第1章 影の会議
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夜の帳が下りた王都の一角、灯火の乏しい石造りの建物の奥。
そこに集うのは、鎧に身を包んだ騎士でもなければ、市井の民でもない。
黒衣をまとった者たち。教会の密議に仕える者たちだった。
分厚い扉が閉じられると同時に、低い声が響いた。
「勇者レオンの名声は順調に高まっている。
だが、それだけでは足りぬ」
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卓の上には、羊皮紙が広げられていた。
そこに記されたのは、王都近郊で頻発する「魔族の襲撃事件」の報告。
ひとりの枢機卿が口を開く。
「民衆には恐怖が必要だ。
勇者の存在をより輝かせるためには、闇がなければならん」
「つまり……襲撃を煽るのか」
別の影が囁く。
「そうだ。必要ならば、我らの手で“魔族”を演じても構わぬ」
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議場に冷たい沈黙が落ちる。
その中で、ただ一人だけが微笑んでいた。
――教会の大司教、ヴァルター。
白い法衣に身を包んだ彼は、静かに手を組む。
「勇者レオンは純粋だ。ゆえに、こちらの筋書き通りに動かせる。
彼には“真実”など不要だ。大切なのは、民衆が信じる物語」
彼の瞳は氷のように冷たい。
「……そして、裏切りの勇者リオネルは、その対比として最も都合がいい」
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一方その頃。
王都から遠く離れた山岳地帯の洞窟に、僕たちは身を潜めていた。
ゼノが苛立たしげに舌打ちする。
「王都じゃレオンが担ぎ上げられてる。
それも全部、教会の筋書き通りってわけか」
ミレイアは拳を握り、苦しげに顔を歪めた。
「でも……レオンは本当は、疑っているはず。
私たちと戦ったあの夜、彼は確かに迷っていた……」
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リオネルは焚き火の前に腰を下ろし、剣を見つめていた。
揺れる炎に照らされる横顔は、どこか痛ましいほどに沈んでいる。
「……レオンは俺の後継だ。
だが、教会に縛られたままでは、いずれ――」
言葉を切り、拳を握りしめるリオネル。
その背中に、僕は静かに声を掛けた。
「なら、俺たちが証明すればいい。
教会の偽りを暴き、本当の敵を示すんだ」
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### 6(ラスト)
外では風が唸り、嵐の予兆が山々を揺らしていた。
やがて訪れるであろう激突を前に、影と影はそれぞれに策を練っている。
――勇者の名を巡る、二つの物語が動き出そうとしていた。
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