ。
「子供のうちはな、大人に金出させて、いいもん食うもんなの。そんなの気にしてたらダメなの。たらふく食って大きくなって、良い男になりな!」
「う、うん。…ありがとう」
『へへっ』と笑う顔が眩しいね。やはり誰かと摂る食事は良いものだ
『でも、お、おとこ、かぁ……』と何やらゴニョゴニョ言い始めた。
うーん。何がそんなに引っ掛かるんだろうか?
………ま、いっか!
俺は今!この時間だけは!飯を食うためだけに生きてるからな!ちっせぇことなんて気にしてらんねぇ!今の俺は止まらねぇ!止めらんねぇんだよぉおおお!
「ぐァつぐァつぐァつ!」
「お兄さん……もう少し静かに食べたら?」
「………失礼しました」
「ふふっ、変なのー」
まさかルウに気品を指摘される日が来ようとは…いや、ルウはわざとあんな振る舞いをしていたのだから……素だと俺のがダメダメってこと?
俺、これでも公爵家の出だよ?それなりの作法は叩き込まれたはず……そういえば、俺、出来損ないって言われてました。
それから俺たちは食事を終え、部屋へと戻り、眠りにつく。
「どうした?ルウ、早くこいよ」
「え、えっと……」
「おいおい、まだ恥ずかしいのか?仕方ないだろ〜このちっこいベッドひとつしかないんだからさ〜。2人で引っ付いて縮こまって寝ようぜ〜」
最初は俺が椅子で寝てたが、ルウが気を遣ってくれて一緒に寝ようと提案してくれた。
男同士ならまぁ良いかと思い、一緒に寝るようになったわけだが……
「だ、だってぇ」
何故だか、提案して来た張本人が、数日ぽっちで根を上げ始めた。
「流石にもう良いじゃん?寝食を共にして絆を深めていこうじゃまいか」
「う、うぅぅ、だ、だってお兄さん変な匂いするし……さ、触り方もなんかいやらしいし」
「……え"っ、臭い上にセクハラ親父ってこと…?!」
「あ、いや!臭いってわけじゃなくて…むしろ……」
「……俺が床で寝ます。臭くてすみません…気持ち悪くてすみません…生きててすみません…」
どうやら俺を抱きしめてくれるのは俺だけらしい。
深い心の傷と共に、自分で自分を抱きしめながら床で寝ることにした。
「わぁぁ!違う違う違う!さ、さっきの嘘!冗談!いつものお兄さんのよくわかんない冗談の真似!だから大丈夫!い、ぃぃ、一緒に寝るから!」
「………ふふっ」
俺はニコッと笑いながら彼を見つめる。
気を遣ってくれてるみたいだけど、それ、とどめ刺してるからね?
もう救えないから、せめて人間であるうちに終わらせようとしてくれてる感じ?このままだと俺は悲しいバケモノに成り果てる感じ?せめてもの慈悲ってこと?
まぁ、いいか。とりあえず寝よう。
ルウはあったかいのでこの薄い布団でも暖がよく取れる。なのでついつい抱きしめてしまうんだなぁ。今日も湯たんぽになってもらうとしよう。
彼を、後ろからそっと抱きしめる。
わぁやっぱあったけぇ〜子供体温助かる〜
「んむぅ、……ぅうう」
「寝づらい?」
「……お兄さんが、そ、その気なら……ボクだって…………もう、どうなっても知らないからね」
「……?よくわからんが、まぁお前になら何されても良いかな」
「……すぐそんなこと言う」
「まぁまぁ、明日もクエストがあるんだから早く寝るぞ」
俺はそう言い、そのまま眠りについた。
だが俺はこの時思いもよらなかった。
『どうなっても知らない』が、まさかあんな形で生じようとは……
○●○●
………んがっ、え?なになに?!
あ痛て、いででででででで、なになになになに?!
首の周り全体的に痛みが走り、眠気が吹っ飛ぶ。気持ちの良い睡眠からの目覚めは、最悪なものとなった。
噛まれてるこれ?ラミアさん?!ラミアさんの我慢の限界来ちゃった?
そう思いながら痛みで覚醒した意識を元に、目を開ける。
違った。
そこにいたのは巨大な狼。
この狭い部屋の中では実に窮屈そうだ。そんな獣の口の周りは真っ赤っか。
ポタポタと、毛の先から赤い液体を床へと滴らせている。
……あれ、血か?
暗くてよく見えないが、何やら白い煙のようなものも漂っている。
『ゥゥォオオオオオオオオオオオゥ』
それは、窓の外に映る満月に向かって高らかに吠える。
立派な遠吠え、狼を狼たらしめるその特性。
いや、違う。不思議とわかる。あれはルウだ。何故だかわからないけど、あの狼がルウだということがわかる。
狼の姿のまま、ルウは、修復したばかりの窓を壁ごと破壊し、地を駆けていった。
………は?え?え?まって?え?
スゥーーーッ。ちょっと待って、頭痛くなって来た。首じゃなくて頭が痛くなって来た。
お、お、お、お、お前ぇぇぇぇぇぇえッ?!応急処置とは言え、せっかく直したのにぃぃぃ!?俺の血と汗の努力と借金がぁぁあ!?
「ぁ……がふっ、」
声を出そうとしたがうまく発声できない。喉からは血が溢れ、咳き込む吐血の音しか出ない。
そこでようやく現状に気づく。痛みの発信源である首を認識した。
首が半分抉られている、だから声が出せないのだ。血がダラダラと流れ、生ぬるい感覚が肌を伝う。出血が多すぎて頭がうまく回らない。
首周りが血だらけだ、肩から首の半分あたりまで噛みちぎられて、左手が千切れかけている。
なぜルウがあんな姿に?君も人間じゃなかったのね?言ってくれても良いじゃん。お兄さん悲しくなっちゃうよ?
ていうか壁をぶっ壊したこと許さんぞ。あのまま逃してまるか、あのガキにも責任を負わせる。
混乱が、だんだんと怒りへと塗り替えられてゆく。
「リュート!」
そんな中、いつもの如く神出鬼没な登場をするラミアさん。俺の心配をして、駆けつけてくれたみたいだ。
「ラミア…さん」
声が出る。痛みも引いて来た。
あぁ、そうか、『再生能力』眷属としての特典か。いつの間にかちぎれかけていた腕も繋がりかけていた。
この感じなら問題なさそうだな。
「大丈夫リュート?!こ、こんなに……はぁ、はぁぁ、こんなに新鮮な血が……んっ、ハァ、勿体無いぃ」
……心配して来てくれたんだよね?
「血、飲みます?」
「い、いいの?!」
「その代わり、一つだけお願いしたいことあって……すみませんこんなゲンキンなこと言って」
「……もぅ、何言ってるの?私はリュートのためなら、血なんてなくても力になりたいって思うよ?」
「……っていう割には、って感じですけど?」
あんなキメキメなセリフを言っておきながら、彼女の牙はすでに俺の首に突き刺さっており、しっかりとちゅーちゅー血を吸い上げている。
「んっ、んっ、んっ、ぷはぁ……そ、それとこれとは別でしょ?……リュートの意地悪」
ぷくぅ、とあざとく頬を膨らませるラミアさん。
え、なんですかその拗ねたような顔。バカ可愛いんですが?反則じゃないですか?そんな顔されたら何も言えないんですが?
俺の主が世界最強に可愛い件について。
少し忍びないが、俺はラミアさんに助太刀を頼みこむ。
「……わかった。…けど、その……」
何か煮え切らない。そう言った態度を見せるラミアさん。
「な、何かご都合悪いことがございましたでしょうか……?」
「えっと、その子は…リュートにとっての…なに?」
適当におちゃらけようと思ったが、あまりにも真剣な目がそれを許さなかった。
そ、そんなに気になりますか?別にやましいことはないのですが……
「うーん……家族?みたいなものですかね?」
出会ってまだ日は浅いが、1番しっくりくるのはこれだ。
うん、そうだ。家族を迎えに行くのは保護者の責任だよね。
読んでいただき、ありがとうございます。
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