●●●●との日々①(元気いっぱいっぽい)
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、」
暗闇を駆け抜ける。夜風の冷たさが、顔と体についた赤のぬるみをより強く実感させる。
ごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
「ハッ、ハッ、ぐっうぅううう」
喉笛に歯を突き刺したあの感触が、焼ける痛みと共に口にこべりついている
それがどうしようもなく、不快だった。
あの白い炎…お兄さんは『聖職者』だったんだ…
助けてくれたのに、手を差し伸べてくれたのに。こんなボクを、人として扱ってくれたのに。
こんなことになるなら、捕まれば良かった。
見苦しく醜態を晒して、生に縋り付くべきじゃなかった……死ねば良かったんだ。
それなのに、まだ自分のことばかり考えてる。自分が起こした惨状から目を背け、あの場から逃げ去り、自分の罪の苦しみから救われる為だけに…許されたいがために謝罪を心で唱えている。
赦しを乞うべき相手は、もう、いないというのに。
闇の中、満月の光だけが道指し示すかのように照らしている。
お前にはこの道しかないのだと、今更人間として生きることなど出来やしないと……そう語りかけてくるようだった。
ボクにとってその月明かりは、呪いでしかなかった。
○●○●
浴場の前であの子の洗身を待っていると、扉が開く。
ここの宿屋は比較的安いところなので、浴場も1人用のものが一つだけ。
普段は順番待ちだが、まだ昼前ということもあり、誰も並んでいなかった。
なのでスムーズに沐浴出来たみたいだ。
「……お、お待たせ……しました…」
そのこの姿は、ブカブカの白いシャツを一枚来ただけのシンプルな格好。まだ子供なので俺のシャツだと膝上くらいまで隠れている。
落ち着かない、といった感じでソワソワしている。
だが、少なくとも、初対面時の理性のない獣のような態度を取るのはやめたようだ。それでよろしい。
「流石に服がでかいな、また今度買いに行くか」
「えっ」
「え、なに?」
「い、いいの?」
「だって服ないじゃん?」
「そ、そう、なんだけど…」
俺、何か変なこと言ったか?まぁいいや、こんな格好で共用部にいさせるのもよろしくない。
「とりあえず部屋に戻るか」
何か言いたそうにしているが、一旦、部屋に連れ戻ることにした。
部屋に戻り、とりあえず一息…の前に……
「うーん……」
「な、なに?」
その子の髪を見つめる。アッシュグレーの髪が先からポタポタと水滴が落ちている。
「そのタオル貸して」
「え?あ、はい…どうし–––んわぷぁ」
俺はそのタオルでその子の頭を包み優しくわしゃわしゃと拭いてやる。
あんまり雑にやると髪の毛痛むから優しくね。ユミちゃんにも最初雑すぎって怒られたっけな。
「ちゃんと拭かないと風邪ひくぞ」
「…わ、自分で…んむっ、あの、んぷぅ」
……まぁ、こんなものでいいだろう。
「…はぁ、はぁ、……あの!ちゃんと自分でできるから!子供扱いは……ひぁっ?!」
「はい、じゃベッド行って布団にくるまっとこうね」
「ひぁあああ」
何か言ってる気がするが、取り敢えず無視して抱き抱えてる。そのまま流れるように、ベッドに降ろして布団でぐるぐる巻きにしておく。
「よしよし!」
完成!それいけ!布団巻き寿司ちゃん!
これは傑作だ。
「う…動けない」
「今更だけど、自己紹介だ。俺はリュート・ベルクニフ。人間です。お次どうぞ」
「え?え?このまま進めるの?あ、えっと…ルウ・ロウランです」
「ふーん、ルウ君か…まぁとりあえずよろしく!ちなみに!俺は貧乏なのでタダでお前の面倒を見るつもりはありません!一緒にクエストを受けてもらいます!」
『やっぱりそうだよね』そう呟きながら彼の表情が沈んでゆく。
なんだぁ?その憂いを帯びた表情はぁ?ただ飯食らおうとしてたのかぁ?世の中なぁ、そんな甘くねぇだよなぁ…舐めて貰っちゃ困るぜぇ。
「なに?魔物を引きつける囮でもすればいい?」
は?なに言ってんのこの子。怖。
「いや、普通に薬草採取なんだけど」
「……え?」
「いや、俺、薬草採取とか安全な仕事しか受けるつもりないし、君にもさせるつもり無いけど……?」
「そ、そんなので…いいの?」
カッッッチーーーーン。
今こいつ『そんなの』って言ったか?そんなのぉ?俺が毎日汗水垂らして生計を立ててる立派なクエストを『そんなのぉ』?
頭に来ましたよぉ。薬草採取がどれほど大きな仕事か『わからせ』る必要があるなぁ?テメェ、明日覚えとけよぉ……?
「じ、じゃあ、今から、受けに行く?」
「………」
今日はもうお休みにしようかと思ってたのですが……え、この子の俺よりやる気ある感じ?その年でもうブラック企業適正付けてんの?なんか可哀想に思えてきた。
「とりあえず今日は休め、明日のためにも体力を温存だ」
まだまだ子供ですし?過重労働させて倒れられたら俺もう人間として終わっちゃう気がするし?今のうちにしっかり休んでおいて貰いましょう。
決して、俺のやる気がこの子より劣っているとかそういうわけではないので、悪しからず。
次の日から、俺のクエストにルウという仲間が加わった。
「お兄さん!こっちこっち!こっちにもあるよ!」
「はは、そんな焦るなよ。薬草は逃げたりしないぞぉ〜」
ルウは存外真面目……というよりかは、なんだかすごく楽しそうにクエストをこなしていた。
だが俺はそんな気軽になれない。なかなかに切羽詰まっている。
借金地獄という状況なので、ラミアさんとの時間を毎日作るのが難しくなった。
俺の血を、密封力の高い瓶に詰め、それを何本か献上させていただくことでなんとか納得していただいた。
寂しそうな顔をさせてしまった。俺まですごく悲しい気持ちになったので、なんとかしようと色々試行錯誤している。
色んなお店に『俺とこういう商売してみないか?!』というようなプレゼンをして回っているのだが…中々難しい。少なくとも今すぐお金にするというのは難しそうだ。
今のところ手応えがあるのは、サキュバスと共にそういうお店のオーナーをしているダークエルフさんのところだが……実装しようとすればそれなりに大規模になってしまうので、ゆっくり進めて貰っている。
でもまぁ、ルウのおかげで思ったより早めにお金が貯まりそうだ。
血液献上会の再開ももうすぐかもしれない。
本当によく頑張ってくれている。
「あ、見て見て!あそこに群生してる!今日は豊作だね!」
「すごいなぁ、ルウ!よく見つけれるな!」
くる日もくる日も薬草採取。
「お兄さんこっちー!」
「ははは、待て待て」
くる日もくる日も……
「あそこに––––」
「は、ははは、もう少しゆっくり––––」
––––––––はぁ、はぁ、はぁ」
「お、お兄さん大丈夫?」
おかしい。俺の身体能力はかなり向上しているはずなのに……この子なんなの?!
子供は風の子元気の子なの?!
「き、今日はもう帰ろう」
「そうだね。ごめんね?1人で突っ走っちゃって……ボクって本当にダ「こら」––いてっ」
よくないことを言おうとしたのでルウの額に俺の鋭いチョップをお見舞いした。
自分の額を両手で抑えながら何事かとこちらを凝視するルウ。
「そんな簡単に自分を卑下しない。頑張ってくれてんのに、ダメなわけないだろ」
「……ありがと、お兄さん」
「ほら、帰るぞ」
「あ、ま、待ってよ!」
彼とクエストをこなすのも悪くない。
こんな日々に居心地の良さを感じできた頃、その日は突然やって来た。
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