●●●●との出会い(結構しっかりしてるっぽい)
「おはようございます、シェムハザ様。今日も無事朝を迎えられたことを感謝いたします。加護を与えてくださっていること、見守ってくださっていること、あなたの存在に感謝いたします。どうかあなた様にも幸が在らんことを」
両手を握り込み、地面に片膝をつけ、祈りを捧げる。
その先には、俺が自分で作った出来の悪い偶像。
それでも、何もないよりマシだろう。
……今度腕の良い職人さんがいないか、ガゼンさんに尋ねてみよう。
しばらく、祈りを続ける。
…………よし。
さて、では本日も張り切って行きますか。
○●○●
今日も食い扶持を稼ぐ為、ギルドの扉を開こうと––––
なんだか、扉の向こうから何やら騒がしい声が聞こえてくる。
ま、とりあえず入ってみるか。
中へ入ると、その先に騒ぎの渦中がすぐに見え始めた。
そこには持ち上げられてるボロボロの格好をした子供。10歳くらいだろうか?
その子の服の襟を掴み、持ち上げているガゼンさんと、その取り巻きさん達の姿。
その子供の首には枷が付けられ、その楔をしっかりとガゼンさんが握りしめている。
その子は大人複数人に囲まれているにも関わらず、宙で暴れ続けている。その様相はまさに凶暴と言ったところだ。
「ぅ"う"う"う"う"ッ!ガァアアアッ」
「良い加減にしろガキ!ちっ、こいつ言葉を話せないのか?!」
「ガゼンさん、こいつはもうダメだ。さっさと衛兵に渡して––––––
「こんちゃーす!ちゃっす!ちゃっす!ちゃーーっす!」
そんな中へ俺はいつも通り声をかける。
「なになに?どうしちゃったんすか?そのガキなんかやっちゃった感じすか?わら」
「………」
「………」
なんかまたスベってしまったらしい。
……そろそろ自分を自分で認めてあげよう。俺は、多分、つまらない男なのだ。
……あ、やばい、涙が溢れそう。
「リュートか。こいつなぁ……最近この辺で盗みを働いてたみたいなんだ。どうやら身寄りもないらしい……何かを聞こうにも……
「ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!」
……とまぁ、こんな感じでなぁ。まだこんなちっせぇガキだ、憲兵に突き出すのもどうかと思ったんだがなぁ……」
「ガゼンさんがわざわざ面倒見てやる必要ないっすよ!」
『そうだそうだ!』と、取り巻きさんが一致団結し始める。
冷たいことを言っているように感じるが、これは仕方のないことだ。責任を取れないなら中途半端なことをしてはいけない。
「でもなぁ……」
やっぱ、優しすぎだよあんた……
ということで、
「じゃあ俺が面倒見るっすよ!」
俺が引き受けてしんぜよう。
「……お前、大丈夫なのか?…その、色々とよ」
「だーじょぶっすよ!いつもガゼンさんに面倒見てもらってるんで!こういうのは循環させなきゃダメでしょ!あ、勿論ちゃんとガゼンさん達にも恩返しするんで期待して待っててくださいよ〜〜?」
「俺たちの事はいいが……」
俺は任せて下さい!という意思を伝える為、バチコーン⭐︎と力強いウィンクをしてみせる。
「……はぁ、わぁったよ。一旦、お前に預ける。何かあったら俺達のところに来い。最初に手つけたのは俺たちだ、だから遠慮なく言え」
『あざす!なんかあったらすぐ言います!』
と言い彼を受け取る。
「ガァアアッ!」
「おぉ、すげえ暴れっぷり」
俺はその子を傍に抱え、小さな手足で顔などをボコスカ殴られながら彼を連れて帰る。
流石に今日はクエスト無理そうだなぁ、仕方ないかぁ。
○●○●
「ァアァアアッ!」
「こら、暴れん–––おわっ?!」
なんとかこの子を部屋に運べたという緩みで脱出されてしまう。
「ぅう"う"う"」
四肢を地面につけている。両膝を曲げ、足の指がいつでも地面を蹴れるように踵を上げている。掌底を床につけ、指はそれぞれ、力がこめられ鉤爪のように曲がっている。
獣がとる警戒の姿勢。
その子はずっと、こちらを睨みつけながら唸り声を上げている。
まるで人ではないかのように。
だが、俺はその子に人として語りかける。
「はぁ……そろそろ、何もわからないフリをするのはやめたら?」
「…ッ、」
その言葉に、その子はつい動揺を見せてしまう。
「自分で自分の文化レベルを下げるのはしんどいだろ」
わかる、わかるよ。今ではもうあんまり記憶は残ってないけど、俺もこの世界に生まれ落ちた時に初めて感じた屈辱は忘れないよ。
頭は成人男性なのに、赤ちゃんのふりをせざるを得なかったあの頃の恥辱……記憶になくとも感覚だけは覚えている。あれはもはや尊厳の冒涜ですわ。
あの時の俺見てるみたいでもう見てらんないんだよね。
「とりあえず大人しく待ってな、今飯持ってきてやるから」
唖然とした表情を浮かべたままのその子を置いて、俺は一階の食堂で頼んでいた食事をとりに行く。
「おぉおぉ、ちゃんと大人しくできんじゃん」
部屋に戻ると、そこには静かに待っていたあの子の姿。実に偉いですねぇ。
「そんないい子には…ほれ、ご褒美だ」
食事を乗せたトレーをそのまま机に置く。その子の枷を外し椅子へ座るよう促す。
目の前の子は驚きの顔を見せるが、俺は気にせずそのまま続ける。
「ほら、食べな」
ちゃんと味わえよ……これ、俺がいつも頼んでるやつの二倍くらい金かかってるんだからな。
「あ……」
目の前の食事に、その子のお腹の音が鳴る。
肌も、髪も、薄汚れている。匂いも酷い。服装もボロボロだ。
椅子に座ったその子は、戸惑いながらもトレーに乗ってるスプーンとフォークに手に取り、少しずつその食事に口をつけていく。
「うっ……ぅ、ック、んぐぅ、うぅぅ」
ポロポロと涙を流しながら、どんどん口をつけてゆく。
小さな嗚咽を混じらせながら、本能の赴くまま腹を満たす。だが、両手を使い、しっかりとカトラリー握るその姿は立派な『人』と言える。
「美味いか?」
「おい…しぃ……おぃしぃよぅ……ぅぁあぁあぁ」
「ゆっくり食いな」
『泣くか食うかどっちかにしろ』なんて、目の前のこの子に冗談でも言えない。
暗めのアッシュグレーの髪。
その色の中に、薄いものや濃い灰色が混ざっている。
……うーん、なんか人間の髪とは違ってモフっとしてんね。
どっちかと言うとシャルを撫でてる時の感覚に近い。いやでもまた違う……ちょっと毛質が硬いな。
バクバクと、休まず手を動かし料理を口へと運び続けるその子。
……お、美味しそうに食べてるね…俺もなんかお腹減ってきた気がする。
「……食べた」
しばらくすると、そう言葉をかけられた。
皿を見てみると綺麗さっぱり、全て無くなっていた。
……ちょっと残してもらった方がよかったかな。
「そうかそうか、そりゃ良かった。……何か言うことは?」
「…ぁ、ありが、とぅ……」
「どういたしまして…ほんじゃま、次は体洗うか。洗ってやるから一緒に行くぞ」
普通に臭いしね。
俺は棚からタオルを取り出し、その子を連れて行こうとすると……
「い、いい!1人で洗える……から!」
「……逃げたりしない?」
「に、にげない!から!」
「じゃあ、まぁ、扉の前で待っとくよ…」
流石に恥ずかしいのか?まぁ初対面だし、そりゃそうか。
何に恥を感じるかでその人の生活レベルが窺える。この子はそれなりにちゃんとした生活を送っていたのかもしれない。
じゃあ、なぜ、あの子はあんなことになってしまっているのだろう……?
まぁ、今日はいいか。体を洗い終わったらちゃんと拭いてやって、今日はそのまま寝させてやるか。
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