プロローグ 今世と彼女との別れ
「ねぇ!なんでわかってくれないの!おかしいじゃん!これも全部ユミが悪いの?!ねぇ!」
彼女と付き合って3年。相手の深い部分まで理解でき始める頃だ。
ちょっとしたことで少し激しめの癇癪を起こすことは度々あった。
物を投げたり、泣き喚いたり、大声をあげたり。
でもその程度、ちょっと怒りっぽいところがあるだけの可愛い彼女のチャームポイント。
今回のように激しく感情をむき出すところにも慣れて来た……と思ってたけど…
「ま、待ってくれユミちゃん。ゆっくりお話ししよう?さ、流石に包丁は危ない…!由美ちゃんが怪我しちゃったら俺悲しいよ?」
だが流石に今回はまずい。
いつもは、手に持つとすれば、ぬいぐるみとか鞄とかiPadとかだけど……流石に包丁は殺傷能力が高すぎるよ。体で受け止めてあげれる自信がないぞ。
「うるさいうるさいうるさい!ユウトが悪いんだから!なんで連絡無視したの?!ユミが帰ってくるまで何してたの?!」
「ご、ごめんちょっとお風呂に入ってて…」
今回のお怒りの原因は、十分前に送られて来た『駅まで迎えに来て』というメッセージを入浴中故に返信できず、それに痺れを切らした彼女がそのまま家に到着してしまったことにある。
なかなか理不尽な話ではあるが、正論を言ったところで相手はより一層、冷静さから遠のくだけだ。
それと、自分も冷静になってはいけない。
今俺は素っ裸なのだ。髪も乾かせていない。
こんな格好で痴話喧嘩してるのを客観視してしまえば、きっと笑いが堪えられなくなる。
そしたらユミは絶対もっと怒り出す。
「ねぇ?!ユミいつもこの時間に仕事終わるのわかってるよね?!なんでそんなことも考えてくれないの?!いつもいつもユミを怒らせて何がしたいの?!ユミの中をぐちゃぐちゃにするユウトが悪いんじゃん!?」
ちなみにこのくらいの時間に仕事が終わる確率は三分の一である。
割と不規則なのだがそれも今は指摘してはいけない。
「ちょ、ちょっと待ってユミちゃん、振り回しちゃダメだ!あ、危ないよ?!物を振り回す時、よく手からスッポ抜けるんだから、せめてちゃんと握らないと自分に刺さ––––
自分の顔に目掛けて飛んでくる包丁。
その光景を最後に、俺の意識は途切れてしまった。
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